離島防衛に海外派遣、大規模災害にも…空自新型輸送機C-2

離島防衛に海外派遣、大規模災害にも…空自新型輸送機C-2の能力と可能性

http://www.sankei.com/images/news/170407/wst1704070062-n1.jpg
美保基地で公開されたC-2(岡田敏彦撮影)

 長い開発期間を経て、ついに新型輸送機「C-2」が部隊配備された。C-2は全長、全幅ともに約44メートル、全高約14メートル。戦後日本が自主開発する機体としては過去最大のサイズだ。これまで運用してきた国産輸送機C-1や米国製輸送機C-130にはない多くのメリットを持ち、海外派遣等におけるワークロード(仕事量)の低減はもちろん、南西諸島など離島防衛の強化に大きく貢献できると期待されている。(岡田敏彦)

 輸送力4倍増
 C-2の開発が始まったのは平成12(2000)年。10年後の22年に試作機が初飛行したが、開発中に機体の強度不足を解決するための再設計などが行われ、26年度だった配備予定は今年3月(28年度末)にずれこんだ。ただ、同じく新開発したP-1哨戒機との部品共用など新機軸を盛り込んだ設計は、前任のC-1を大きく上回る性能をC-2にもたらした。

そのひとつは輸送力の“4倍増”だ。最大積載量はC-1の8トンから、C-2ではほぼ4倍の約30トンに増加。航続距離も1700キロ(3トン搭載時)から7600キロ(20トン搭載時)に。それぞれ積載量によって航続距離はかわるが、この3トン対20トンの場合は約4・5倍の航続距離増加となる。

 ちなみにC-1の後に航空自衛隊が採用した米国製C-130輸送機では4000キロ(5トン搭載時)。C-2の輸送力は飛躍的に向上しており、この航続距離増加は国際平和協力活動などの国外派遣で真価を発揮する。
 3泊4日が1泊に
 防衛省のデータでは、例えば中南米のハイチに国外派遣があった場合。


 C-1の航続距離と輸送力ではもはや運行は現実的ではなく、より性能が高いC-130でも、その航続距離では日本→グアム→バックホルツ→ホノルル→トラビス→ホームステッド→ハイチと島伝いの飛行・着陸・燃料補給が必要だが、C-2なら日本→ホノルル→トラビス→ハイチとなる。C-130で3泊4日かかるところ、C-2なら1泊2日で到着するのだ。

 また、輸送機では航続距離と同様に最重視される積載能力は、40フィートコンテナ(長さ約12.2メートル、幅約2.5メートル、高さ約2.6メートル)を積んだセミトレーラーを牽引車(トレーラーヘッド)込みで搭載可能というものだ。このためC-2の貨物室は手前から奥まで突起物などなしに高さ4メートルを確保してある。この「4メートル」を確保するため、翼の桁(スパー)を貨物室より上に設けている。C-2の背中が盛り上がっているのは、このためだ。こうして縦横4メートル、長さ約16メートルの貨物室ができあがった。

離島に機甲戦力を
 このサイズは、計らずとも自衛隊の離島防衛能力を大きく向上させることとなった。陸上自衛隊の新装備である「16式機動戦闘車」を積載可能なのだ。同戦闘車は全長約8.5メートル、全幅幅約3メートル
全高約2.9メートル。重さは約26トンと余裕で収まる。

 日本固有の領土である尖閣諸島沖縄県石垣市)の領有権を不当に主張する中国が連日、尖閣周辺の接続水域に公船を送り込んでいる。防衛省では、日本は地理的特性として多くの島嶼(とうしょ)が存在しており、島嶼部に対する侵略といった事態でこの特性が安全保障上の脆弱(ぜいじゃく)性とならないよう万全を期す必要があるとしており、南西防衛態勢の強化を目指している。

16式機動戦闘車は、こうした島しょ部において戦車に代わる機甲戦力として重要だ。戦車の場合、離島への輸送はその重量故に船舶に頼らざるを得ないが、戦車より圧倒的に軽い16式機動戦闘車とC-2のコンビは、はるかに迅速な展開が可能だ。

 このほかにも積載(運搬)可能な装備品が大幅に増加した。C-1やC-130では運べなかった野外手術システムや燃料タンク車、浄水セット、中型ドーザー、重レッカー車が積載可能で、大規模災害時に極めて重要な役割を果たすことが期待される。同様に生物化学偵察車や化学防護車も積載が可能となり、万一のテロ対応にも有用だ。

旅客機並の“使いやすさ”
 もうひとつの特徴はエンジンにある。サイズなどがほぼ同じエアバス社のA400M輸送機がターボプロップエンジン(ガスタービンエンジンでプロペラを駆動する)なのに対し、C-2は旅客機などと同様のジェットエンジンを装備している。航空自衛隊の持つ空中給油機KC-767Jなどと同じエンジンで、民間でも普及しているため世界各地に整備拠点がある。

 美保基地で公開されたC-2(岡田敏彦撮影)
 さらにこのエンジンを搭載したおかげで民間ジェット機と同じスピード(マッハ0.8)を出せることから、民間の旅客機と同じ高度、同じ航路を利用できるというメリットもある。
 3月30日には航空自衛隊美保基地境港市)で、国内初の配備を記念する式典が行われた。28日に3機が配備され、平成32年度までに10機を同基地に配備する予定だ。今後は専用の装備を新たに積んだ派生型として、次期電波情報収集機を開発する案もある。