睡眠不足はほろ酔い同然 疲れ解消に必要な睡眠時間

睡眠不足はほろ酔い同然 疲れ解消に必要な睡眠時間

 
日経Gooday

2016/11/8
http://www.nikkei.com/content/pic/20161108/96958A9F889DE2EAEBE5E6E6EBE2E1E3E3E2E0E2E3E4E2E2E2E2E2E2-DSXZZO0897459031102016000000-PB1-14.jpg 睡眠不足が続くと、認知機能はほろ酔い状態と同程度になることを示す報告も(c)wang Tom -123rf

 本特集では、疲れない脳をつくるための瞑想(めいそう)法(「マインドフルネスで脳を鍛える」「1日1回プチ瞑想のススメ」)や食事術(「脳のパフォーマンスを上げる食事術」)を紹介してきた。しかし、瞑想中に眠くなって寝てしまうようなら、そもそも睡眠がきちんととれていない証拠。毎日の睡眠で上手に疲れた脳を休ませてリカバリーしていくことが、長期的には、疲れない脳をつくり、高いパフォーマンスを発揮することにつながるという。そこで第4回では、疲れた脳を休ませる上手な睡眠のとり方について聞いた。

■十分な睡眠時間をとることは、やっぱり重要
 組織の第一線で忙しく活躍しているビジネスパーソンの中には、「睡眠時間が6時間未満と短くても、睡眠の質を高めれば大丈夫」と思っている人も多いのではないだろうか。しかし、その睡眠の質を保つためには、最低限必要な睡眠時間があることは理解しておきたい。
 どのくらいの睡眠時間が適切かについては個人差も大きいが、厚生労働省ガイドラインによると25~45歳で約7時間、45~65歳で6時間半、65歳以上は6時間くらいが目安とされている。
 睡眠時間は認知機能の低下と関係しており、たとえば、睡眠時間が6~8時間だった人が、その後の5年ほどそれより睡眠時間の短い生活を続けると、認知機能の低下につながった。睡眠時間の変化の影響の大きさは4歳から7歳分の老化に匹敵していた、という研究結果もある[注1]。短期的に見ても睡眠不足が脳に与えるダメージは大きく、「睡眠不足がたまると、認知機能はほろ酔い状態と同じ程度になることを示唆する報告もある[注2]」(西本さん)そうだ。
 また、睡眠中はノンレム睡眠(深い眠り)とレム睡眠(浅い眠り)が交互にくり返されているが、入眠直後から3時間までの間に最も深いノンレム睡眠が訪れ、脳の疲労をとることができるといわれている。その次に体の疲労がとれ、最後に心の疲労がとれる、というように、睡眠のフェーズごとにとれる疲労が違うのではないかという仮説もあり、睡眠時間が短くなると、その分、とれない疲労が残ることになる。
 私たちは、忙しいから睡眠時間が短くなると考えがちだが、実際には必ずしもそうではなく、睡眠時間が短いから、仕事のパフォーマンスが下がっていて、かえって忙しくなっている人も多いかもしれない。そう考えると、やはりまずは十分な睡眠時間を確保する努力をしたい。
[注1] Sleep. 2011 May 1;34(5):565-73. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3079935/
[注2] JAMA. 2005 Sep 7;294(9):1025-33. http://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/201473

■睡眠不足を見極める方法
 では、日ごろ十分な睡眠がとれているかは、どう見極めればよいのだろうか。
 「一つの目安は、昼食後に眠くなるかどうか。昼食後は血糖値がいったん上がった後に下がりますし、バイオリズムやホルモンの働きからも眠くなるようにできているのですが、十分な睡眠がとれていれば、耐えられないほどの眠気にはなりません」(西本さん)
 昼食後に耐えられないほど眠い場合は、睡眠不足か何らかの睡眠障害の可能性がある。睡眠時間を長くするか、20分以内の短い昼寝をとるなど、生活を見直す必要がありそうだ。それでも昼間の眠気が解消されない場合は、医療機関を受診しよう。

■睡眠の質を高めるためにできる工夫
 十分な睡眠時間が大切とはいえ、もちろん睡眠の「質」も重要であることに変わりはない。質を高めるためには、次のような工夫をするとよいという。
(1)休日に寝だめをしない
 起きる時間が日によってまちまちだと、体内時計が整わず、起床を準備するホルモンや自律神経がうまく働かなくなるため、すっきりと起きられない。休日と平日の時間帯の間で“社会的時差ぼけ”といわれる状態に陥ってしまう。平日の起床時間に対して、休日もプラスマイナス1時間くらいの差に抑えるほうが、結果的に1週間を楽に過ごせるという。
 「休日、もし、起床後まだ眠ければ、一度起きたあと、明るい場所で二度寝などをして調整しましょう」(西本さん)。後述するように、体内時計の主時計は明るさで調整されているため、せっかく朝起きて一度リセットされた体内時計を暗い場所で寝ることで乱さないようにしたい。
(2)朝起きたら太陽の光を浴び、朝食を食べる

http://www.nikkei.com/content/pic/20161108/96958A9F889DE2EAEBE5E6E6EBE2E1E3E3E2E0E2E3E4E2E2E2E2E2E2-DSXZZO0897466031102016000000-PN1-14.jpg

朝起きたときに太陽の光を浴び、かつ朝食を食べることで、体内時計に1日の始まりを認識させられる(c)Narong Jongsirikul -123rf
 体内時計には「主時計」と「末梢時計」の2種類があることが、最近の研究から分かってきた。主時計は光によって調節される、1日のリズムを刻む体内時計だ。末梢時計は、主時計の指示を受けながら、食事による刺激で調節され、体内の代謝リズムをコントロールしている。
 睡眠の質を高めるためには、この2つの体内時計を同調させてリズムを刻むことが大切だ。そのためには、朝起きたときに太陽の光を浴び、それに合わせて朝食を食べることで、2つの体内時計に1日の始まりを認識させることができる。
(3)入眠までの儀式的な行動を規則正しく行う
 決めた就寝時刻の2~4時間前に夕食を済ませ、1時間前に軽いストレッチや入浴をすると眠りにつきやすくなる。人間は体温が下がっているときに眠気を生じるのだが、就寝1時間前に一度体温を上げておくと、ちょうど寝る頃に体温が下がってくるからだ。
 また夕方以降は、覚醒作用のあるカフェインを控え、メラトニンという睡眠ホルモンの分泌を妨げる強い光をできるだけ避けることも、スムーズに入眠するためには大切だ。

■「休む力」を身につけよう
 1日の約3分の1の時間を占める睡眠を見直そうとすると、1日のスケジュールを根本から立て直す必要が生じてくる。
「私たちはよく“きょう寝る時間も決められない人が、何を決められるのか”と言っています(笑)。脳を疲れにくくする時間管理術を考えるなら、まず寝る時刻と起きる時刻を優先的に確保すべきです」(西本さん)
 睡眠リズムが乱れるにつれ、疲れがたまって、脳のパフォーマンスも落ちる。情報過多の今、疲れた脳を上手に休ませる力も、効率よく仕事を進めるために必要な能力といえるだろう。
(ライター 塚越小枝子)