逃げ切れば勝ち!? 認知症を発症する前に天寿をまっとうするには
認知症といえば、がんと並んで最も恐ろしい病気の一つ。年齢とともに発症率は高くなり、長寿化とともに患者も増え続けている。この認知症、近年の研究で数十年にわたる病気であることがわかってきた。生活習慣しだいで、認知症を発症する前に天寿をまっとうすることも夢ではない。認知症の前段階「MCI」と診断されても、正常な状態に戻る人もいる。本特集では、国立長寿医療研究センターもの忘れセンター長の櫻井孝さんに「認知症から逃げ切る」方法を聞いた。
本特集の内容
高齢化の進行とともに増加する認知症患者
65歳以上の認知症患者数の将来推計
現在、認知症の患者は増加の一途をたどっている。厚生労働省の発表によると、2012年の時点で国内の患者は約462万人だったが、その数は年々増えており、2025年には700万人に達すると予想されている。65歳以上の5人に1人は認知症になっていることになる。もはや認知症は決して珍しい病気ではなく、誰がなってもおかしくない時代に突入しているのだ。
近年、認知症が大きな問題になっているのは、日本人の寿命が延びているからという事情もある。認知症の発症は年齢とともに高まる。下のグラフのように、80代前半で2割、80代後半で4割、90代前半で6割、そして90代後半では8割もの人が認知症になっていると推定される。以前なら、認知症を発症する前に脳卒中や心筋梗塞、あるいは感染症などの病気により亡くなっていたのが、寿命が延びることにより認知症を発症する年齢まで長生きする人が増え、結果的に認知症患者が増えているというわけだ。
認知症の有病率は加齢とともに増加する
では、私たちは、歳を取り、認知症を発症するのを座して待つしかないのだろうか。
アミロイドβがたまっても、MCIになっても、必ずしも発症しない
「逃げ切る」とはどういうことだろうか。
「近年の研究により、アルツハイマー病は数十年にわたる病気であることが分かってきました。詳しくは後述しますが、アルツハイマー病の主たる原因の一つに脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質が蓄積していくことがあります。このアミロイドβがたまり始めてから発症するまで20~30年かかります。つまり、認知症発症前の数十年間をどのように過ごすかで、アミロイドのたまりを遅くさせ、認知症を発症する前に天寿をまっとうする可能性があるのです」(櫻井さん)
先ほど、絶対に認知症にならない方法はないと書いたが、その一方で、「認知症になりやすい生活習慣」、逆に「なりにくい生活習慣」があることがさまざまな研究から分かっている。運動や食生活、睡眠、そして知的活動などにより認知症のなりやすさが変わってくるという話を聞いたことがある人は多いだろう。
さらに、アミロイドβが危険水域までたまった人でも必ずしも認知症を発症しないケースがあることも分かってきた。「米国のナン・スタディ(修道女研究)という研究により、アルツハイマー病を発症するレベルの量のアミロイドβがたまっていたのに、認知症を発症していない人が一定数いることが分かったのです(※詳しくは後述)」(櫻井さん)
また、認知症になる一歩前の状態「軽度認知障害(MCI)」(もの忘れは増えたが日常生活は自立して送れる状態)まで進行していても、すべての人が認知症を発症するわけではない。「生活習慣を改善することで、MCIの状態から通常の認知機能に戻る人が一定数いることも分かってきました(※詳しくは後述)」(櫻井さん)
つまり、40~50代という若い世代はもちろん、もの忘れが増えてきたと不安に感じる高齢者まで、生活の見直しで「逃げ切れる」可能性があるということだ。
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