「いろいろ話しかけてくる上司がうっとおしい……」
もう少し放ってもらえると、仕事がしやすくなるのに……
「いろいろ話しかけてくる上司がうっとおしい……」とコミュニケーションに消極的な意見が舞い込んできました。会社のメンバーとどう意思疎通する? 面倒な上司の話はどう受け止めればいい? 健康社会学者の河合薫さんとアラサー独身OL代表・ニケさんが相談に答えます。あるあるカイシャ事件簿Vol.30
「コミュニケーションってそんなに必要ですか?」
私の会社では「コミュニケーション」をとても重視しています。すべての悪事はコミュニケーション不足からきているという基本方針にのっとり、報・連・相はもちろんのこと、上司部下間のコミュニケーション施策が積極的に行われています。
コミュニケーションが大切なのはよく分かります。でも、私は営業事務をやっているので、必然的に上司と二人でオフィスで過ごすことが多いのですが、いつもいつも上司が話しかけてくるので困っています。はっきりいって“ウザい”んです。
ただでさえ忙しいのだから、放っておいてほしい。なのに「今、何やってる?」「こないだのアレどうなった?」としょっちゅう話しかけてきます。しかもやたらと細かくて、書類1枚でもとやかく言うし、こないだなんてメールの送り方までアレコレ言われました。
こういう上司とは、どう付き合えばいいのでしょうか? もう少し放っておいてくれると、仕事もしやすくなると思うのです。
ここまで来るとコミュニケーションの枠を超えて、監禁されている気分です。仕事にはやりがいもあります。コミュニケーションのウザさをのぞけば、社内の人間関係は悪くありません。
カワイ この相談みたら上司は泣くわね(苦笑)。
ニケ な、なんで? ストーカーみたいで怖いじゃないですか。“監禁されてる気分”って、最悪~。
カワイ あのね、世の中の上司たちは、メチャクチャ部下とのコミュニケーションに悩んでいるのよ。ちょっと茶目っ気だそうものなら“セクハラだ!”って騒がれるし、ちょっと厳しく言おうものなら“パワハラ”って非難される。で、今度はストーカー呼ばわり? 部下とコミュニケーション取るのも命がけね(笑)。
ニケ ふ~ん、そんなに上司も悩んでるんですか? そんな風には見えませんけど……。だいたい「最近の若モノはコミュニケーション能力が低い」とか言うけど、オジさんやオバさんたちのほうがよほど低いと思うんですよ。
オバさんは自分のことしか言わない。しかも、ウルサ~い!って耳塞ぎたくなるくらい大音量でしょ~。オジさんはしょっちゅう言うこと変わるから、何がなんだかちっとも分からない……。オヤジども、君たちの辞書に、“信念”という文字はないのか!
カワイ (笑)確かにそういう面もあるけど、これはコミュニケーションの問題というより“生態”です。オバさんもオジさんもそういう存在なの。って、うっわわ、私も気をつけよう!
ニケ 薫さんは、とりあえず“ネーサン”だから大丈夫です!
カワイ とりあえずそういうことにしていただきましたので、ネーサン頑張ります! さて、と。コミュニケーションの相談でしたね。……う~ん、これは確かにウザい、かな。
ニケ 上司はヒマなんですかね~?
カワイ アッハハ。上司というのは、とことん気の毒な身分ね(笑)。
ヒマつぶしに部下に話しかけるなら、もっとくだらないどーでもいい話するでしょ? そば打ち自慢とか、γ-GTPの数値自慢とか。ちょっと気を利かせて、「ケンブリッジ飛鳥が走るのは、明日か(アスカ)?」とか(爆笑)。
ニケ うわあ。なんかワケ分かんなすぎて、ムカついてきました!
カワイ 上司はヒマで、アレコレ言ってるわけではなく、言う必要があるから必死でコミュニケーションを取っているのよ。
ニケ 部下と仲良くなりたいとか?
先輩社員が若手に対して口うるさい理由
カワイ 実はね、私も若い頃、アレコレ言う「ウザい」先輩CAが嫌で嫌で仕方がなかった。
カップの置き方、声のかけ方、通路の歩き方まで、やたらと細かいことを言う先輩がいて、最初の頃は「うるさい人だ」と思いながらも、どうにか素直に聞いていたの。
ところが、ある時から我慢できなくなって、すべてスルーするようになった。
ニケ 薫さんの悪口を上司にチクっていた、とか?
カワイ ニケさん、先週も“チクリ問題”にこだわってたけど、チクリではありません。
口紅とかネイルの色までアレコレ言われたの。なんでそんなことまで言われなきゃならないのか、ちっとも分からなくて。私も若かったのね。つい本人の前で、「ウザい!」って顔をしてしまったの。
ニケ ひえ~、ウケる~。それって“ゆとり”と一緒じゃないですか~(笑)
カワイ 怖いもの知らずでしょ? “バブル”ですから(笑)さすがに先輩もキレて、そのあと1時間近くお説教されました。
それからというもの、私は何を言われても「了解しました!」って明るく言って、その場を去るという、“返事だけいい部下”に徹しました。表向きは笑顔で振舞い、ちくわ耳ですべてスルー。
ニケ ちくわ耳ってなんっすか?
カワイ 右から入って左に流す。
ニケ なるほど! 聞く耳持たずってヤツですね。
カワイ そうです。ところがある事件をきっかけに、私はちくわ耳になったことをひどく後悔した。
ニケ 今度は何をしでかしたんですか?
カワイ お客さんの服にお茶をこぼして、怒らせてしまったの。
私はキャビン後方のギャレー(台所)でお茶を入れ、お客さんの背後からお茶を出した。その瞬間、お客さんがトイレに行こうと席を立ち上がってしまったの。
お客さんは「あぢぢぢ~」って悲鳴をあげ、洋服はびしょ濡れになり、「危ないじゃないか!俺を殺す気か!」って怒号が機内に響き渡った。
ニケ きえ~。ヤケドは大ジョブだったんですか?
カワイ ええ、幸い大丈夫でした。
ニケ よかったですね~。って、実は私もやっちゃったことありますうよ。スチュワーデスがお食事出そうとしたときに、私立ちあがってしまって。スチュワーデスさんの制服がトマトソースだらけになっちゃたんです。まるで私が悪いことしたみたいで、イヤ~な気分でした。
でも、そのこととウザい先輩と何か関係あるんですか?
「仕事のため」のコミュニケーションとは
ニケ 実は、ネイルや口紅のことも、お客さんからの好感度上げるためだったりして?
カワイ たぶんね。私、真っ赤なネイルとか“口裂け女”みたいな派手な口紅塗りまくってましたからね(苦笑)。
ニケ ってことは、今回の「書類1枚でもとやかく言う。メールの送り方までアレコレ言う」ってやつも……。
ニケ ヤッホー! 三項関係ってやつですね!
カワイ ニケさん、よく知ってるわね。時折、ビックリすること言うわね。
ニケ テヘへ、大学のときコミュニケーション理論の講義とってたんですぅ~。
カワイ ははぁ~ん。イケメンの先生だったわけね?
ニケ ピンポーン! あんなに真剣に講義を聴いたのは、イケメンR先生の時だけでした!
カワイ イケメンR先生? ……R先生? もしやあのR? まさか……? まぁ、いいや。
えっと。三項関係とは、共通の目標を持つことで成立するコミュニケーションです。
例えば、二人で「荷物を持ち上げる」という作業をする場合、私たちは、相手の持ち方や姿勢、持って行こうとする方向を、相手の動きや視線から読み解き、相手の動きに合わせながら持ち上げようとします。同じ方向を見ながら、一緒に取り組む人の心の動きを察して、自分がどうすべきかを考え、ともに動く。いわゆる「協同作業」。これが三項関係によるコミュニケーションです。
つまり、相手が嫌なやつだろうと、嫌いな人だろうと、「他者」と「自分」を媒介する「モノ」があって、それを首尾よく行うために、人はコミュニケーションを取ろうと努力することができる。
おそらく今回のケースは、部下のちょっとしたミスで無用なトラブルが起きないように、上司は頻繁に話しかけているのでしょう。なので相談者の方も、上司を、自分がいい仕事をするための存在、と割り切れば少し楽になると思いますよ。
ニケ そういえば三項関係って、サルやマグロにはできないコミュニケーションだって、亮先生が言っていたような……。
カワイ その通りです。人間の心が、他の動物に比べて発達したのは、この三項関係によるコミュニケーションの成立が大きく関与していると考えられています。
ニケ サルに負けるわけにはいきまっせん!
カワイ そ、そう、……ね。
ニケ 相談者の方、頑張ってください! みなさん! ドシドシ相談お寄せください! ニケ、頑張ります!
カワイ え、ええ? なんだか分からないけど、みなさん、是非……。はい、是非! お待ちしております。