東芝「倒産」はついに秒読み段階か ~取締役会議長が明かした内情

「あの東芝が……」。世間に驚きをもって受け止められた粉飾事件で東芝の名声は一度地に落ちた。そして、信頼回復もままならないうちに会社を揺るがす巨額損失の発覚。ついに追い詰められた――。

「ふざけるんじゃない!」

「巨額損失の一報を聞いた時には、結局この会社はなにも変わっていないのか、と啞然としました」
東芝の研究開発部門で働く現役幹部は言う。
「粉飾事件の時もそうでしたが、今回も私たちは日本経済新聞の報道で初めて事実を知った。その後も、特に社員向けに詳しい説明があるわけでもありません。
直前には'16年度決算を上方修正して大幅黒字確保と発表したばかりなので、『なんなんだ、これは』『黒字回復じゃなかったのかよ』と社内は騒然としています。
年末と新年に綱川智社長から社員に一斉送信で『みなさん、気にせずに頑張りましょう』という趣旨のメールが来ていましたが、気にならないわけがない。われわれはあの粉飾事件以降、1万人規模でリストラされ、肩たたきにあってきたんです。
それがやっと落ち着くと思った矢先ですから、もう経営陣への不信感はピークに達しています」
昨年末、想定外の超巨額損失が発覚した東芝が、まさしく「消滅」の危機に瀕している。
本誌が入手した社内メールを見ると、〈会社の再生に向かって、足元の業績に一筋の光明が射しはじめたところで、このような発表をせざるを得ない状況となり〉〈非常に申し訳なく、経営陣を代表してお詫びいたします〉と従業員に向けた謝罪の言葉が並ぶ。
その一方で、〈動揺することなく、引き続きそれぞれの業務に取り組んで〉〈それぞれの業務に邁進していただくようお願いします〉などと、社内の混乱や不安を抑えようとする文言がいくつも並んでいるのも目につく。
東芝のグループ会社幹部が言う。
「我々のところにも綱川社長名義でメールが来ましたが、『みんなで頑張ろう』みたいな無責任な内容で、失望しました。
昨冬のボーナスは1ヵ月カットでしたが、それも『この一年を乗り越えれば、ボーナスの水準は戻る。頑張りましょう』と言われて納得したところだった。
その直後に巨額損失のニュースが飛び出したので、みんな『マジかよ』『ふざけるんじゃない』と怒っています。
そもそも、'15年の粉飾事件以来、グループ会社にはなんの非もないのに、仕事が減らされ、さらに残業単価や休日出勤などの手当てもカットされてきました。本社の事業方針が二転三転する中で、地方転勤を命じられて準備をしたら直前で撤回されたりと、それはもう大混乱が続いていたんです。
最近になって今年度は黒字回復と聞かされ、やっと仕事が元に戻り、給料も回復していくと安堵していただけに、いまは将来への不安で仕事が手につかない状況です」
事の発端は、東芝のグループ会社で原発事業を手掛けるウェスチングハウス社(WH)が、'15年12月に原子力サービス会社の米・CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)を買収したこと。
東芝が、半導体事業と並ぶ「二本柱」に掲げる原発事業を拡大していくはずだったが、買収から1年が経過してS&Wの業績が想定外に悪化し、巨額損失の計上を迫られているのだ。
しかも東芝経営陣は、損失を「数千億円規模」と語るのみで、たった1年でそれほどの巨額損失が発生した理由については明確な説明を避けており、関係者すべてが疑心暗鬼に陥っている。
いったい、東芝で何が起きているのか。

誰にも原因がわからない

今回、東芝の取締役会議長を務める前田新造氏が本誌の取材に応じ、その内情を率直に明かした。以下、前田氏との一問一答である。
――今回の一件を最初に認識したのはいつか。
「会見で発表した12月27日の1週間~10日ほど前に取締役会で集まった際、減損の懸念があると報告されました。
正直、驚きましたよ。なにせ、フラッシュメモリ事業が頑張っていて、インフラ事業のほうも受注案件が増えて、ようやく黒字に回復できるというところまできたかな、と思った矢先でしたからね。最初に話を聞かされたときはショックでした」
――巨額損失の原因が何だったのか、はっきりとした説明がない。
「S&Wでコストがかさみ、資産価値が下がり、減損が必要になる懸念があるという説明だったので、ではその原因は何だと問うても、実はわからないという状況なんです。
そもそも、今回の件は、米国会計基準に沿って、S&Wの買収から1年以内というタイミングでWHが資産の見直しを進めていたところ急遽出てきた話で、情報がそれ以上つかめていないんです。
そのため、取締役会としては報告を受けた直後、志賀重範会長らに情報集めのためにアメリカに飛んでもらったのですが、そこには膨大な伝票、資料の調査が待ち受けていて、とてもじゃないがすぐには結論を出せないということになった」
――そのような状況で発表に踏み切った理由は。
「最初の報告を受けて以降は、定例以外の会議も含めて、2~3日に一回はみなで集まっていました。その話し合いの中で、とにかく年を越す前に一度、リスクについて発表しておいたほうがいいと。
ビジネスをやっていると、紆余曲折や大波小波の繰り返しなので、そうした中でお客様や株主様に信頼してもらうには、事が起こったときにきちんと対応するのが重要だということになった。現状でわかる範囲でいいから発表しようという判断に至り、年末ギリギリの会見になったのです」
――結局、現時点でも詳しい原因や損失額は把握できていない?
「現状では資材の使用料などが増え、コストがかさみ、生産性が当初考えていたよりも上がらなかったのでは? という話なのですが、あくまで推測で、実際に何が原因で減損がどこまでの額になるのか見通せていません。
とにかく、一番の問題は『ネタ』がないことです。情報が十分に集まらないので、その報告を受けないと何も判断ができない。今後も、何かわかった段階でマスコミを通してお伝えするつもりではいるんですが」
要するに、東芝経営陣でさえも、いま何が起きているのかほとんど把握できていない――まさに異常事態である。

迫る「債務超過

東芝原発部門出身の大物OBは、「綱川社長が、原発部門をまったくグリップできていないことを曝け出した」と言う。
「今回の一件は、綱川社長ですら異常を知らされたのは12月中旬で、それまでまったく把握できていませんでした。なぜそんな異常なことが起きるかと言えば、東芝内でも原発部門は『聖域』と言われ、社内の専門家以外にはまったく理解不能な世界だからです。
そこに医療部門出身で畑違いの綱川社長がマネジメントを効かせようとしても、ハナから無理ということ。
原発部門については、原発畑の志賀会長が目を光らせておくという役割分担になっているのですが、これも簡単なことではない。東芝がWHを約6000億円かけて買収したのは'06年のことですが、もともとWHは歴史と伝統のある会社で、世界一の原子力メーカーという自負がある。
当時からWHには東芝と違ったカルチャーがあり、東芝本体の言うことをそのまま聞くような『いい子ちゃん』ではない」


現在、東芝原発事業などを司るエネルギーシステムソリューション社のトップに立つダニー・ロデリック氏にしても、もともとWH社長であり、それ以前も海外原発会社を渡り歩いてきた「原発エグゼクティブ」だ。
前出OBが続けて言う。
「志賀会長からすれば、ダニー氏は任せないと嫌がるというのがわかっているから、口を出しにくい。一方で、ダニー氏は大風呂敷を広げますが、細かい経営の数字については甘いところがあるから、今回はそうしたことが最悪の形で火を噴いていると言えるわけです。
しかも、WHの事業はここのところ順調とはいえず、WHが手掛けるアメリカ、中国の原発は工期遅れやコスト増で頭を抱えています。
原発事業というのは『兆円ビジネス』の世界ですから、一気に数千億円という損失がふりかかってくることが十分にあり得る。今回は損失額が5000億円まで行くとも言われており、予断を許さない状況になってきています」
では、これから東芝はどうなってしまうのか。
まず言えるのは、東芝は資産を売り払っても借金を返せない状態、つまりは「債務超過」に陥るリスクが急激に高まっているということだ。
東芝自己資本は、昨年9月末時点ですでに約3600億円しかありません。本来であれば'17年3月期決算で1400億円ほどの黒字を確保して自己資本を積み増す予定でしたが、今回の一件でそれも吹き飛んだ。
今回の一件が5000億円以上の損失額に達すれば、債務超過に転落しかねない」(元共同通信経済部デスクで、現在は嘉悦大学教授の小野展克氏)
言うまでもなく、債務超過となればその先には「倒産」の悪夢の二文字が見えてくる。
そうした最悪の事態を避けるべく、東芝は「増資」をして損失を穴埋めするなどの対応策を講じる必要があるが、実は東芝にはその「窮余の一策」が打てない事情がある。
「粉飾問題を受け、東芝東京証券取引所によって『特設注意市場銘柄』に指定されているため、市場から広く資金調達をする公募増資という手法がとれないのです。
三者割当増資も考えられますが、何が起きているかもわからないような東芝の株式を引き受ける会社が出てくる可能性は低い。
実は、東芝は増資どころか上場廃止になる危険性も高まっている。実際、3月15日からは上場廃止の恐れがある『監理銘柄』に指定される予定で、東証からガバナンス体制の改善が見られないと判断されれば、上場廃止へ一直線です。
上場廃止案件を検討する日本取引所自主規制法人の外部理事の一人が、『何が起きても不思議ではない』と言っていたという情報も駆け巡っている」東芝の内情に詳しい経済ジャーナリストの磯山友幸氏)
他の手段としては、「事業売却」によって資金繰りを回すということも考えられるが、これも起死回生の一手とはならない。
「粉飾事件発覚後の経営危機以降に、医療、家電など目ぼしい事業はすでに売却してしまっています。稼ぎ頭の半導体事業を分社化して、新規上場させるという案もありますが、これをやってしまうと東芝本体には原発事業くらいしか残らないことになり、巨大企業の体裁を維持することはできなくなる」(前出・小野氏)

バラバラに解体される

つまるところ、東芝に残された道は、銀行に泣きつき援助を請う「金融支援」くらいしかない。

「現時点で、東芝は金融機関からの融資条件となっている『財務制限条項』というものに抵触したと見られ、新規融資どころか、いつ融資の引き上げにあってもおかしくない。
そこで、1月10日に主力銀行であるみずほ銀行三井住友銀行など関係金融機関を集めたバンクミーティングを開催して、当面の融資継続をお願いしていた。
今後は、銀行主導下で過激なリストラ策を強いられていくことになるでしょう。事業部門は売れるものは他社に売られ、買い手がない部門は破綻処理される。原発部門にしても三菱重工、日立の原発部門と統合されて、『日の丸原発連合体』に吸収されていくことも考えられる。
そうして部門も人も次々にリストラされ、東芝はバラバラに解体されていき、どんどん縮んでいくことになりかねない。
虎の子の半導体事業は残すでしょうが、これだって為替の影響を受けやすいビジネス。東芝は今後も急な円高などに直撃されれば、一気に危機に陥りかねない危うい経営体制にならざるを得ない」(前出・磯山氏)
そうした中、いま市場関係者の間で注目が集まっているのが東芝の「CDS値」。これは「企業の倒産危険度」をやり取りする金融商品で、値が高いほど危険度が高まっていることを示す。
東芝のそれを見ると、昨年12月には80台だったのが、年末の発表以降に急上昇し、一時は400を突破したほどだ。
「日立のCDS値は20台、ソニーは40台。比較すれば一目瞭然で、東芝は完全に『危険水域』に入った」外資系証券債券アナリスト)
東芝破綻の一報をどこが最初に打つか――。
経済部記者の間からは、そんな囁きが漏れ始めた。
週刊現代」2016年1月28日号より