2011/1/29(土) 午後 0:33

<流離いの雀士魔神、エピソード3>

向かうところ敵無しの絶頂期のおいらだった頃。。。
10年ぶりに歌舞伎町に立っていた・・・
{昔、通い詰めた雀荘はどうなったかな。}
そんな郷愁の思いは、変わり果てた歌舞伎町の姿の前に瓦解した。
人も街もすっかり様変わりしたようだ。
{たしか、ここら辺に・・・}
影も形も無くなった雀荘の後には、しゃれたパブが姿をみせていた。
少しがっかりし、視線をパンさせると鄙びた雀荘が見えた。

{ちょっと遊んでみるか。}
階段を登って2階の扉を開ける。
ガランとしたフロアの隅で一卓立っていた。
「いらっしゃい・・・初めてですね」
マスターと覚しき、目元涼しいキリッとした人物が手招きしている。
「ええ、ここは初めてです。少し見学してて構わないですか?」
おいらは臆することなくさりげなく云った。
「かまわないですよ、一応ルールを説明・・・」マスターの言葉を遮って「いえ、見てればわかりますので」
とおいらは告げると卓から少し離れた所に椅子をかまえた。

常連が卓を囲んでいるようだ。
皆、チラッとおいらを一瞥すると無視するように無言でゲームを再開する。。。
しばらくすると、「やりますか?」とマスターが云った。
プロ通しの対戦じゃないのはすぐにわかった。
甘い打ち筋は下手の横好きの集まり・・・
「ええ、やってみましょうか。」

皆の同意を得て、次の半荘(ゲーム)から卓に入った。
おいらの後ろにマスターが座った・・・
流しのプロかも知れないと、イカサマを警戒しているのは見え見えだった。
真っ昼間に一人ぶらりと入ってくる新参者に、ろくな者はいない。。。
イカサマの修行はとうの昔に封印していた、それに半端な技が通用するほど甘くはない。
おいらは純粋に打ち回しで達人の域を目指していた。
しばらく警戒していたようだが、普通に打っている姿に安心したのか色々と話しかけて来る。。。
やがて口数が少なくなった・・・真剣においらの打ち方に見入っているようだ。

半荘6回ほどやっておいらの一人勝ちであった。
点ピンウマなしなので、それほどの実入りでもなかったが、初めてのメンバーで負けなかっただけで良しとする。
「これで抜けます。」と云って立ち去ろうとするおいらにマスターはつぶやいた・・・
「麻雀ってこうやるものなんですね。」
雀荘のマスターに褒められたので思わず口元が緩んだ。。。
「またおじゃまさせていただきますよ。」と云って雀荘を後にした。
その後、再びその雀荘に足を運ぶ事はなかった。。。

終わり