「死の白鳥」が舞う時、死が訪れる

北朝鮮金正恩氏が影武者を抱えても米軍の斬首作戦に脅えるワケ 「死の白鳥」が舞う時、死が訪れる

野口裕之の軍事情勢 2017.3.27 07:00更新

 関東など東国の独立を謀り、朝敵となった平安時代の豪族・平将門(?~940年)には、顔や背格好がそっくりの影武者が6人もいて、将門の討伐に出陣した武将が攻めあぐんだ、との言い伝えがあるが、北朝鮮朝鮮労働党金正恩委員長の場合、影武者が複数いてもムダ。米軍が現在、練りに練っている《斬首作戦》を防げず、独裁者としての生涯を30年とちょっとで終えることになる、かもしれない。

 金委員長の極秘居所などに対するピンポイント(精密誘導)爆撃を核にすえる斬首作戦を立案した米空軍は、わずか1機が第1波目の出撃で16~24もの目標を葬り去る、恐るべき性能を誇る戦略爆撃機保有しているからだ。複数の影武者もほぼ同時に急襲できる。

 「斬首」が先か、対米交渉の切り札となる米本土に届く大陸間弾道ミサイルICBM)+装填する小型核弾頭の最終実験が先か…。正常の思考ができぬのなら、金委員長の居所は墓所となる。

 爆撃精度の驚異的発達は、一般市民ら非戦闘員の安全性や経済効率も高めたが、今次小欄は爆撃側の安全性と被爆撃側の致死率を飛躍的に高めた側面に焦点を当てたい。

 なお、データは、ベトナム戦争報道でピューリッツァー賞を受賞した米国のジャーナリスト、デーヴィッド・ハルバースタム(1934~2007年)の著書《静かなる戦争-アメリカの栄光と挫折》や防衛省防衛研究所の研究官論文《米軍の近代化と作戦経費削減効果》などを参考。航空自衛隊の退役将官にも取材してデータを補足した。
革命的成長を遂げた精密誘導爆撃の精度

 第二次世界大戦(1939~45年)において、ドイツ本土の戦略爆撃を行い、ドイツの工業力を弱体化させ、ドイツ降伏を早める一助を担った米軍の《重戦略爆撃機B-17》。目標との爆撃誤差が700メートルも生じ、命中率を90%まで高めるには、何と9千発の爆弾を投下しなければならなかった。かかる戦果をあげるには、1千機の出撃を強いられる上、搭乗員1万人の命を危険にさらす前提を伴った。

 ベトナム戦争では、空爆精度は進化を遂げたとはいえ、《F-4戦闘機》が1目標を破壊するために、自由落下(無誘導)爆弾176発が必要で、飛行回数も30を数えた。

 劇的変化は、宇宙空間を利用して軍事作戦を遂行し、「宇宙戦争の幕開け」と位置付けられた湾岸戦争(1991年)で起こった。《F-117ステルス対地攻撃機》は搭載する2発のレーザー誘導爆弾で、一度に2目標を破壊した。

 ここで、湾岸戦争の作戦計画を担任した米空軍のジョン・ウォーデン大佐の発想=戦功を記しておきたい。
 ウォーデン大佐はGPS(全地球測位システム)が正確に目的地を判定できる点に着目し、GPSを爆弾に取り付けて位置情報の変化を与えて誘導する戦法を編み出した。外部の誘導なしに、設定された座標へ着弾させる精密誘導爆弾でJDAM(ジェイダム)と呼ばれる。

 以前は、軍用機などプラットフォームが爆弾を目標近辺にまで運ぶ必要があった。だが、この伝統的空爆では搭乗員が対空砲火を避けようとして、爆弾が目標に投下される前に回避行動に移る。結果、命中率を低下させていた。GPSを爆撃に転用したウォーデン大佐の発想は、搭乗員の戦死を極小化しつつ、命中率を目を見張るほど引き上げた。


 しかし、湾岸戦争はまた、多くの解決すべき課題も突き付けた。使用した衛星の多くは、核ミサイルの指揮・統制やミサイル発射基地などの偵察・監視、弾道ミサイルの早期発射情報確保に象徴されるが、冷戦時代に特化した戦略目的に傾斜していた。技術的にもGPS誘導はまだ少なく、「レーザー誘導」「カメラ(光学)によるTV誘導」などが主流で、悪天候時の運用には限界があった。

 その点、イラク戦争(2003年)での命中精度は革命的であった。
 《B-2ステルス戦略爆撃機》はGPSを活用した精密誘導爆弾JDAMを16発、《B-1B戦略爆撃機》は24発も携行できる。各爆弾1発で1目標を破壊でき、飛行回数減少にも貢献した。つまり、1回の出撃で16~24目標を破壊しうるのである。

 当然ながら、米本土より通信衛星を介して遠隔操作される無人攻撃機もフォローする。
 かくして、指揮・統制司令部+核・化学・生物兵器などをミサイルに搭載した大量破壊兵器の発射基地や保管施設+レーダー・通信網+電力施設など、軍事の中枢や関連インフラは粉砕されていく。

 金委員長が座して死を待つわけがなく、2010年以降、南北境界線付近でのGPS妨害を目的とした電波妨害(ジャミング)を強化している。ただ、そんな受け身の姿勢で安心する金委員長ではない。
 北朝鮮空爆の策源地となる佐世保や岩国に所在する在日米軍基地やグアムの米空軍基地に向け、射程に収め終えた《スカッドER》や《ムスダン》といった核ミサイルを発射する確率は極めて高い。

 もちろん、米軍は織り込み済みであろう。戦略爆撃前にサイバー攻撃や電波妨害を仕掛け、朝鮮人民軍の「目」「耳」「口」を封じ、レーダーや通信手段を遮断。通常戦力のみならず、核戦力をもマヒさせるだろう。

 いや、既に作戦は始まっている、と小欄は確信する。例えば、性能を上げ続け、発射実験を成功させている北朝鮮にしては珍しく、3月22日朝に発射したミサイルは数秒後に爆発した。爆発に関する米国防総省・報道部長の表現に、小欄は米軍によるサイバー攻撃や電波妨害の影を見る。

 「破滅的な爆発」
 3月4日付の米紙ニューヨーク・タイムズも、2014年初頭、バラク・オバマ大統領が国防総省に、北朝鮮のミサイル発射実験失敗を誘発すべく、サイバー攻撃や電波妨害を強化する作戦を命じていた、と報じた。実際、2016年の4~10月にかけ、ムスダンが空中爆発を繰り返している。批判を承知で後付けするが、小欄と、小欄と親しくしている安全保障関係者の間では、発射実験の連続失敗が米軍のサイバー攻撃&電波妨害に起因するのか否か、注目テーマとして浮上していた。

 いずれにしても、米軍は衛星を最大活用した、24時間いかなる天候でも攻撃に転じられるJDAMなどで、金委員長を仕留める作戦を立案し終えた。同時多発で金委員長の潜伏可能性のある場所は全て猛撃される。影武者だとて容赦はされない。あとは、ドナルド・トランプ大統領が「非常に悪い振る舞いをしている」と目を付ける金委員長をどう「処理」するか、大統領の決断にかかっている。北朝鮮のどこにも、金委員長の逃げ場所はないのだ。 


 ところで、金委員長に影武者がいたとして、体重130キロの巨漢影武者を、飢餓の国でよく探し出せるなと感心する。顔だけでも似ている国民を探すにしても、金委員長自身、90キロの体重が130キロに増えるまで5年以上かかっている。
臨時編制された「ドリーム・チーム」

 閑話休題空爆のみで、金委員長を排除できない現実を、米軍はかつて味わった苦い戦訓で学習している。
 イラクでは、戦車群と塹壕陣地でバグダッド付近に防衛線を敷いていた大統領親衛隊を、米英軍は航空戦力だけで制圧し、イラク将兵は潰走した。前述のウォーデン大佐は大戦果を前に、航空戦力を過大評価。航空戦力だけで、サダム・フセイン大統領(1937~2006年)を追い詰めようとして、失敗した。

 目標の発見→識別→指定→邀撃→撃破→成果確認と6段階をアッという間に達成する米軍の《キル・チェーン》には、やはり特殊作戦部隊をはじめとする陸上兵力の派兵が欠かせない。トドメを刺す必要があるし、採取できるかは遺体の損壊程度にもよるが、DNA検査で影武者かどうかを判定する必要もあるし…。

 学習の成果は2006年に現れた。米空軍のF-16戦闘機が、日本人男性も誘拐・殺害したイスラム暴力集団を率いるテロリストのアブ・ムサブ・ザルカウィ(1966~2006年)の潜伏場所をピンポイント爆撃、特殊作戦部隊が身柄を確保し万全を期した。が、ザルカウィは身柄を確保された直後、爆撃がもとで死亡した。このときも、500ポンド爆弾2発が正確にヒットしたが、時を経ずして第145任務部隊とイラク軍特殊作戦部隊が現場に急行し、指紋採取などで本人確認した。

 第145任務部隊とは、イラクのテロリスト掃討に向け臨時編制された特殊作戦部隊で、米英軍に所属する複数の特殊作戦部隊を包含する。作戦目的によって、「得意ワザ」の異なる米英軍内の各種特殊作戦部隊を組み合わせ運用することで「ドリーム・チーム」と畏敬された。

 金委員長を狙った「ドリーム・チーム」が、既に編制されているとみて間違いあるまい。金委員長は上空に「死の白鳥」が舞ってはいないか、気を付けることだ。戦略爆撃機B-1Bの二つ名である「死の白鳥」が北朝鮮上空を舞っている事態とは、「ドリーム・チーム」の地上での暗躍を意味する。

 もっとも、超高速かつ超低空で侵入してくる「死の白鳥」が見えるはるか以前に、金委員長はJDAMの餌食となっていよう。