230億の男、直近のトレードを振り返る

230億の男、直近のトレードを振り返る


トレードで230億円の資産を築き「一人の力で日経平均を動かす男」との異名を持つと言われるまでに至った個人投資家cis(しす)さん。この連載では初の書籍『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(通称cis本)の刊行を記念し、2月17日に八重洲ブックセンターで行われた「cisトーク」の内容を再構成してお伝えします。今回の記事では直近のトレードについての話題をご紹介します。(構成・平松梨沙)

子会社のIPOにあわせて、親会社で勝負した理由

担当 すでに資産230億円を達成しているcisさんですが、現在も日々のトレードをツイートされ投資クラスタをわかせています。まずは最近のトレードのお話を聞かせてください。印象に残っているところですと、今回の本の発売の直前、2019年の12月19日ソフトバンクグループの通信子会社・ソフトバンク(銘柄コード:9434)のIPO(新規公開株)に関連した売買がありました。

cis はい、上場日に公募割れして終わったアレですね。

担当 cisさんは2018年12月……子会社のIPO直後に、親会社であるソフトバンク・グループ(銘柄コード:9984)を420万株購入されましたよね。結果6000万円の損切りとなりましたが、あの買いの意図はなんだったんでしょうか?

cis あれは、親会社が連れ安してたので、その戻りを狙ったんですよね。子会社が無事上場できてその株価も上がったほうがグループにとって良いのは確かなんですが、もう資金調達した額自体は変わらないし、公募割れも事前の予想であれこれ言われていたので、8~9割の市場参加者は予見して、織り込んでいたと考えたんです。実際にはあんなに弱いと思わずにちょっとパニック気味になっていた結果で親会社も下げていたと思ったので、だから「おいしいかな?」と思って参加しました。

担当 ピンチとチャンスは紙一重っていう話もありましたけれども、なかでも恐怖心による下げについては、勝負に行くと。

cis ぼくは基本的に市場の値動きには順張りで動くんですけど、材料での上げ下げには、逆張りすることが多いんです。今回は、子会社下がっても親会社に入る収益には関係ないはずなのに、安くなっているからすぐに戻るんじゃないか、そういう感覚ですね。結局、一瞬プラスになったけどすぐ含み損になってしまい、損切りしましたけど。……ところで、このかぶりもの、もう脱いでもいいですか?

担当 わかりました(笑)。こちらがcisさんです。(一同拍手)

cis これ高かったんですか? すぐ脱いじゃってすみません。

福地 ちょっといいですか。本の構成を務めた麻雀ライターの福地誠といいます。今回の『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』のなかで、ビットコインについての話題もあるんですが、そこでもcisさんは「実体は変わらないのにイメージによって値段がものすごく下がっているからチャンスだと思った」って話をされているんですよね。今のソフトバンクの話とまさに同じ発想だなと思って、興味深く聞きました。

会場 どの悪材料だったら逆張りで、どの悪材料だったらエントリーしないのか、その見極めはどのような感じでしているんでしょうか。

cis 企業の価値と直接関係ない理由で暴落している銘柄を買うのは結構好きですね。ぼく自体が一番逆張りするのは、海外要因。直近で言うと、「トランプさんが何か言った」みたいなので下げた株はすごくいいですね。あと……不謹慎な話なんですけど、北朝鮮の「ミサイル下げ」。朝飛んできて先物暴落しているな、でもこれミサイル下げだから買うか、みたいなのはよくあります。企業価値には本来ほとんど関係ない下げですから。
 ここ数年はイギリスのEUからの独立、「ブレグジット」による日本市場の混乱もありましたけど、正直イギリスが独立してもしなくても、ほとんどの日本企業の価値は変わらないと思います。あれで日経平均が1000円も落ちたのは本当に不思議でしたね。週末に海外要因の何かがあったときは狙います。月曜に大きい市場のなかで最初の開くのが日本なんですが、だいたい日本がパニックになって、それがアメリカで落ち着くことが多いんで。

担当 個別株の材料に関してはいかがですか?

cis ちょっと前だと東レで、子会社の小規模な不適切会計によって親会社が大きく下げていたのは買いで勝負しました。本体の企業規模に対し、本来数パーセントの影響もない範囲のことなのに、株価を下げている場合には戻りを狙うことがあります。
 逆に、悪材料で逆張りしないパターンは、アメリカでの売上が高い企業の不祥事ですね。たとえば、神戸製鋼のデータ改ざん。アメリカの裁判所が本気出すとすごい賠償金がくるので、素直に買わないようにしています。
 なので「関係ないのに雰囲気で下がっている」みたいなもので勝負することが多いですね。何とかショックが起こったとして、何とかショックが関係ないだろう株を買う、というような。たとえばソフトバンクIPO不調による下げでほとんど関係ないはずのコンビニの株が大きく下がっていたとしたら、それを狙ったり、という形です。材料といっても証券会社のレポートは有象無象なのでほぼ無視しています。

誰もが呆然とする暴落に巻き込まれなかった守備

担当 次にサンバイオの取引についてです。再生細胞医薬品を開発するバイオベンチャーですが、この会社が新薬の承認を得られるのではないかということで、しばらくバブルにあったんですよね。しかし臨床試験が不調に終わったということで、株価がたったの5日間で1万2000円台から2400円台まで下落した。cisさんはサンバイオが暴落しているこの2月に38万株買い、その後戻したところで売却されています。

cis 朝一で36万株買って、寄り付いてから、株価がさらに上がり始めたので2万株買い足しました。それまで数日ストップ安が続いていたんですが、信用取引で買っていた個人投資家たちがもう投げざるを得ないというタイミングだったんですよね。

担当 証券会社からお金を借りて株を買う信用取引の場合、株の返済期限があるので、損しているタイミングでも株を売らないとならず、「投げ」が発生してしまう。そのタイミングだったと。

cis それが少なく見積もっても300万株ぐらいはあるだろうと言われていて。
 サンバイオの場合は売られている株がその時の株価で計算して、何百億円とあって、投機資金だけではまあまあなところで寄り付くのは難しく、下にオーバーシュートする(行き過ぎた変動をする)可能性が高いかな、ということで狙っていました。時価総額が中途半端に高いものには、デイトレ軍団たちの投機マネーが群がってくるんですが、すごいチャンスの状況でもだいたい80億円ぐらいで、なかなか100億までは行かなくて。
 需給の状態と時価総額がちょうどよくなったと思ったタイミングで買ったんですが、その後大きく上がった後また下がって、売るタイミングが遅れて、利益はだいぶ減らしてしまいましたね。

担当 cisさんは、サンバイオのバブルの最中にもエントリーされて、その後抜けていたんですよね?

cis 株価が6000円くらいのときに買っていました。そのときは治験が成功して、ストップ高が数日続いてから、寄りついたんです。そこを天井として5000円台まで下がっていったんですけど、利食い売りをこなしてまた上がっていくのを見て、これは相当上値があるんじゃないかな? と思って買っていました。ただ、治験が成功する可能性とか、未来の売上とかバイオ関連については詳しく調べている人がたくさんいるじゃないですか。ぼくが彼らを出し抜くのは難しいかなと思い、1万円いってからの9000円台で売ってしまいましたね。9800円とかでも買い増ししていたので、平均単価で考えると、そんなに利益は出ていません。
 あと、バイオ株って決算にあわせて増資をすることが多くて。

担当 増資すると、1株の価値が希薄化して、株価が下がりやすい傾向にありますね。

cis なので、決算またぎはしたくないと思って警戒していて、より早く逃げられたのはあるかもしれません。暴落の影響を受けなかったのはたまたまなんですけど、暴落を食らう可能性があったかというと、ぼくの守備寄りのスタイルではやっぱり低かったんじゃないかと思います。

担当 サンバイオについては、cisさんの周りでも損した人たちが多かったと聞いたんですが…。

cis けっこうやられていましたね。友人にも、1億2000万円の資産が4980万円の借金になったという人はいます。「こんなことあるのか」と呆然としていたので、彼が持っていた冷凍餃子を買ってあげたり、ご飯をおごってあげたりはしていますけど……。友人だからといって相場で使うお金を渡したりは絶対にしないですね。本当にキリがないんで。

TOBされるかも」という仮説を持った理由

担当 最後に聞きたいのが、カブドットコム証券。TOBを狙って買い込み、大株主になっていたら、この1月にKDDIによるTOBが決定し、決定直後からは200円ほど株価が上がったと。これは相当前から仕込んでいたわけですよね?

cis 1年近くは持ってましたね。でも、自分では3~5年くらいはかかる勝負だと思ってたんです。しかもぼくが予想していたのは、親会社の三菱UFJファイナンシャルグループによるTOBですから。それが結局KDDIだったので、正直運が良かっただけというか。

担当 ぼくはこの本を編集しながら、cisさんは「仮説で勝負」で利益を出してきた人、人の何手も先を読んで勝ってきた人だと強く思ったんですが(第2章「相場は仮説を生み出した人が勝つ」)、なぜ三菱がTOBするという仮説を立てたんですか。

cis まずある程度、安定的に黒字が出ていてキャッシュがいっぱいある親企業だったということがあります。あとは、子会社の社長や経営陣と親会社があんまり仲良くないとTOBされる傾向にあるんです。カブドットコムの社長は、三菱系列じゃないネット証券系から来た社長なんて、三菱グループとはそんなに仲が良くないんじゃないかなと考えていました。それが買った理由の一つ。
 もう一つ、TOBとは別で、2018年前半は、マネックス証券が仮想通貨事業に参入するというので、時価総額をすごく上げていたんですね。カブドットコムも経営体力はあるので、参入するんじゃないかなと予想してました。今となってはもう仮想通貨事業はお荷物なんですけど、当時に関してはこの2つのどちらかの狙いが当たればいいなと思って、購入しました。

担当 今回の発表が出なかったら、どうしていましたか?

cis 大きく下げないかぎりは持ち続けていようと思っていました。大株主が株を売ると売却コストが数パーセントかかるのでそれだけで損をしますし。また、カブドットコムは社員持株会による継続買があるみたいで、そうそう大きく下がることはないだろうと思っていました。なのでリスクはそれほどなくて、うまくいけばオイシイという感じの勝負でしたね。

トレードの難しさは関連指標の多さで決まる

担当 cisさんは最近FXについてもツイートされてますよね。

cis ぼくはそんなにFXが得意ではないんですが……。最近まで、ドル円チャートが、ダウ平均と日経平均に連動するかたちで順調に上がっていたんです。それなのに、ある時点で日経先物の上昇が止まって、でもドル円は上がっていって。完全連動しなくなったということはなにかチャンスがあるかもしれないなと思って、ドルを売ってみたんですがうまくいかなくてつらかったですね。この時は紙一重で大損しました。4000万円くらい。まあ、大損ってほどでもないかな。

担当 ぼくらすると大損どころではないですが(笑)。cisさんにも得意不得意はあるんですね。

cis 先物や指数に関する商品は、なかなか難しいです。株式の現物取引が一番難易度が低いと思います。指数先物>FX>株式現物ですね。
 先物って、関連する指標がめちゃくちゃたくさんあるんですよ。海外の指数との連動性も高いし、アルゴリズムによる売買も入っていて展開が速いし、あんまりスキがないんです。それでもぼくが指数先物をやっているのは、大きい金額が張れるからですね。金額が大きいから派手に見えますが、そんなに勝っているわけではないです。
 個別株に関しては、買われているのであれば、その直近の値動きは上がる可能性が高い。株価の上下って、他の取引に比べればだいぶ素直ですよ。

会場 私自身、市場関係者で個別株ができないんですが、なにかいいアドバイスをいただけないでしょうか?

cis そうですね…ETF(上場投資信託)はできるんですか? それでは日銀のETFの配当調整で売りに出されるタイミングで買って持っておくというのは、期待値が高いかなと思います。もちろんいつルールが変わるか、いつ日銀がETFを放出し始めたりするかっていうのは分からないから、少し微妙ではあるんですけど。何かETFを日銀がらみで、売買していいことできないかなというふうに、ぼく自身も見ています。

会場 アルゴリズムも参加するようになっている世界で、個人投資家に勝ち目はあるんでしょうか?

cis 完璧なAIというのは、まだまだ出てきてないですよね。お金の運用にはリスクコントロールも必要になるので、人がAIに足かせをつけている場合が多いんじゃないかとみています。「倒産リスクが非常に高い株を買うな」とか、「ひとつの銘柄でのとれる最大リスクはいくらまで」とか、「会社全体で投資する金額はいくらまで」とか。
 なのでこちらが勝つ余地はあるといえばあるし、AIのトレンドがどうなると予見して先回りするという戦略も、今後1~3年くらいの直近の取引では有効かもしれません。



230億の男が明かすトレードのスタイル


トレードで230億円の資産を築き「一人の力で日経平均を動かす男」との異名を持つに至った個人投資家cisさん。この連載では『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(通称cis本)の12万部突破を記念し、2月17日に八重洲ブックセンターで行われた「cisトーク」とその後の取材内容を再構成してお伝えします。今回の記事ではcisさんのトレードスタイルをこれでもかと深堀りしています。(構成・平松梨沙)

新聞よりも早い情報は市場の値動きにアリ

担当 最近のトレードの話が一段落したところで、『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』の補足となるような話に入りたいと思います。まず、みなさんにお見せしたいものがあります。2018年2月に、cisさんが相場仲間としていたチャットの一場面です。

cis 基本的には、麻雀のメンツ募集のチャットグループなんですけど、確定しているけど覚えてられない情報……IPOとか増資の日程とかを聞いたりもしているやつですね。

担当 そこでcisさんが「7201 ご発注? と見せかけたガチくさい」と書いているんですが……これ、日産自動車(銘柄コード:7201)の話なんですよね。本の中でも出ていた話なんですが、誤発注にも見える規模の非常に大きな売りが出たけれど、普通に売られて売買が成立し、株価を下げて終わったという。それに対して、麻雀仲間であり、有名なトレーダーのますぷろさんが「よく見てる」と突っ込んでいる。こちらについて、説明していただいてもいいですか?

cis 日産自動車って値動きがほとんどなくて、トレーダーは普通やらない銘柄なんですよ。それを何で見ているのかっていう、disり半分褒め半分のコメントですね。実際、大半の人は見なくていいです。

担当 cisさんが幅広く市場の違和感をチェックしているんだなと感じるエピソードなんですが、見ていたのには理由があるんでしょうか?

cis ぼくの場合、今は運用資金が大きいので、時価総額が高くて流動性がある銘柄じゃないと投資できないんですよね。そうじゃないと売れなくて、資金が拘束されてしまう。日産自動車時価総額が高かったので、何かの事件やイベントがあったら投資の対象になるなと考えて見ていました。でも資産が100億円ない人には関係ない銘柄ですよ。このときは異常な……通常とは2桁違う売りが出ていて、おかしいなと感じたんですよね。
 その後の報道ではカルロス・ゴーンをめぐる不祥事に関する捜査が入ったのが春先だったという話があったので、何か関係があったのかもしれません。事件発覚後の憶測にすぎませんけど。

担当 これを見て、「一人の力で日経平均を動かせる男」は日経新聞より早耳な男かもしれない……と思いました。

cis ぼく自身は、この情報を何の売買にも生かせなかったですけどね。
 ちなみに日経新聞については普段きちんと読んでいるわけじゃないんですけど、日本株TOBのリークに関しては、これまでぼくが見た限りでは、今のところ100%当てているので、信頼しています。さっき話した「カブドットコム」のTOBも報道があった後に正式発表されましたし、過去報道されてからずっとTOBが発表されずに株価が下がり続けた「三菱レイヨン」も、数カ月後にちゃんと出ました。あくまで今のところではありますが、信じてもリスクとリターンが合うんじゃないかなと思っています。もちろん、今後外すことはあると思いますが。

会場 cisさんの情報源を教えてください。

cis 基本的には、Twitterとかネット証券の記事とかだけです。そのソースが、日経新聞なのかブルームバーグなのかロイターなのか週刊誌系なのかということを確認して、信頼性を判断しています。

230億の男のトレード環境

担当 事前に多かった質問なんですが、場中に見ている指標は何でしょう。

cis ほとんどなくて、日経先物と、ドル円、ユーロ円、マザーズ指数ぐらいですかね。
 個別株を30銘柄ぐらい表示させていて、それで何か違和感のある値動きがあったら「ドル円が死んでいるのかなとか」「ダウ先物が死んでいるのかな」と判断する。30銘柄というのは、セクター別に分けていて、たとえば自動車メーカーとか半導体メーカーのように海外の動向に敏感に反応する輸出系を30銘柄とか、金融・不動産系を30銘柄とか、連動しやすいもの別に整理して登録しておいて、それぞれをポチポチ見ています。切り替えながら監視しているので、実際は300銘柄くらいあるのかな。時価総額上位の500銘柄のうちの7割ぐらいをカバーしている体感です。昔は7画面使ってもっとたくさんの銘柄を表示させていたんですけど、今は目が疲れるので2画面になりました。

会場 本当に個別株ありきなんですね。個別株の違和感をチェックする力が半端ないなと思うのですが、それはマーケットの値動きをひたすら見るなかで磨かれてきたんでしょうか。

cis そうですね。相場で起きた過去事例も学んだりはしましたけど、それそのものが出現するわけではないので、日々の実際の取引で勉強していることが85%くらいですね。特に何かの本を読んで勉強したということもないです。

会場 ローソク足は何を見ていますか。

cis 基本板で、寄り付きからこういうふうに動いて、みたいなのは値動きをずっと見ているので、分足自体は表示せずとも頭のなかでイメージできています。その上で直近ではどのくらいの株価の位置にいるのかということを確認するために、日足と5日線と25日線をたまに確認するぐらいですね。何かの材料があって大きく動いてる株は、直近数日~数週間の過去の値動きとか時価総額を調べる、みたいな感じです。
 ドル円は5分足ですね。ドル円自体はたまにチラ見しかしないんで、覚えてないからです。
 25日線での売買は意識することがあります。一相場終わった後の25日線の値頃感を見て、また買いをスタートするという、昔の機関投資家はそういう傾向があったので。

記者 25日移動平均線割り込んだら損切りということが言われますが。

cis 2回目に割り込んだら、スイング(数日~数週間を意識した取引)では損切りしたりするんですけど、1回目はむしろ買ったりしますね。だいたい2回目の押し目で、ぼくは売ります。相場での1回目爆上げは、早売りしちゃうことも多く、その後に買い直すこともかなりあるんですけど、見てて下がってきて25日線で買うってケースは多いですね。特に外国人投資家が絡んでいそうな銘柄は、そうして買われる傾向にあるので。

担当 現在トレーダーとしてガッツリ相場に向き合っている時間は、前場の間……朝9時から11時半までなんですよね。

cis はい。MSCIのリバランスような大きなイベントがなければ、それで終わり。あたたかい時期は雀荘まで歩いていくなど、午後はなるべく運動するようにしています。昔は15時までの後場も張りついて、そこからアメリカ市場も見ていたんですけど、髪の毛は抜けるし、お腹痛くなって下痢になるし、体調がものすごく悪くなったんで。前場だけにしたら、まあまあ調子良くなりました。
 後場をやったらもっと勝てるかもしれませんが、健康と天秤にかけるとリスクが見合わないと考えて諦めています。携帯でポチポチするくらいですね。

担当 そういえば本の中で、投資家は運動しないし健康診断に行かないから体調が悪くなりやすいという話をされていましたよね。それで一度投資家仲間でひたすら歩き続ける企画を立てたとか。少しその話をしていただいていいですか。

cis 稼げている専業投資家って、2パターンに分かれると思っていて。ぼくみたいにガリガリになっていくタイプか、ますぷろみたいにどんどん体が大きくなっていくか、少なくともぼくの仲間内はどっちかで。それで健康と人間の野性の勘を取り戻そうと言って、8月の一番暑いときに東海道を歩いて、名古屋から東京まで向かう企画をやりました。1日30kmを目標に歩いて、その日その日で宿を予約して、雨が降ったら休んで麻雀したり……ということをやりました。人によっては歩きながら携帯をぽちぽちして売買したり。10年くらい前かな。ああいうことはまたやりたいですね。

現時点ではゲーム株は狙い目?

担当 暴落しているサンバイオの戻しを狙って買ったり、親会社によるTOBを見込んでカブドットコム証券を買っておいたり……。cisさんはさまざまな「仕込み」に成功しています。イベント前に募集した質問にもあったのですが、そのタイミングはどうやって決めているんでしょうか?

cis 何かしら決算や新作発表が出てその情報で買うってことはあまりないですね。その後の値動きで買うことはあるんですけど、情報が出た直後の寄りつきで買うってことはないです。ゲームの新作発表の前日に買うことはありますけど。

担当 それはなぜですか?

cis ゲーム株は本当難しくて、ぼくはそこまで売買してないんです。今のところ株価は市場規模に対してちょっと高いかなと思いますし、積極的に買って長く持つものではない。
 でも、今って、どんなタイトルであっても、またその新作発表がしけたものであっても、なんだか株価が上がる場合が多いんです。いつまで続くかわからないですけど。また、体感としてゲーム株に関しては、外国人投資家がやってくるのが遅い印象があります。買うのも遅いし売るのも遅い。

担当 どういうことでしょうか?

cis 任天堂は、ニンテンドーDSがものすごく売れてるときに株価がどんどん上がって6〜7万円になって、でも日本人は「もうDSはいいよ、ビンゴの景品になってもいらねえよ」となってる辺りでも、外国人投資家はまだ買い続けていた。情報が遅いのかもしれないですね。

担当 お越しいただいたみなさん、ぜひ、記事が出るまでに投資に活かしてください(笑)
 本の冒頭にも「手法は基本的には役に立たない」とあります。もしかしたら外国の方がこの記事を読んで広めて行動を変える、というようなことがあるかもしれません。そうするともう使えなくなる可能性がもあります。話せる範囲でこのような「今ある優位性」をご紹介する機会にもなれば……と思ったのが、今回cisさんにご登壇いただいた理由の一つです。

「あやしい売り」からどう逃げるか

会場 cisさんの本の中には「あやしい売りがあったらすぐ逃げる」という話が出てきますが、具体的にはどんな売りなんでしょうか?

cis うーん。難しい質問ですね。ぼくは効率良く売買するために、2万株の買いがあったらそこに2万5000の売りを入れたり、売り板が3万株だったとしたら4〜5万株の買いを入れたりと、少し多めにかぶせるようにしているんですけど、そういう注文を出したときに、瞬間的に約定して、さらに新しい売り板や買い板が足されるってことがあるんですよね。0.1秒もたたずに僕の買いがなかったような感じになるときはすごく警戒して、「買うのもうやめよう」となります。つまり、売りたいやつが後ろに控えすぎているってことですから、何かある。逆に、3万株の売り板に5万株の買いを入れたときに、2万株が約定せずに残って株価が上に行ったときなんかは、すごく買い増ししたくなります。

会場 ギリギリで逃げられたな、というエピソードがあったら教えてください。

cis 10年以上前にとある株を買ったときは、かなり危なかったですね。当時ストップ高買いというのが流行っていたんです。今で言うTwitterイナゴのような感じで、ストップ高になりそうな銘柄にワッと群がる。その株はその日10万5000円でストップ高になるというところで、ぼくは9万後半からチャンスだなと思って、9万9000円、10万円、10万1000円、10万2000円と買っていったんですね。それでストップ高張り付きで持ち株の8〜10割を売ったら美味しいことになるんじゃないかと思っていたんですが……とにかく買っても買っても売りが出るんです。それをあまりにも一瞬で買えてしまう。で、急いで調べたら、自分がもう筆頭株主になっていて。

担当 尋常じゃない割合の株式を保有していたと。

cis 筆頭株主になっちゃうくらい買えるというのは、何かしら変な力が発生しているなと思い、ストップ高まで待たず、10万円の節目買いの壁にぶつけて、一気に売り切りましたね。そうしたらその日の引け後に既存株主にとってすごく不利な増資のお知らせが出て、翌日はストップ安張り付きになった。あれは九死に一生だったなあ。そのときのぼくの資産が28億円とかだったんですが、40億円ぶんくらい買えていたので、本当に危険でした。ぼくとしては、そのとき何かしらインサイダー情報を持っていた大株主が売っていた疑惑しかないです。会社のことはほとんど知らないので、その会社に悪い印象はないんですが、何かしら漏れていた可能性が高いと思っています。

担当 本日お越しの投資家の皆様は、ぜひあやしい値動きに注意して、資産を守ってください。

cis サンバイオではそういう現象はなかったんですけど、バイオ系の株だと、株主に不利な増資が出る前の「これ明らかに漏れてるだろ」という下げはちらほら見ますね。危険回避はできるけど、それを利用して儲けることはぼくはできません。

会場 逆に謎の上がり方をしている銘柄があったときに「これに乗るとさらに上がるんじゃないか」と推測することはありますか?

cis 株が買われている時には意外と、年金マネーだったり投資信託だったり海外系の指数組み入れだったりという、いわゆる「盲目の資金」のことが多いんですよ。それは好材料があるわけではない。なので、上がっている株を買うほうが、いいことが起きる可能性は高いと思います。

担当 仕手筋が入ってそうな株はいかがですか? 動きのなかった小さい株が動き出したぞというような。

cis そうですね。仕手っぽい場合は値動きだけ見ればいいので、ぼくはその対応を得意にしてきたんですけど、いまは大きく売買しないようにはしています。いまの運用規模では仕手筋に乗っかってぼくが大きい売買をすると、他の人の判断に影響してしまいますし。

担当 逆に言えば、1000万円くらいの資産を1億円に増やしたいなら、そういう局面で勝負するのもアリなんでしょうか。

cis リスクとリターンの関係なので、その人次第ですよね。仕手っぽい値動きに限らずですが、短期売買に関しては、値動きと流動性があればあるほど、ぼくは効率が良いと思います。

(「230億円の男が考える資産運用の話」(3月20日公開予定)につづく)

生ける伝説、独自の投資・勝負・人生哲学を初開陳!
一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学

一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学

cis
KADOKAWA
2018-12-21