日本の科学力「この10年で失速」

日本の科学力「この10年で失速」 英ネイチャー誌が特集

 日本の科学研究はこの10年間で失速している――。英科学誌「ネイチャー」が23日付の最新号で日本の科学力の低下を指摘する特集を掲載した。発表論文数などをもとに分析した。1990年前後には躍進する日本を取り上げたが、四半世紀を経て論調は一転、激しい国際競争の中で埋没する姿を浮き彫りにした。

 特集では、各国が研究開発投資を増やす中で日本は2001年以降は横ばいで、国立大学への交付金を削減したため若い研究者が就ける任期のないポストが少なくなった点を低迷の要因にあげた。影響は主要な科学誌に占める日本の論文の比率が低下する結果に表れ、日本が強かった材料科学や工学分野でも「15年の発表論文数は05年と比べ10%以上減少した」と指摘した。

 16年のノーベル生理学医学賞を受賞した東京工業大学大隅良典栄誉教授やロボットベンチャー企業サイバーダインを創業した筑波大学の山海嘉之教授らの研究を紹介し、日本の科学研究はまだ世界のトップレベルにあると解説。しかし衰えもみえており、このまま課題を放置すれば、世界での地位が脅かされると警告した。

 指摘した内容は国内の研究や政策に関わる人たちはすでに把握しており、若手のポストを増やす予算措置や挑戦的な研究の支援強化などを打ち出し始めている。ただ中国やドイツをはじめとする欧州の活動はもっと積極的で、日本の改革が世界のスピードに追い付いていないのが実態だ。

 豊かな先進国を目指し発展してきた日本には、海外の成功モデルに追随する「キャッチアップ」の考え方が強く残る。新たな科学技術を生み出して社会へ行き届かせるためには「フロントランナー」として挑戦し、やり抜く強い意志が重要だ。それにふさわしい体制が大学や企業、行政のそれぞれに整えられているのか。いま一度問い直す必要がある。
編集委員 永田好生)