200兆円超えの電子商取引 宅配危機の処方箋は

200兆円超えの電子商取引 宅配危機の処方箋は

2017/4/25 12:08 日本経済新聞 電子版
 世界の消費者向け電子商取引(EC)市場が急拡大している。スマートフォンスマホ)の普及やインターネット人口の増加などで2016年の市場規模は200兆円を突破。20年には450兆円規模まで拡大する見通しだ。日本では宅配最大手のヤマト運輸が人手不足を背景に宅配制度の見直しに動く一方、米アマゾン・ドット・コムは自前の配送網の整備を検討する。ボタン1つで買い物ができ急拡大するEC市場では、宅配危機と技術革新が入り交じる構造となっている。

■中国は世界最大の102兆円市場
 経済産業省によると、旅行関連やイベントチケットを除く16年の世界のEC市場は1兆9200億ドル(約211兆円)で、前年に比べて24%増えた。世界最大のEC市場は中国で前年比40%増の9276億ドル(約102兆円)となり、全体のほぼ半数を占めた。中国のネット人口は7億人を超え日本の7倍以上とされる。「1」が4つ並ぶ11月11日は「独身の日」と呼ばれ、中国ではネット通販が最大の盛り上がりをみせるイベントとなっている。

 中国に次ぐEC市場の米国は16%増の3983億ドル(約43.8兆円)だった。そのあとは15%増の1060億ドル(約11.7兆円)の英国が続き、日本は4番目に多い6%増の774億ドル(約8.5兆円)となった。世界のEC市場は今後も2ケタ成長が続き、20年には4兆600億ドル(約447兆円)まで急拡大する。

M&Aで人員と商圏を確保
 ECの拡大は、物流各社の戦略にも影響を与えている。市場自体は拡大し売上高には貢献するが、需要増に追い付けずコスト増にもつながっている。

 1つの答えは同業の買収を通じた、人員と商圏の確保だ。米フェデックスは2016年5月、オランダ同業のTNTエクスプレスを44億ユーロ(約5200億円)で買収した。欧州でのEC事業を拡大し、「DHL」を擁するドイツポストの牙城を崩しにかかる。米UPSと含む総合物流の世界3強は資本力を武器に、世界各地で陣地を広げる。

 日本は時間指定など、世界でも最高水準のきめ細かい宅配サービスが特徴とされる。その分、再配達も多くなるなど他国以上に人手不足の度合いは深刻になる。ヤマト運輸は、アマゾンジャパン(東京・目黒)など大口顧客との値上げ交渉を進めている。また25日には、9月にも宅配便の基本運賃を引き上げる方針と報じられた。ヤマト運輸は同日、「運賃体系やサービス内容について総合的な見直しを検討している」とのコメントを出している。

■アマゾンはドローンと自動運転
 こうした動きは、既存の物流プラットフォーム(基盤)を活用し成長してきたネット通販会社の戦略にも影響しそうだ。EC市場の拡大をけん引した米アマゾンは自らで配送網の整備も検討し、すでにドローン(小型無人機)の配送実験に着手。昨年末には、飛行船とドローンを組み合わせた配達構想も明らかになっている。

24日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は、アマゾンが自動運転車の専門組織をつくったと報じた。宅配コストが上昇すれば、アマゾンなどのネッツ通販会社が自らプラットフォームをつくり、自前のドローンや自動運転車に切り替える動機づけになる。

 自動車メーカーもプラットフォーム競争に挑む。商用車世界首位の独ダイムラーは昨年9月、自社の商用バンとドローンや配送ロボットを組み合わせた宅配サービスのコンセプトを公表した。住宅地まではバンで向かい、特定の拠点からロボットが家庭まで届ける仕組みで、次世代物流をシステム提案する。

 わずか4年で2倍以上の450兆円規模まで拡大するとされるEC市場は大きなビジネスチャンスでもある。急成長に伴う「成長痛」をどう乗り越えるか。各社の競争力が問われている。
(池田将、加藤貴行)