最強の米空母「カール・ビンソン」と海上自衛隊が相次いで共同訓練

最強の米空母「カール・ビンソン」と海上自衛隊が相次いで共同訓練 威嚇相手は北朝鮮だけではない

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フィリピン海を航行する米原子力空母「カール・ビンソン」(中央)と海上自衛隊護衛艦「あしがら」(後方左)、「さみだれ」(同右)=4月26日(米海軍提供)

 米原子力空母カール・ビンソンを中心とする空母打撃群と海上自衛隊が23日から、南西諸島周辺の西太平洋上で共同演習に入った。米空母の動向は「最高レベルの軍事機密」(海自幹部)とされるが、3月にもカール・ビンソンと海自の共同訓練は2度も確認されている。

核・ミサイル開発で自制の気配をみせない北朝鮮を威嚇する目的であることは明白だ。ただ、日米精鋭艦隊による示威行動は北朝鮮だけではなく、忘れてはいけない“あの国”に向けたメッセージでもある。

 カール・ビンソンは全長333メートル、乗艦する士官と兵員は約3千人、戦闘機をはじめとする艦載機は約90機を誇る。これに駆逐艦や潜水艦、補給艦などが随伴し、空母打撃群を構成。その戦闘力は欧州の中規模国家の軍事力にも匹敵するとされる。

 一方の海自は、米軍との共同演習に護衛艦「あしがら」と「さみだれ」を派遣。あしがらは最新鋭のイージス・システムを搭載し、高度な防空能力を誇る。さみだれも潜水艦など水中でのの警戒監視や防空能力に定評がある。

 世界でも屈指の打撃力と防衛力を備えた日米艦隊の威容に、金正恩朝鮮労働党委員長は少なからず恐々としたはずだ。ただ、立て続けに行われる日米共同訓練を苦々しく思っているであろう人物はもう1人いる。中国の習近平国家主席だ。

 防衛省幹部は「最小の動きで最大の効果を目指すのが軍事的セオリーだ。日本の周辺海域で軍事行動を起こすとき、中国を一切念頭に置かないことはあり得ない。それは米国も同じだ」と語る。

 その中国へのメッセージにも、2つの意味が読み取れる。1つは「北朝鮮への圧力を強化し、責任を果たせ」というもの。トランプ米大統領オバマ前政権とは違い、北朝鮮が看過できない“レッドライン”を越えれば軍事行動に踏み切る可能性も否定できない。

カール・ビンソンの派遣はその決意を改めて示すものでもある。トランプ氏との会談期間中にシリア攻撃を断行された習氏には、これが“ブラフ”だとは映らないだろう。そして、北朝鮮が動乱すれば、韓国と並び最も不利益をこうむるのは中国だ。

 もう1つが、東・南シナ海での海洋進出への警告だ。北朝鮮対応で忘れがちだが、日米両国にとって、東アジア最大の脅威は中国であることに変わりはない。

 事実、東シナ海の海空域では中国の軍事的圧力が高まり続けている。平成28年度に日本領空に接近した中国機に航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した回数は、851回(前年度非280回増)で過去最多を更新した。海上でも、ミサイル駆逐艦をはじめとする複数の中国艦艇が太平洋から東シナ海に向けて通過する事案が続く。

 昨年末には中国の空母「遼寧」が九州、沖縄、台湾などを結ぶ「第1列島線」を初めて越え、西太平洋で初の遠洋航海訓練を実施した。中国政府は今年の国防費として1兆440億元(約17兆2千億円)を計上するなど、今後も急速な軍拡が懸念されている。海自とカール・ビンソンの共同訓練はこうした動きにくぎを刺すためでもある。
 防衛省幹部は「中国は北朝鮮問題で協力する姿勢をみせているが、味方になったわけではない」と警戒している。
(政治部 石鍋圭)