「軍事ロボット大国」へ突き進む韓国 北朝鮮との「ドローン戦争」

「軍事ロボット大国」へ突き進む韓国 北朝鮮との「ドローン戦争」見すえ成長遂げる軍需産業

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4月21日、北朝鮮との非武装地帯付近で合同演習を行う韓国軍と米軍の戦車(ロイター)

 韓国が「軍事ロボット大国」へと歩みを進めている。北朝鮮国境の非武装地帯を自動化された軍備で防衛するニーズを背景に、「ロボット機関銃」やドローン(無人機)などの開発や製品化を推進。日本には「軍事大国化」の懸念をあらわにする一方で、防衛と民生の双方に応用可能なデュアルユース(軍民両用)が進む韓国は、ロボット技術に関連した軍備品の輸出も拡大させ、世界の兵器市場で存在感を着実に高めている。

 「北朝鮮は1000機のドローン(無人機)を保有しており、化学・生物兵器を搭載する可能性がある」
 韓国政府系シンクタンク「韓国統一研究院」は3月下旬、そんな内容のリポートを発表した。空軍の航空戦力では韓国側に遠く及ばない北朝鮮が、能力差を「相殺するため無人機開発に注力している」という。

 以前、国境近くに北朝鮮のドローンが落下していたため、韓国はかねて北朝鮮のドローン攻撃を警戒。侵入しようとするドローンを、網に引っかけて撃退するドローンの開発・運用なども検討してきた。

 南北の非武装地帯では、「ドローン対ドローン」の戦場が現実のものになりつつある。4月上旬には、韓国国防省が、非武装地帯を監視するドローンを5月にも運用開始すると明らかにしていた。

 核・ミサイルばかりでなく、北朝鮮からの侵入を日常的な脅威とする韓国軍にとっては、ロボット技術は喫緊の課題だ。

 実際、非武装地帯の守りに韓国製の「ロボット機関銃」が実用化されている。数キロ先までの敵を自動追尾し、銃撃するシステム「スーパー・イージス2」だ。2010年に初公開された同システムは韓国軍事機器ベンチャーのドダム・システムズが開発した。英BBC放送(電子版)によると、同システムは輸出先の中東地域でも使用されている「ベストセラー」という。

 同社はさらに、敵兵と味方を識別するソフトウエア開発などに取り組み、「爆発物を着用しているか」も判別できるようにするという。同社幹部はBBCの取材に「北朝鮮という国境を接する敵があるため、韓国は軍事ロボット分野でリーダーとなった」と語った。

 こうした開発、運用状況を踏まえ、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は韓国について、「殺人ロボット」を製造する能力があると指摘。米国や中国などと並び、開発能力がある6カ国のうちの一つに位置づけている。

 軍事目的のロボット技術開発で韓国は、政府主導の投資計画にも取り組む。昨年11月に防衛事業庁が明らかにした計画では、2020年までに200億ウォン(約20億円)を投じて、兵士が着用するパワードスーツを開発、実用化するという。

 装着すれば、最大70キロの重さを持ち上げることができ、重い火器などの装備を持ち運びながら活動できるという。開発主体は国防省傘下の研究機関、国防科学研究所(ADD)と、韓国の軍事企業のLIGネックスワンだ。

 聯合ニュース(日本語電子版)によると、同庁の関係者は「民間と国防技術能力を結集し実用性の高い着用型筋力増強ロボット技術を開発し、確保された技術は民間と共有していく」と説明。軍事開発した技術を民間転用する考えを示した。福祉施設で高齢者の移動などに使用することも念頭に置いているとみられる。

 こうした人体補助機能を持つロボットの開発は、日本では民間主導で進んでいる。出遅れた感のある韓国だが、軍事目的の開発資金が基礎的な技術開発を後押しする側面も期待できる。

 韓国が北朝鮮のドローンに対処する目的で開発を進めるドローンでも、開発を手掛ける韓国随一のエリート科学大学であるKAIST(カイスト=韓国科学技術院)のプロジェクトには、国防省系の機関が出資している。

 このKAISTのロボット開発技術の高さが証明されたのが、15年6月、米国防総省傘下の国防高等研究計画(DARPA)が主催した災害ロボットコンテストでKAISTのチームが優勝したことだ。

 このコンテスト「DARPAロボティクス・チャレンジ(DRC)」には、日米の大学や研究機関なども参加。ロボットが車を乗降したり、がれきを乗り越えたり、壁を破るといった作業をこなすものだった。

 こうしたロボット技術の進展を背景に、韓国政府は米国との軍事ロボット分野での技術協力にも強い意欲をみせている。昨年11月に韓国防衛事業庁の張明鎮長官が訪米し、米シンクタンクで講演した際、先行する米国との技術格差が小さくなった現在、米韓で協力して開発にあたることが可能になったとの見解を示している(USNIニュース)。

 韓国メーカーは世界の兵器市場で売り上げを伸ばしている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が昨年12月に発表した2015年の軍事企業の売上高上位100社(中国を除く)の統計では、韓国企業が前年比31・7%増加し、「新興メーカーの伸びを牽引(けんいん)した」(SIPRI)。中でもLIGネックスワンが34・7%の伸びを記録。造船のDSMEなど韓国企業3社が、初めて100位入りした。

 韓国軍需メーカーは、世界最大の軍備輸入国であるインドに攻勢をかけており、米露やイスラエルといった主要輸出国に割って入ろうという勢いだ。4月には韓国とインドの両政府が、軍事用艦船の造船での協力に向け覚書に署名した。

 「軍事」への応用に根強い抵抗感を持つ日本の大学や民間企業とは異なり、軍事利用へのアレルギーが小さい韓国では、技術開発をめぐる軍民の協力が進みやすい土壌もあるとみられる。4月27日、「国防ロボットの軍民モデル運用事業」の一環として、LIGネックスワンが参加して開発されたドローン艇が発表された(KBSワールドラジオ=日本語版)。

 韓国の民間企業が技術水準を向上させる中、今後一段と進展する「ロボット時代」の兵器市場で、韓国メーカーが存在感を高めることになりそうだ。
(外信部 塩原永久)