チャイナリスク

[ロンドン 1日 ロイター] 中国との領土をめぐる対立が深まる中、海外のファンド勢が日本への投資への懸念を強めている。この対立を背景に、日本製品不買運動や貿易縮小が憂慮されている。
日中の領土問題は、中国でこれまでにないほどの反日行動を引き起こした。トヨタ自動車<7203.T>などの輸出企業は両国関係の緊迫が収まるまで、生産量や販売目標の調整を余儀なくされる。
海外投資家が資金を日本から引き揚げる背景には、当面は永続的な和解に至らないとの懸念がある。日本の証券を専門とするファンドマネジャー(ニューヨーク)は「両市場が耐えうることのできない別の逆風だ。これは確実に悪化する見込みだ」と指摘した。

トムソン・ロイター傘下のリッパーのデータによると、日本のエクイティファンド1500社の資金は、1─8月に約12億ドルの純流出となった。8月末時点のこれらのファンドの総資産は910億ドル。
このデータでは、日本を含むアジア太平洋地域の大手ファンドが資金を引き揚げ始めていることも示されており、完全なデータが入手可能な上位10社のうち8社が昨年末から日本へのエクスポージャーを減らした。日中の領土問題に加え、リセッション(景気後退)や通貨をめぐる懸念なども背景にある。

空売りが加速> 

長期的な投資家が日本から逃避している一方、資産の値下がり局面で利益を得る株式投資方法の空売りが、今回の対立の長期化で下げが見込まれる企業の株式を中心に加速している。
サンガード・アステック・アナリティクスのデータによると、空売りへの関心を示す指標となる証券の貸し付け規模はここ数週間、日産自動車<7201.T>、ホンダ<7267.T>、キャノン<7751.T>といった企業で拡大。アステックのシニアバイスプレジデント、デビット・ルイス氏は、9月は日本の上場企業の多くにとって重要な配当時期でもあり、これが通常ない高い関心を寄せている可能性もあるが、それが全てではないと指摘する。
ルイス氏は日産の動きは配当の期日と呼応していないとし、英・オランダ石油大手のロイヤル・ダッチ・シェル<RDSa.L>や独シーメンス<SIEGn.DE>など欧州の企業では証券貸し付けのバランスをみれば、配当支払いのタイミングが分かる、と述べた。
日産は9月30日が配当の確定日で、9月27日時点の日産株の貸し付け規模は1億0500万株。2011年9月は8300万株だった。
ルイス氏は「日本の銘柄に対する一定の悲観的なセンチメントが明らかにある。ポジションも通常の配当時の裁定取引と呼応していない」と述べた。

専門家の大半が軍事衝突が起こる可能性は薄いとの見解で一致しているものの、一部の投資家では日中間の関係に永久的な亀裂が生じる兆しがあると指摘する。
日本のファンドマネジャーでさえ、この対立が長期的な見通しを曇らせることはないと主張しつつも、短期的な不確定要因に備えている。

<疑う余地のない影響> 

日中の尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題が経済に影響を及ぼすことは、疑う余地がない。ロイターが8月31日─9月14日に実施した調査では、日本企業の41%がこの問題による事業への影響を予測。一部は中国からの完全撤退さえ検討しているとした。
アジア太平洋地域への投資に馴染みの深いファンドマネジャーらは、この地域の各国間で日常のように起こるもめごとに対応する姿勢を学んできたが、今回の件はこれまでよりも危ういとみている。
全員が最悪の事態に備えている訳ではない。他の投資家は経済への影響から中国が対立をさらに深刻化させる可能性は薄いとみている。
アバディーン・アセット・マネジメント<ADN.L>の戦略およびアセット・アロケーション部門の責任者であるマイク・ターナー氏は日本に関する懸念が戦争絡みのリスクよりも好ましくない人口統計上の傾向や世界の景気減速にあるとし、「世界経済や貿易の状態から、問題がそれほど深刻化するか疑問だ。短気を起こして不利を招くようなもの」と指摘した。