楽天の「光免疫療法」考案者「壊れたがん細胞が免疫細胞を活性化」

楽天の「光免疫療法」考案者「壊れたがん細胞が免疫細胞を活性化」

2019年8月5日

 楽天は7月31日、三木谷浩史会長兼社長が出資し、会長兼CEO(最高経営責任者)を務める楽天メディカル(米カリフォルニア州)に1億ドルを追加出資した。今回の出資で、楽天メディカルは現在臨床試験の最終段階にある光免疫療法の販売体制整備の準備を開始する。三木谷氏がこれだけ肩入れする光免疫療法とはどういうものか。大本の研究者である米国立衛生研究所(NIH)・国立がん研究所の小林久隆氏に聞いた。
国立衛生研究所(NIH)・国立がん研究所の小林久隆氏
光免疫療法は、2011年に米医学誌「ネイチャー・メディシン」に小林氏が発表した研究を基にしたものだ。その発案から、楽天メディカルの前身の米アスピリアン・セラピューティクスとの契約に至る経緯は?
小林久隆氏(以下、小林氏):がんなどにくっつく抗体に化合物を付けて、診断や治療に利用しようとする研究をする中から、IR700という化合物を見つけた。2012年に特許が公開されて、大手や中堅の製薬企業、ベンチャー企業などがライセンスを受けたいと手を挙げてきた。そのうちの1社が、アスピリアンだった。
 アスピリアンに決めたのは私ではなくNIHだが、その際、私もアドバイスを求められた。大きな会社だとお金はあるけど、他のプロジェクトとの関係で開発がストップしたりする。その点、ベンチャーはお金はなくても、開発をきちんと進めてくれるのではないかと思った。
どういう作用メカニズムなのかを教えてほしい。
小林氏:細胞の膜の上にある、がん細胞だけが持つ抗原たんぱく質に抗体がくっついた状態で光を当てると、化合物の構造が変わってその影響で抗体の形が崩れ、抗原たんぱく質が細胞膜から浮いたような状態になって、最終的には細胞が死んでしまう。化合物自体が細胞を攻撃するわけではないので、光を当てなければ何も作用しない。
 抗体が抗原にくっついていて、かつ光を当てた時にだけ作用をするので、がん細胞だけを殺せる非常に安全性の高い治療法になると考えている。抗体に化合物をくっつけた抗がん剤は他にもあるが、それらはがん細胞を攻撃する化合物を使っているので投与量を増やすと副作用が生じる可能性がある。
「光免疫療法」という名称を付けた理由は?
小林氏:最終的にはがん細胞は破裂して、中にあった様々なたんぱく質がそのまま出てくる。光を当てるだけで熱を加えるわけではないので、出てきたたんぱく質はもともとの形のままで周囲にある免疫細胞を教育して、がん細胞に対する免疫力を活性化することができる。放射線治療など他の治療法では免疫を衰えさせてしまうが、この治療法はがん細胞の周りにある免疫を活性化させられるのが特徴だ。
楽天メディカルの経営には関わっていないのか?
小林氏:公務員の立場なので関わることができない。その辺りは米国も厳格だ。