3月利上げ、「予告」できない事情

3月利上げ、「予告」できない事情
米州総局 大塚節雄

2017/2/23 8:40 日本経済新聞 電子版
 22日の米株式市場でダウ工業株30種平均は9日続伸となった。最高値の更新も9日連続で、1987年1月以来30年ぶりの連続更新を記録した。その一方で、機関投資家が参考にするS&P500種株価指数とハイテク株の多いナスダック総合株価指数はともに下落した。市場全体では株高のエネルギーは失われつつあるようにもみえる。
多くの会合参加者が「かなり早期」の再利上げが適切だろうと表明した(FRB本部)

 この日の最大の材料だった1月31日~2月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、多くの会合参加者が「かなり早期の再利上げが適切かもしれない」と表明したことが明らかになった。市場は「3月利上げの可能性は消えていない」(投資ファンドのストラテジスト)と受け止めた。

 だが売り圧力が高まったのは発表直後だけ。相場を崩すほどではなかった。市場の一部は、米連邦準備理事会(FRB)が議事要旨の記述に、もっと具体的に3月の利上げをにおわせる「演出」をしてくる可能性を意識していたようだ。

 昨年5月には大半の参加者の判断として、唐突に「(次回)6月会合での政策金利の引き上げが適切となるだろう」との表現を盛り込み、市場が強く反応した経緯もある。議事要旨は単なる客観的な議論の紹介ではなく、FRBはまれに事後的に市場に対するメッセージを盛り込ませてくる。市場には、そんな読みが広がっている。

 今回、イエレンFRB議長は今月中旬の議会証言で「年数回の利上げが適切だ。3月か5月か、それとも6月か。いずれも利上げの可能性がある」と踏み込んでいる。

イエレン議長は議会証言で「年数回の利上げが適切」と踏み込んでいた(14日)=AP

 FRBは年3回の利上げを標準シナリオにしている。3月に今年最初の引き締めをすませれば、年後半の日程が窮屈にならずにすむ。議会証言から一歩進め、3月利上げの可能性をもう少し織り込ませようとする手はあり得たかもしれない。だがFRBは、そこまでするのは見送った。

 なぜか。FRBの思いを探るうえで注目すべきは、米債券市場や外国為替市場の反応が、株式市場よりも大きかったことだ。

 米長期金利の指標となる10年物国債利回りは議事要旨の発表前には2.45%近辺だったが、発表後に債券買いが優勢となり、利回りは一時2.40%台まで低下(債券価格は上昇)した。金利低下をみて、外為市場はドル売りで反応。対ドルの円相場は一時1ドル=113円近辺まで上昇した。

 トランプ政権の政策期待も背景に株高を謳歌する株式市場とは対照的に、米債券市場は年明け以降、気迷いの色を濃くしている。トランプ大統領の政策の具体像や日程がみえず、インフレが緩やかに加速していくシナリオが後退しつつある。

 FRB内部にも、似た事情があるようだ。議事要旨にはトランプ政権の財政政策を巡り、参加者が、かなりの不確実性があると改めて強調している。何人かは、保護主義的な政策を念頭に「いくつかの政策の変化は下振れのリスクをもたらす」とすら口にしている。

 利上げ判断の決め手となるインフレ見通しにしても、多くのメンバーは「インフレ圧力が高まる兆しが表れるまで、対応には十分な時間がある」との見方で一致した。

 ドル高を経済やインフレの下振れリスクとして意識する記述も目立った。利上げはドル高を加速し、米経済を傷めかねない。ドル高に神経をとがらせるトランプ政権との間に政治的な緊張をもたらす可能性もある。

 FRBが自信をもって利上げに踏み切れるような経済・物価情勢が約束されていないのなら、株式市場にも次第に重苦しい空気が広がる可能性がある。

(ニューヨーク=大塚節雄)