超電導フィーバーから30年 高温化は頭打ち状態続くも理論解明し突破口目指す
高温で超電導を示す物質が次々に発見され、エネルギー革命につながると世界中が熱狂した「超電導フィーバー」から30年。しかし温度はこの約20年間、頭打ちの状態で、期待は大きく後退した。“冬の時代”が続く超電導研究の課題と展望を探った。(伊藤壽一郎)
火付け役は日本人
超電導は物質の温度を下げると電気抵抗がゼロになる現象。超電導物質を送電線に使えば抵抗による損失や発熱がなくなり、電気を効率的に利用できる。コイルにすれば超強力な電磁石を作れるため、産業に大きなインパクトをもたらす。
超電導は1911年、絶対零度(マイナス273度)に近い絶対温度(K)4・2度に冷やした水銀で初めて確認された。だが冷却に必要な液体ヘリウムは非常に高価なため、安価な液体窒素(77K)やドライアイス(194K)が使える高温で超電導を示す物質の発見が課題になった。
温度が一気に上昇する発端は86年4月、銅酸化物のセラミックスが30Kで超電導になると米IBMの研究者が予言した論文だ。
当時の研究対象は金属が中心で、常識外れのセラミックスは無視されかけたが、東京大教授だった田中昭二氏が実験で証明。12月に学会発表するとフィーバー(熱狂)に火が付いた。
IBMの研究者はこの年のノーベル物理学賞に輝きフィーバーはさらに過熱。当時、東大で研究していた福山秀敏東京理科大教授は「実用化への期待で社会の関心も高く、激しい競争で温度は毎日のように上がった」と振り返る。
研究組織も解散
高温や最終目標である室温での超電導は10年程度で実用化すると、世界中の研究者が信じていた。日本でも産官学で組織する国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)が88年に発足し、オールジャパン体制で研究が本格化した。
だが銅酸化物系は93年の135Kをピークに温度は上昇しておらず、性能にも仮題があり、いまだに実用化していない。2013年に153Kの記録もあるが、15万気圧をかけた特殊な環境での値で実用化には直接結びつかない。15年にドイツチームが硫化水素で実現した203Kも150万気圧の特殊環境だった。
鉄系物質に期待
なぜ温度は上がらなかったのか。東京工業大の藤津悟特任教授は「既存の物質と似た構造を中心に探したためだ」と指摘する。高圧での実験で目先の競争に陥ったことも研究の進展を阻害したという。
理論的な壁もある。金属系の超電導は米研究者が1957年、2つの電子がペアになって物質中を流れることで起きるとする理論を発表。72年にノーベル物理学賞を受賞した。しかし、この理論での温度は40Kが限界で、銅酸化物系ではメカニズムを説明しきれず、高温の新物質を探す指針を失った状態だった。
ただ、解決の糸口も見え始めた。東大のチームは今年1月、銅酸化物系では電子がペアと単独の状態を繰り返す異常な振る舞いが起き、これが高温化の鍵を握ることを突き止めた。
新たな突破口になると期待されるのは東工大の細野秀雄教授が2008年に発見した鉄系の物質だ。現在の温度は55Kだが金属系や銅酸化物系より構造が複雑で、原子や電子の多様な振る舞いを解明しやすい利点があり、東大チームは14年、電子密度のゆらぎが増えると超電導が生じることを見いだした。
高温化のメカニズムの完全な解明はまだ先だが、新たな研究成果によって次の物質を探すヒントが見つかると、温度上昇の展望も見えてくる。藤津氏は「仕組みは着々と解明されつつあり、室温超電導だって実現しない理由はない」と話している。
MRI、リニアなど実用化進む