ロボ席巻、昔と違うと割り切れ

「ロボ席巻、昔と違うと割り切れ」堀内氏 (すご腕為替ディーラーの至言)

2017/1/8 2:05

 外国為替市場でコンピューターによる自動取引「アルゴリズム」の存在感が増し続けている。感情を持たないロボットがしばしば見せる傍若無人な振る舞いは2017年も折に触れて相場を振り回しそうだ。ベテランの為替ディーラーは現状をどう受け止めるのか。「すご腕為替ディーラーの至言」第4回は、東京市場の重鎮中の重鎮、堀内昭利・AIAビジネスコンサルティング社長。「生涯現役」を掲げ、いまも市場に積極的にかかわる(以下談)。

■昨年は機械時代ならではの「U字相場」

 16年のドル・円相場は前年末比で3円ちょっと下げて終えたけれどもほぼ「往来相場」だったね。1ドル=120円台で始まり、6月に99円ちょうどを付けた後しばらく低迷し、11月以降に急反発して117円前後で終わった。
 15年の円安ムードが行きすぎだと感じたので、16年に円高・ドル安に転じる可能性はきわめて高いと考えていた。だが、あんなに豪快な「U字」を形作るとはまったく思わなかったなあ。英国の欧州連合(EU)離脱決定やトランプ次期大統領の誕生などのイベントはけっこうな驚きだったものの、やっぱりロボットの時代だから、動きを増幅させてしまったね。

■無機質な世界、昔の成功体験が邪魔をする
 それにしても、コンピューター取引の台頭でマーケットはすっかり変わっちゃったねえ。かつては時々刻々と移り変わるレートの後ろにディーラーの息づかいが聞こえて、相場がこの先どう動くのか値段が語ってくれたものだ。そんな人間味はもうすっかり失われ、無機質で味気ない世界になってしまった。
 昔のようなファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)やテクニカル分析などのアナログな手法で臨むスタイルは間違いではないが、重要度というか、影響度ははるかに下がったと思う。ロボットは理不尽な反応を往々にしてするが、見方を変えると、比較的素直な反応をしているともいえる。あまりにも素直だから、行きつくところまで猛スピードで行ってしまう。
 古株ディーラーは過去の成功体験が邪魔をして苦戦しやすい。ロボットの時代にはたぶん、先入観のない経験の浅い人のほうがすんなりと入れると思う。

■確定値との差が大きい経済指標の速報発表は害悪
 経済指標に、ひとつ文句をいいたい。速報性を重視するあまり速報発表後に改定を繰り返し、速報と最終確定値の乖離(かいり)が目立ちすぎる。中国の経済指標が当てにならないとよく言われるけど、日米欧も似たようなものではないか。アルゴリズムは米雇用統計や実質国内総生産(GDP)などの主要指標にはけっこう細かく反応するので、改定後のデータが速報と違うと相場は荒れやすい。
 昔ながらのファンダメンタルズ分析は改定データを織り込んで正しい結論を導こうとするのに、ロボットは勢いに任せて場当たり的にどんどん突き進んでしまう。もともと理屈通りには行かないのが相場だけど、指標がブレブレだと一段と理屈抜きになるよ。

■「量的金融緩和」が終われば人の出番も
 もちろんロボットの規則性は探れるから「この時間帯にはこんな注文が機械的に出る。乗っかろう」などの戦略はたてられるし、ちゃんと収益を得られることは実証済みだ。だけど、4時から買いが増えると聞いて、本当に4時すぎに買いが入って相場が上がると「え、こんな相場でいいの?」と。いまわれわれが対峙しているのは相場なんてたいそうなものではなく、ただのゲームかもしれない。
 でもね、人(ヒト)の出番は来るんだよ。コンピューターディーリングの全盛というのは、要は日米欧などの主要な中央銀行が金融緩和政策を積極化し、お金をジャブジャブと流したがゆえに生じた面が強い。現在「出口」に向かっている米国だけでなく、日欧も量の面での緩和措置が転機を迎えてきた。ヘッジファンドなどの投機筋が、取引銀行や証券会社の潤沢なマネー供給を支えにコンピューター取引の規模を膨らませる構図はそう長くはないかもしれない。
 いずれにせよロボットが支配する市場はかつての市場とは似て非なるものと心得ておくべきだろう。