変わる金融市場 最前線

2015年5月27日(水)

変わる金融市場 最前線


阿部
「高値が続く株式市場。
世界では、その担い手が変わろうとしています。」
歴史的な株高にわくアメリカ。
ダウ平均株価は、今月(5月)最高値を更新しました。
その最先端の取り引きは今、人工知能が主役になろうとしています。
投資ファンドは、次々に高い利回りを実現。
人工知能を活用するファンド
「もうすぐ相場を『予知』する能力を手に入れるだろう。」




さらに、人工知能を使って取り引きのスピードも加速。
まばたきをする間に1万回の注文を出すことで、巨額の利益を出す人たちも出てきています。
存在感を増す人工知能
金融の世界は大きく変わろうとしています。

阿部
「今、金融市場で人工知能が急速に広まっています。」
和久田
「人間に代わってあらゆる価格を分析し、未来を予測。
また、注文において高速化を追求し、有利に取り引きを進めようとします。
私たちの知らないところで大きく変貌し続ける金融市場。
その最前線を取材しました。」

広がる人工知能 金融市場 最前線

アメリカ・ニューヨーク。
今月中旬、世界の金融関係者が注目するイベントが開かれました。
その名も「バトル・オブ・ザ・クオンツ」。
クオンツ」とは、高度な数学や物理などの知識を駆使し、金融商品や新たな投資手法を開発する専門家のことです。
この3か月の間に、どれだけ利益をあげられるか競い合ってきました。
その結果が、この日発表されました。
上位3人の運用利回りは20%以上。
優勝した人は48%でした。
受賞者
「私は人工知能の研究で博士号を取得し、隙のない投資を行っている。」
受賞者
「中国関連の株式でばく大な利益を上げることができた。」

人工知能を使った取り引きは、どのように行われているのか。
会場でひときわ注目を集めていた、カナダの投資ファンドを取材することができました。
CEOのデイブ・サンダーソンさんです。
金融商品の取り引きに使う人工知能を開発し、2年前、新たなファンドを立ち上げました。

KFLキャピタルCEO デイブ・サンダーソンさん
「取り引きは、すべてここで行われる。
これが『クリスタル』を搭載したコンピューター。」
取り引きを担うのがこのファンドの心臓部、人工知能の「クリスタル」です。
去年(2014年)1年間の運用利回りは30%に達し、注目を集めるようになりました。
投資対象としているのは、株式や原油穀物、金など、12種類。
1時間ごとに価格の変動を予測し、金融商品を売買しています。


KFLキャピタルCEO デイブ・サンダーソンさん
「1時間ごとに値動きの予想を行う時、インターネットに入っているあらゆるデータと同じくらいの量の情報を検索する。」




実は、クリスタルの開発のキーマンは「遺伝子解析が専門の大学教授」です。
膨大な遺伝情報から、病気との関連性を見いだす研究。
それを「市場の価格変動の解析」に応用することで、精度の高い予測が可能になったというのです。
遺伝子解析 専門 アンドリュー・ウォン博士
「(遺伝子解析の技術により)膨大なデータから必要なものを取り出し、その関連性を見つけ出すことができるようになった。」
クリスタルのメカニズムです。
予測のために活用されているのが、株、金、原油穀物など100の金融商品の価格のデータ。
20年前までさかのぼって蓄積しています。



例えば株の取り引きをする際、まず過去3日間の値動きとほかの商品の値動きを比較、分析します。
その特徴を、過去20年間のデータと照らし合わせ、将来の値動きを予測できるというのです。
日々のニュースにとらわれず、過去の膨大なデータをもとに取り引きを行います。
現在クリスタルが利益を出せるのは、4日のうち3日。
みずから学習し、進化を続けているといいます。

KFLキャピタルCEO デイブ・サンダーソンさん
「クリスタルはきょうはついていない。
きょうの価格は、あすの予測のための訓練のデータになる。
きょう間違えたことが最高の教育になるだろう。」



『バトル・オブ・ザ・クオンツ』主催者 バート・ケラーマンさん
クオンツがうみ出す利益はかつてなく高くなっている。
人工知能が世界の金融システムを乗っ取るかどうかは問題ではなく、それがいつ訪れるかだけだ。」



人工知能の発達は、取り引きのスピードも加速させています。
先月(4月)アメリカでは、人工知能を使って「超高速取引」を行う会社が上場し、注目を集めました。




1日に行う取り引きは、およそ530万件としています。
人がまばたきをする間に、1万回もの注文を出すことができる「超高速取引」。
今、アメリカの取り引き全体の半分を占めるまでに急増しています。
超高速取引は、どのように行われているのか。


金融市場の動向を長年分析してきたエリック・ハンセイダーさんです。
ハンセイダーさんは、ある企業の株の取り引き記録を入手、驚くべき実態を知りました。
その取り引きは、1,000分の1秒の間に80回もの発注が繰り返されていました。


通常の取り引きは、投資家がある値段で売り注文を市場に出し、ほかの投資家が買い注文を出して、株式の売買が成立します。





アメリカでは、取引所のサーバーが複数に分かれており、買い手の注文はサーバーを経由して売買が成立していきます。





ところが、相手が超高速取引の場合…。
一般の投資家に比べ、圧倒的に速いスピードで取引所に注文をすることができます。




この時間差を利用し、人工知能は、いちはやく市場で投資家の動きをキャッチ、投資行動を予測します。
「もっと高く売れる」と判断した場合、売りの注文を意図的に取り消します。
投資家は求めていた量の株を買うことができなくなります。
株価が上昇した際に、人工知能は投資家にわずかに値上がりした株式を売ることで、利益を上げることができるのです。

超高速取引を分析 エリック・ハンセイダーさん
「超高速取引を行う人工知能は、最初の取り引きが成立したあとにその注文を先回りして、ほかの取引所に到達する前に取り引きを行っている。
このような状況は不公正であり、投資家に市場への信頼を失わせている。」



「超高速取引」の存在が増す中で、市場のシステムそのものへの影響を危惧する声も広がりはじめています。
市場関係者がもっとも恐れているのが、5年前に起きた「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる現象です。
突然、ダウ平均株価が数分で8%急落。
一時、株式の時価総額がおよそ120兆円以上が失われるという大混乱に陥りました。
人工知能が、投資ファンドによる誤った大量の発注に一斉に反応したことで、株価の下落を加速させたとみられています。
市場関係者 ジョー・サルッチさん
「超高速取引が深刻な問題をもたらすのではないかと自問すべき時期が来ている。」

広がる人工知能 金融市場 最前線

阿部
「取材にあたった木下ディレクターです。
人間に代わって人工知能が投資を行う、驚きですね。」
木下ディレクター
「取材をしていますと、人工知能を使った投資が今、実際に高い利益を上げ始めていることで、投資ファンドの人たちの間では、まさに人工知能が市場を支配する時代が来るかもしれないという高揚感が満ちあふれていました。
超高速取引については一部の投資家は批判しているんですが、一方で取り引きが高速化して活発化することで、市場全体が活性化するといういい面もあるのではないかという意見もあります。」

和久田
「日本ではどうなっているのでしょうか?」
木下ディレクター
「実は日本にもアメリカの超高速取引の会社は進出していまして、日本でもすでに超高速取引の取り引き量の割合は半分近くにまでなっているといわれています。
日本の金融当局もこのことには注目しています。」

金融庁 資産運用企画室 渡辺公徳室長
「全体的な規制、取り引き慣行なども違うので、欧米と日本は状況を異にする。
取り引き手法の多様化、諸外国の動向をよく見ながら、何らかの対応が必要かどうかについては常に研究をしていく。」


木下ディレクター
アメリカで取材をして感じたのは、人工知能や市場の高速化のテクノロジーなどは、これがどんどん進んでいくということはやはり避けられないということです。
この急激な変化を受け止めて、テクノロジーをどう活用していけるかが、改めて大切になってくるのではと感じました。」