緑内障、眼圧上昇で視野狭まる 目薬で進行抑制

緑内障、眼圧上昇で視野狭まる 目薬で進行抑制

2017/2/26付 日本経済新聞

 日本人の中途失明の原因として最も多い緑内障は、視野がしだいに欠け、やがて失明に至る。最近では点眼薬の種類が増えてきて、病気の進行を効果的に抑えることが可能になった。40歳以上なら年に1度は人間ドックや眼科医院で視野を検査してもらい、早期に発見して治療することが重要だ。

 50代のAさんはある日、右目の視野の片隅がちらつくことに気づいた。不安に思って自宅近くの眼科医院を受診。眼圧や眼底を調べた医師は「ちらつきは眼球内のごみで、問題はない。しかし緑内障の恐れがある」と告げた。

 医師の勧めで視野のすべてが見えているかどうかを詳しく調べる検査を受けたところ、右目の視野が約6分の1欠けていることが分かった。片目で見ても気づかない程度の軽い症状だったが、進行を抑えるための点眼薬を処方された。
■視神経を圧迫
 緑内障は、目の中で生じる水の流れが滞ることで眼圧が高くなり、これに押されて視神経が壊れてしまう病気だ。眼球内では、レンズとなる水晶体を支える毛様体で房水(ぼうすい)と呼ばれる水が常に生成されている。涙とは別に、血管のない角膜や水晶体に栄養を運び、角膜の縁から体内に排出され、吸収される。ところが排出がうまくいかず眼圧が高まると、目の奥にある視神経の組織が壊れ、緑内障となる。

 水晶体が濁る白内障は、視力が落ちるのですぐわかる。一方、緑内障は視野の一部が欠けていくが、両目が互いに見えない部分を補い合ううえ、知らず知らずのうちに視点を動かして脳内で全体を合成しているため、症状になかなか気づきにくい。異常に気づくのは相当に進行してからで、手遅れになりやすい。
 また白内障は手術で水晶体を人工レンズに入れ替えれば視力を取り戻せるが、緑内障で壊れた視神経を治す方法はまだない。iPS細胞を使った再生医療の対象も網膜などの細胞の損傷で、視神経の再生は困難と考えられている。東京大学の相原一教授は「細胞を再生させる医療が進んでも、緑内障で壊れた組織を再生させるのは不可能」と指摘する。水を減らして眼圧を下げ、進行を食い止めるのが治療の基本となる。

 リパスジル(商品名グラナテック)は2014年末に発売された比較的新しい薬だ。京都大学の研究成果をもとに開発された。

 目の中の水は主に角膜の縁にある「シュレム管」と呼ぶ場所から外へと流れ出る。シュレム管は編目状の組織で蓋をされているが、リパスジルは組織の細胞の形を変え、水の通りをよくする。目の中の水が減り、眼圧が下がる仕組みだ。

 シュレム管は水を排出する主要ルートだ。「この経路に作用するタイプの薬は初めてで、画期的だ」と東京逓信病院眼科の松元俊部長は評価する。ただし効き目には個人差があり、誰でも使えるわけではない。1日2回の点眼が必要で、目の充血などの副作用もある。

 現在最もよく使われているのは、サブルートからの水の排出を促すラタノプロスト(同キサラタン)などの点眼薬だ。眼球を包む膜に水が流れ出るのを促す。このルートからの排出は全体の半分以下だが、全身に影響する副作用がほとんどない、点眼が1日1回ですむなど使い勝手がよく、広く使われている。

■正常値でも発症
 このほか毛様体で水が生成されるのを抑えるチモロール(同チモプトールなど)も長年使われている。効果は高いが、ぜんそく肺気腫不整脈の患者では副作用が出るため、使用できる範囲は限られる。

 高い眼圧のために緑内障が起きるということは間違いないが、奇妙なことに、緑内障患者の約7割は眼圧が正常の範囲内にある。このため「正常眼圧緑内障」と矛盾するような病名がついている。相原教授は「眼圧が高めでも大丈夫な人もいるし、低めでも治療を要する人がいる」と話す。

 正常眼圧緑内障も治療は変わらない。米国で実施された大規模な臨床試験で、正常の範囲内であっても眼圧を下げれば緑内障の進行を抑制できるとの結果が得られたからだ。複数の薬を投与しても進行が止まらない場合、医師はレーザーや外科手術で水の排出を増やす処置をし、とにかく眼圧を下げる努力をする。

 緑内障を抱える日本人は中高年を中心に400万~500万人にのぼると考えられているが、治療を受けているのは1割程度に限られる。梅の木眼科医院(横浜市)の加藤道子院長は「健康意識の高まりで人間ドックや眼科検診を受けて見つかる場合が増えている」と話すが、まだまだ潜在的な患者は多い。

 緑内障は加齢によって発症するが、喫煙や糖尿病が進行を早めるとの見方もあり、生活習慣の改善は大切だ。松元部長は「進行をコントロールして、90歳まで不自由なく生活することを目指したい」と話している。
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■失明原因で最多 自覚しにくく手遅れに

 緑内障は、日本人が人生の途中で失明する原因のトップで、中途失明の約4分の1を占める。自覚症状がほとんどなく、病気に気づかない。気づいたときは手遅れになっていることが多い。

 2番目は糖尿病網膜症。糖尿病の合併症のひとつで、毛細血管が広い範囲で詰まるため、網膜に異常な血管ができてしまって起こる。これに続く網膜色素変性症は、遺伝子の異常が引き金となる。4番目の黄斑変性は、視野のゆがみから始まる。iPS細胞による再生医療の対象になっている。その他の中には高度近視や白内障がある。

 世界に目を移すと、失明原因のトップは今も白内障だ。先進国では眼内レンズが普及したため失明に至るケースはまれだが、そうした治療がない「途上国の平均寿命が延び、高齢者が増えたことで患者が増えている」と東京大学の相原一教授は指摘する。