“怠け”と誤解される異常な疲れ

慢性疲労症候群」の脳内に広範囲の炎症を発見!
“怠け”と誤解される異常な疲れとの因果関係

 疲れが他の人より強い。検査しても異常が見られない――かねてから「引きこもり」状態との因果関係の1つとして指摘されているのが、慢性疲労症候群CFS)だ。

 外から見ると、怠けているだけにみえるような状態であっても、実はその背景に、慢性疲労症候群と診断される症状が隠れている場合もあり、安易な偏見で怠けと決めつけるのは禁物といわれている。しかし、慢性疲労症候群の概念自体、診ている医師が少ないこともあり、あまり一般的には知られて来なかった。

 最近、そんな慢性疲労症候群の患者は、脳内の広い範囲で炎症を起こしていることが、大阪市立大学理化学研究所などの研究チームによって解明された。今後、引きこもり状態の背景にある客観的なメカニズムに迫るうえでも注目されている。

脳内で炎症が起こる慢性疲労症候群
原因不明、まだ治療法は確立せず

慢性疲労症候群とは、関節痛や筋肉痛、発熱、異常な倦怠感のような状態がずっと続いていく症状。医学的な調査や研究は進められているものの、いまだに原因不明で、治療法も確立していない。
 今回のメカニズムを解明したのは、理研ライフサイエンス技術基盤研究センターの渡辺恭良センター長、水野敬研究員、大阪市立大学疲労クリニカルセンターの中富康仁研究員(ナカトミファティーグケアクリニック院長)、稲葉雅章教授らによる研究チーム。
 脳内で起こる炎症は、ケガをしたときに皮膚が赤く腫れるような状態で、健常な人の脳にも、ある程度起きる。
 しかし、無理をすると、炎症の度合いが強くなる。すると、脳の神経がダメージを受けて、回復が難しくなっていくと考えられている。
慢性疲労症候群は、脳の血流やカルニチンなどの伝達物質が少なくなり、代謝が落ちている状態だ。セロトニン神経系のダメージが大きくなることで痛みの感受性も増えて、筋肉痛や関節痛などの症状を引き起こし、脳機能も低下するのではないかと考えられてきた。
 そこで、中富院長ら研究チームは、脳内の炎症の程度を調べるため、炎症が強くなると増加する免疫細胞内のタンパク質数をPETで検査。健常者10人と慢性疲労症候群の患者9人のデータを統計的に数値化して比較した。
 その結果、患者の脳内では主に、視床、中脳、橋、海馬、扁桃体帯状回という部位での炎症が増えていて、健常者の脳内に比べると明確に差があることがわかったという。

ちょっと歩いただけですぐ炎症に
睡眠時間不足との大きな関係も

 「異動、昇進、就職など、環境や仕事の内容が変わって、体の負荷が過剰になったときに(無理を)続けてしまうと起こることが多いですね。おそらく脳内の炎症が強くなって、ダメージが続いていく。例えば夜遅くまで働いていると、体はアクセルをずっとふかして交感神経系が活性化していますから、寝ようと思ってブレーキを踏んでも急には眠れなくなったり、緊張状態が続いていたりすると、睡眠が浅くなることがあります。通常は睡眠で回復していきますが、そういう状況が続いて、脳でのダメージがある一線を越えてしまうと、自分の力だけでは回復できない状態が起こってくるのです」(中富院長)

 睡眠時間が短くなっていっても、そういう状態が習慣化され、頑張れてしまう人は少なくない。しかし、睡眠時間は、人によって必要な長さが違う。
 最近、睡眠時間が削られていく方向にあって、現代人は睡眠時間が以前よりも少ない。
 そんな中で、元々、睡眠時間の長いロングスリーパーのタイプは、周りの睡眠時間が短くなってきているために、自分では寝ているつもりになっていても、実は足りていない状況がよく起きていると、中富院長は指摘する。
 「脳がそのときの負荷などを回復させるには、睡眠はとても大事です。そこが障害されると、脳としては戻らないままになる。休みが取れないまま、脳がずっと動いていく状態になって疲弊して炎症が続き、簡単なことでも無理をしたように感じてしまうのだと考えられます」
 つまり、ケガをしている箇所をずっと触り続けていると、なかなか良くならないようなイメージだ。
慢性疲労症候群の人は、多少のことをしても脳が負担として大きく感じる傾向がある。例えば、ちょっと歩いて出かけるだけでも、すぐに炎症が起きてしまう。
 治療法については現在開発中で、まだ確立されていない。
 仮に炎症を抑える既存の薬を投与したとしても改善されるかどうかの保証はなく、逆に炎症は、人間のもつ自然治癒力の過程の中で起きている可能性もあるからだ。
 ただ、中富院長は「慢性疲労症候群についてはこれまで、知識や理解も少なく、医療従事者の中でも否定的な方が多かった。そんな中で、実際にこういう病態が起こっているという客観的事実は理解しやすく、大事なきっかけになるのではないか」と、今後に期待する。

なりやすいのは「こだわりの強い人」
引きこもりになりやすい人と共通点も

 それでは、どのようなタイプが慢性疲労症候群になりやすいのか。それは、こだわりの強い人や、ストレスに当たったときにいい加減にできず、突き詰めてしまう人だという。
 やはり、引きこもり状態になりやすい人と、どこか共通していそうだ。
 「そうしたストレスを抱え込みやすい人は、何かのきっかけでドロップアウトしやすいですね。重度で慢性化してくると、ちょっと動くだけでも疲れが出てしまうので、家から出られなくなっている人も多いです」
 家から出られない人たちの中にも、調べてみると、当てはまる人も相当数いるのかもしれない。
 とはいえ、多いケースは、調子のいい日に動きすぎて、その後2~3日に寝込んでしまうことを繰り返す人だという。
 無理して動くのは、あまりよくない。

 「睡眠のリズムを崩して慢性化させてしまうことは避けないといけません。まずはレベルを一旦落とし、午前中に光を浴びて、脳の中でホルモンを夜に立ち上げるようにしていくリズムからつくりだします。また、調子のいい日でも6~7割くらいにとどめて、調子の悪い日でもできる運動から始められるくらいのレベルを継続し、リハビリ的に伸ばしていくことです」(中富院長)

 現在、慢性疲労症候群を診療できる医療機関は数が少なく、大阪市立大学疲労外来、九州大学心療内科名古屋大学総合診療センターなどに限られている。もちろん、同クリニックでも受け付けている。

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