日本人風に画像変更 「訃報」メールにウイルス

日本人風に画像変更 「訃報」メールにウイルス 日本狙ったサイバー攻撃の今

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犯罪グループが作成した詐欺目的の偽サイト。画面右側のイメージ画像には日本人風の男性の画像が表示されている。当初は白人男性の画像が使われていた(トレンドマイクロ提供、画像の一部を加工しています)
 サイバー攻撃の標的の目が、本気で日本に向けられ始めた。海外の犯罪グループが作成した不正メールや偽サイトは、英語や不自然な日本語で書かれたケースが多かったが、最近は“流暢(りゅうちょう)”な日本語に。少しでも標的を信じ込ませようと、掲載写真を日本人風に変えたり、訃報メールに偽装したり、あの手この手を弄している。日本語を使った不正メールの大規模攻撃が急増していることも判明。専門家は「日本語だから信用できるという時代は終わった」と指摘する。(社会部 福田涼太郎)

日本語のオペレーター
 「あなたのコンピュータでウイルスが見つかりました」。インターネットを利用中に突然、警告が画面に表示された。「クレジットカード情報が危険にさらされている」と警告し、「ウイルス除去」と題するサイトが勝手に表示された。
 サイトにはヘッドセットを装着した日本人風の男性の写真が掲載され、「マイクロソフト ソフトウェアエキスパート」として日本名付きで紹介されている。

  犯罪グループが作成した詐欺目的の偽サイト。画面右側のイメージ画像には日本人風の男性の画像が表示されている。当初は白人男性の画像が使われていた(トレンドマイクロ提供、画像の一部を加工しています)
 記載された電話番号にかけると、出たのは日本語を話す女性オペレーター。「遠隔操作でパソコンを調べる」として、遠隔操作を可能にするソフトのインストールを要求され、応じると画面上に文字を打ち込むなど調査するふりをした。最後にウイルス除去費用をかたり、2万~4万円程度のサポート契約を結ぶよう求められた。

 セキュリティー会社「トレンドマイクロ」(東京)によると、この手口は今年夏ごろから問い合わせが急増。サイトで「マイクロソフト」と大手の社名を出して信頼させ、以前は白人男性だったオペレーターのイメージ画像が最近になって日本人風に変わっていた。
 同社は「明らかに日本人を狙っている」と話す。

「言葉の壁」崩壊
 現在主流のウイルス感染が目的の不正メール攻撃では、ウイルスを仕込んだ添付ファイルを利用者が開封するかどうかが全てだ。
 セキュリティー会社「パロアルトネットワークス」(東京)によると、企業を狙った攻撃では訃報の案内を装ったり、「官報に見解を掲載した」と添付ファイルを開くよう促したり、業務に関係があるかのように文面を工夫。人事担当者に直接、ウイルス付きの「履歴書」を添付して送りつけてくることもあるという。

 中国の犯罪者集団によるものとみられ、同社は「どうすれば日本人が添付ファイルを開くのか、かなり研究している」と指摘する。
 セキュリティー会社「シマンテック」(東京)によると、日本が狙われる背景には「これまで日本語のサイバー攻撃は少なく、日本人にとって日本語のメールは安心感があった」とわなにかかりやすい土壌があることを指摘。経済的に豊かで被害金額も大きくなりやすく、「日本語が言葉の壁になって(防いで)いたが、『日本はもうかる』と目を付けられたのだろう」。
暴力団と結び付きか

 また、昨年5月に発覚した全国のコンビニのATM(現金自動預払機)から18億円超が不正に引き出された事件では、国際犯罪グループが南アフリカの銀行からハッキングで得たクレジットカード情報を悪用し、日本の暴力団員らが現金を引き出していたとされる。
 国内外の組織の連携が進んでいるとみられ、今後の被害拡大も懸念される。

 トレンドマイクロが昨年から始めた言語別の調査によると、ウイルス感染を目的とした国内向けの大規模不正メール攻撃は昨年7~9月に34件、うち日本語のものは13件に上った。上半期の1~6月分(14件)に匹敵する件数と急増している。
 世界で流行中のウイルス除去の対価として金銭を要求する身代金要求型ウイルスでも、スマートフォンを狙った日本語表示のタイプが初めて昨年3月に確認されるなど、日本を取り巻く状況は厳しさを増すばかりだ。
 情報セキュリティ大学院大学の後藤厚宏教授は「個々で被害を防ぐには、最終的に技術よりも『不審なメールは開かない』といった知識や心理の話になってくる。皆がだまされず、日本ではもうけよりも手間だけがかかると相手に分からせるしかない」と話す。
 【サイバー攻撃】=ネット経由で標的のコンピューターに不正アクセスし、データ流出や改竄(かいざん)など損害を与える行為。最近はメールの添付ファイルを開かせてウイルス感染させ、攻撃する手口が多い。データを開けないようにして金銭を要求する「身代金要求型」、ネットバンキングのサイトにログインしただけで犯罪者の口座に自動送金される「不正送金型」のウイルスが猛威をふるっている。