バーナンキ議長の証言要旨

[ワシントン 29日 ロイター] バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は29日、下院金融委員会で経済・金融政策に関する半期に一度の証言を行った。議長の証言要旨は以下の通り。

◎証言原稿
 
<経済見通し>
米経済の回復は続いているが、拡大ペースは一定でなく、歴史的水準と比べると緩やかだ。実質国内総生産(GDP)は昨年上半期にわずかに増加した後、下半期に年率で2.25%増えた。
2012年の情報は限られているが、今後の数四半期は昨年下半期のペースに近い、あるいはそれをやや上回るペースで成長が続くことを示唆している。

<最近の労働市場の改善>
過去1年間の失業率は、この期間の経済成長が長期トレンド並みかこれを下回る水準だったとみられることを踏まえると、予想よりもやや速いペースで低下した。労働市場の改善継続には、最終需要と生産のさらに強い伸びが必要となる公算が大きい。
最近の指標は改善しているものの、労働市場は依然として正常な状態からはほど遠い。失業率は高止まりしており、長期失業は過去最高水準付近にとどまっている。経済的な理由でパートタイム勤務をしている労働者は非常に多い。

<失業率見通し>
2012年の生産の伸びが長期トレンドに近い水準にとどまるとの見通しを踏まえ、連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは、失業率が年内にさらに著しく低下するとは予想していない。
来年以降の失業率については、FRBの責務と一致する水準に向け、緩やかなペースでの低下にとどまるとFOMCメンバーは予想している。

労働市場と最終需要に関する指標が示す異なるシグナル>
労働市場と最終需要・生産に関する最近の指標が幾分異なるシグナルを発していることを踏まえると、景気回復の基調的なペースを判断するために、今後発表される情報を見極めることが極めて重要だ。

<欧州当局者の取り組みと課題>
欧州中央銀行(ECB)の3年物資金供給オペを含め、欧州はこのところ、建設的な政策措置を数多く講じた。ごく最近では、公的セクターからの追加融資と民間債権者による大幅な債務減免を盛り込んだギリシャ第2次支援策で合意した。
だがユーロ圏には財政・金融面で重要な課題が残っており、解決には欧州当局による協調措置が必要だ。これに加え、域内の多くの国で成長・競争力強化に向け、さらなる取り組みも必要となる。われわれは欧州の中銀当局と密接に連絡を取っており、状況を引き続き注視していく。

<インフレ圧力>
FOMCは1月に示した見通しで、インフレ率が向こう数四半期にわたり、法定責務に最も整合するとFRBが判断する2%の水準を下回って推移するとの見方を示した。2012年のインフレ率の中間予想値は1.4─1.8%となっている。
FOMC参加者は今年以降も、インフレが抑制された水準にとどまると予想している。
この1月の見通し以降、原油高が主因となりガソリン価格が上昇した。これはインフレを一時的に加速させる一方で、消費者の購買力を低下させる公算が大きい。われわれはエネルギー市場を引き続き注視していく。
調査や金融市場で示される長期インフレ期待は、インフレが引き続き抑制されるとの見方と一致しているもようだ。

<FOMCの示すFF金利目標レンジの意味>
フェデラルファンド(FF)金利誘導目標の目標レンジは引き続きゼロ─0.25%であり、FOMC声明におけるフォワドガイダンスの文言は、FOMCがどの程度の期間にわたりこのレンジが適切とみているかを示唆している。

FRBのバランスシート>
FOMCはFRB保有証券の規模と構成を定期的に見直しており、物価安定という文脈の中で景気のより力強い回復を支援するため、保有証券を適宜調整する用意がある。

<雇用目標の実現可能性>
最大雇用は、金融政策目標として物価安定と同等の立場にある一方、経済における雇用の最大水準は、労働市場の構造や力学に影響を及ぼす非金融要因によっておおむね決定される。したがって、いずれの中銀であっても長期的な雇用水準に関し特定の固定目標を持つことは適切でない。
しかしFOMCとして最大雇用水準の見通しを示し、かつ政策決定において見通しを利用することは可能だ。例えば1月に公表したFRBの最新見通しによると、FOMC参加者の長期失業率の中間予想値は5.2─6.0%となっている。
先ほど述べたように、経済における最大雇用の水準は変化する。例えば経済構造の変化や様々な経済政策による影響を受ける。もしある時点でFOMCが最大雇用水準が引き上げられたと判断すれば、それに従って金融政策も調整されることになる。

<雇用・インフレめぐる見解のバランス>
FRBの二つの目標である物価安定および最大雇用は通常、相互補完的とみなされる。したがって失業率が高止まりしインフレ見通しが抑制されている現在の状況では、かなりの金融緩和スタンスが両方の目標達成に適切とFOMCは判断している。
しかしこれらの目標が相互補完的でない場合、FOMCは目標を達成する上でバランスの取れた対処方法をとる。具体的にはインフレ・雇用水準が二重の責務と合致する水準からどの程度かい離しているかや、目標水準に戻ると推定される期間の潜在的な違いが検討される。

◎質疑応答
 
<欧州のリセッション懸念の影響>
明らかに、われわれ(米経済と欧州経済)には強い結びつきがある。わが国のGDPの約2%を欧州向け輸出が占めている。欧州が大幅な(景気)後退に陥れば、われわれもその影響を感じることになるだろう。米企業は大いに(欧州と)結びついており、例えばフォードやGMなどの企業は欧州にも米国にもある。
しかし、われわれが現時点で予想している通りに欧州が緩やかな景気後退に陥り、また財政状況が制御された状態であり続けるならば、その米国への影響は非常に深刻なものとはならない可能性がある。少なくとも、(米景気)回復の脅かすことにはならないだろう。ただ、もちろん一定の影響はあるだろう。

<最近のガソリン価格上昇>
それについては、われわれも懸念している。インフレに直接的な影響があるし、家計の購買力を損なうため経済成長にも悪影響をもたらす。それゆえ、われわれにとっては実に気がかりな問題である。
その一方で全体のインフレ率は低く、安定している。だから実際には、この特定の商品(ガソリン)の価格が他と比べて高くなっているというのが問題だ。

  <マネーサプライと量的緩和
「印刷(printing)」という言葉をめぐって議論があるのは認識している。実際には、これらの(主要中銀による量的緩和のような)政策によっては流通する通貨量に影響は出ていない。起きたのは、FRB保有する電子的な準備預金量の大幅な増加だ。それら(増加した電子的な準備預金)はそのままそこにあり、大した影響はない。今のところ、インフレを誘発したという兆候は出ていない。
 
<主要中銀とのドルスワップ協定>
(主要中銀と結んでいる)ドルスワップ協定は成功を収めているようにみえる。ドル調達市場における全般的な緊張を緩和させたほか、現時点でスワップへの需要は後退し始めているようだ。

<銀行による欧州へのエクスポージャー
非常に注意深く監視している。ただ、欧州のソブリン債、とりわけ周辺国国債への米銀の直接的なエクスポージャーは極めて限定的というのが、われわれの基本的な結論だ。規模の小さい周辺3国に比べ、イタリアとスペインへのエクスポージャーは幾分大きいことは確かだ。しかし、銀行が順調にソブリン債へのエクスポージャーを削減し、欧州銀へのエクスポージャーもある程度ヘッジしたと考える。
しかし、欧州で深刻な金融問題が発生した場合、米銀への主な影響は直接的なエクスポージャーによるものではなく、リスクテークや金融システムの信用失墜、経済的緊張のほか、一般的な影響拡大によってもたらされるだろう。そのため、米銀が欧州の銀行やソブリン債への直接的エクスポージャーに対処できるよう、われわれは可能な措置を講じてきたが、著しいリスクが存在すると考える。

ギリシャのデフォルトやユーロ離脱>
重要な問題だ。ユーロ離脱は極めて困難で、制御不能で無秩序なデフォルト(債務不履行)は多くの問題を引き起こすことになる。

<現在の金利水準>
金利が高すぎるかどうかは議論可能だ。ただゼロより低い水準には金利を引き下げられないとの制約がある。米経済は需要が生産能力を大きく下回っている状況だ。耐久財への投資規模も経済の生産能力を大きく下回っている。
これはある意味、金利を引き上げるのではなく、引き下げるべきだということを示唆している。だが金利を引き下げることはできない。金利はゼロまでしか下げられない。
また優れた収益をもたらす健全な経済は、預金者へのリターンという点においても最善だ。

<金融政策の限界>
雇用を最大雇用の水準に回復させる上で、金融政策は建設的だと確信している。フランク議員が2009年3月の著しい動きに言及したが、これは「QE1(量的緩和第1弾)」の開始時期と重なる。
2010年11月のQE2以降、250万人の雇用が新たに創出された。生み出された雇用すべてが、FRBの功績とは言わない。もちろんその他多くの要素も影響している。だが私は金融政策が建設的だったと考えている。
長期雇用および生産性向上がどの程度経済により持続可能かという点において、金融政策はその答えにはなれない。答えは民間セクターにあるが、貿易、規制、教育、インフラ、税制などの一連の経済政策を伴う必要がある。これらはすべて議会の管轄だ。

<住宅ローン元本の減免>
FRBは(住宅ローンの)元本減免について公式見解を持っておらず、明確な提言をしないよう注意を払っている。こうした決定は議会の権限と考えているためだ。
FRBとしては、元本減免についてバランスのとれた分析を提供するよう努めた。元本減免は複雑な問題だと思う。FRBとして目標に異論があるわけではなく、差し押さえや延滞を減らすとともに、転居を望む人を支援したいと考えている。しかし、状況によって代わりの選択肢が複数存在することがしばしばある。例えば、転居を可能にすることだけが目的であれば、物件の任意売却か、貸し手への任意返却が最も効果的な方法かもしれない。

<預金者への影響>
われわれは低金利に伴う預金者および金融機関への影響を注視している。預金者の大半について言えば、定期預金のような固定金利型の金融商品が退職者の貯蓄全体の10%弱を占めている。
そのほかにも株式やマネー・マーケット・ファンド(MMF)、企業年金(401K)など多岐にわたる資産を保有していることを忘れてはならない。これら資産から得られるリターンは経済の強さに左右される。
そのため景気後押しに取り組むことによって、われわれは株式市場の動向にも見られるように、リターンを大きくすることで預金者を支援している。
 
<2013年に控える大規模な歳出削減と増税
長期的な持続可能性を実現し、財政赤字が時間の経過とともに抑制されるという安心感を国民と市場に与えることは、信頼性および回復支援の強化という点で非常に重要だ。
ただ、同時に、短期的には回復を保護しなければならないと考える。現在の法律では、2013年1月1日に大規模な歳出削減と増税が導入されることになっている。議会がこの点を見据え、一度に多くの措置を実施することなく、長期的に同様の財政改善を達成できる道を見出すよう期待している。

<持続不可能な財政政策がもたらす結果>
財政の持続可能性を維持する能力に対し信頼が市場で失われた場合、数多くのリスクが出てくる。
最も極端な例は、金融危機、もしくは一部の欧州諸国で見られているような金利の急上昇が引き起こされるケースだ。
こうした極端な結果にならなかったとしても、赤字と債務が長期間にわたり高水準で推移した場合、金利が通常よりも高い水準に押し上げられ、投資が締め出される恐れがあり、成長と生産性に悪影響が及ぶ。