17歳の少女、遺伝子組み換えウィルスで「スーパー耐性菌」退治に成功。退院可能なほどに回復
17歳の少女、遺伝子組み換えウィルスで「スーパー耐性菌」退治に成功。退院可能なほどに回復
まだ完治ではないものの、大きな前進
17歳の英国人少女Isabelle Carnell-Holdawayは、肺移植手術を受けた際にスーパー耐性菌に感染しました。やはりあらゆる抗生物質を使ってみても治療の効果はなく、医師も途方に暮れるほどでした。ところが、両親の希望もあって遺伝子組み換えバクテリオファージ研究を専門とするビッツバーグ大学のGraham Hatfull教授に連絡を取り、効果が期待されると報告された遺伝子を組み替えたファージを投与する実験的治療を試してみたところ、非常に高い効果が現れ、少女は日常生活に戻ることも可能と考えられるほどに回復しました。
医師が試したのは、3種類のバクテリオファージと呼ばれるウィルス。バクテリオファージは細菌の細胞内に侵入して細菌を崩壊させ、さらに流出したバクテリオファージが隣接する細菌へ侵入というプロセスを繰り返すことで、細菌を死滅させてゆきます。
医師らは、3種類のバクテリオファージに対して、この耐性菌を効率よく退治するよう遺伝子編集を施しました。そして1日2回ずつ少女へ投与するとともに、耐性菌の感染によって発生していた皮膚の病変部分をきれいに戻す治療を行いました。
その効果はてきめんで、そのままでは命に関わることになっていたかもしれない少女の病状は一気に快方へと向かいました。NPRが伝えるところでは、現在では(完治ではないものの)感染症状がなくなったうえに副作用も無く、退院して自宅に戻るという少女の目標をほぼ実現したとのこと。
遺伝子組み替えウィルスを使った治療はまだ実験的なもので、この少女への治療が初めて人間を対象として行われたものでした。したがって、もしわれわれがいま何らかの感染症で入院して「バクテリオファージお願いします」と言ったところで、その治療が受けられるわけではありません。遺伝子組み換えの有無にかかわらず、バクテリオファージ投与の有効性や安全性を判断するには、まだまだ調べなければならないことがたくさん残っていると言われています。
それでも今回の少女の治療においては、遺伝子をわずかに組み換えたウィルスが、スーパー耐性菌が引き起こす様々な難治性の感染症の治療に明るい光を投げかけたと言えそうです。これまでなら厳しい運命を受け入れざるを得なかった人々にも、当たり前の日常に戻れる機会を提供するようになるかもしれません。