未来の技術 知ることの意味

未来の技術 知ることの意味

休日に近未来を描いたSF映画をレンタルで借りてきて、スナック菓子片手に鑑賞する。楽しいひとときですが、将来の技術・テクノロジーが私たちの生活をどのように変えるのか、改めて考えたことはありますか?

こんな疑問に答えようとイギリスの雑誌「エコノミスト」が「2050年の技術」という本を出版しました。著名な科学者やエコノミスト、作家など専門家がそれぞれの分野を執筆するというスタイル。本を取りまとめたエコノミスト誌の編集局長、ダニエル・フランクリンさんが来日した際に話を聞きました。 (おはよう日本おはBizキャスター・豊永博隆)

一流誌がまとめた未来の技術

エコノミスト誌は世界各国の政治家や政府高官、グローバルビジネスに携わる人々が愛読する雑誌です。フランクリンさんは1983年にエコノミスト誌で仕事を始めます。旧ソビエトや東欧の取材を担当し、その後、1993年から4年間、ワシントン支局長を務め、クリントン政権時代のアメリカを取材。ロンドンに戻ってからは、世界の政治経済に関する調査部門の論説委員などを歴任してきました。

フランクリンさんが取りまとめた「2050年の技術」。テクノロジーが経済の生産性に及ぼす影響、医療や食料、エネルギー、そして、教育までを、どう変えていくのかなど、さまざまな面から未来を予測します。

テクノロジー予測の重要性

なぜ未来のテクノロジーを予測することが大事なのか。フランクリンさんはこう語ります。

「私が注目した理由は、テクノロジーが間違いなくあらゆるものに影響を及ぼすからです。実際、テクノロジーはビジネスのあらゆる側面に入り込んでいます。もちろん2050年に何が起きるかは分かりません。ですから謙虚でなければならない。しかし、長期的に状況を眺め、今後の世界情勢や未来の技術を推し進める、根底にある力を知ろうと努力することで、未来に向けてよりよい準備を始めることができるのです」

日本の女子高生が世界を先取り?

では、どうやったら未来のテクノロジーを予測することができるのか。

私たちはある日、新製品が発表され、「こんなことができるようになったんだ!」と驚くときがあります。しかし、こうした新製品や新技術は突然登場するわけではないとフランクリンさんは言います。

この本の中で、時代を読むコツとして勧められているのが「エッジケース(限界的事例)」と呼ばる事例を見つけ出すことです。エッジケースとはものごとが広く普及する前に特定の集団や国でだけ広がった事例のことです。

そのいい例が2000年代前半の日本の携帯電話、ガラケーの使い方だと言います。今のスマホ全盛の時代を予見できる事象として、日本のガラケーの使い方、特に日本の女子高校生の動向に海外からは注目が集まっていたというのです。

「日本の女子高校生は熱心な『ケータイ』ユーザーでした。女子高校生がテクノロジーをどう利用しているか、当時から注目されていた。アメリカのテクノロジー雑誌WIREDが『女子高生ウォッチ』というコラムを掲載していたほどです」

フランクリンさんはこう説明しました。

AIは人間の仕事を奪う?

AI=人工知能はここ数年で急速に進化しています。映画「ターミネーター」を思い出すまでもなく、コンピューターがいつか人間の知性を超えてしまうのではないか。人間の仕事を奪って人類を支配してしまうのではないか。そんな心配をする人は少なくないと思います。

こうした心配について、フランクリンさんは「一般論では機械の台頭によって仕事の在り方や、仕事の種類が代わることは非常に現実的な懸念だと思います」と述べる一方で「仕事を維持するためには、新しい世の中に順応するための柔軟性が大事です。新しいスキル・技能を身につける、もしくは学ぶ準備があるかどうかが大事で、それがあれば労働市場が変化しても働く場はあるでしょう」と前向きにとらえていたのが印象的でした。

ターミネーター」のようにAIや機械が暴走することはないのか?

こうした事態を防ぐためにフランクリンさんは「機械はどんなことができるかをまず人間が理解し、どんなものを生み出すのか、ある程度の情報開示が必要だと思います。そして、本当の情報を得るために、機械を稼働させる方法について、何らかの規制が必要なのだと思います」と語っていました。

規制はテクノロジーの進化に追いつけるか

果たして規制はうまくかけられるのでしょうか。ここに私は疑問を感じ、フランクリンさんにこんな質問を投げかけました。

「政府はテクノロジーの進化をどう規制するのでしょうか?この問題について、政府や政治は国内的に見がちですが、テクノロジーはグローバルに進んでしまいがちではないですか?」

フランクリンさんはこの質問に対して以下のように答えました。

「そこが複雑さを増している点です。規制については国際的な枠組みが必要ですが、それには時間がかかります。動きがゆっくりなので、枠組みができあがるまでテクノロジーは待ってくれないのです。政府がテクノロジーの創造的な側面を抑えつけることなく、変化についていくことは相当大変なことなのです」

この言葉の意味は重いと私は感じました。なぜなら当局の規制とテクノロジーの進歩は裏腹の関係にあり、規制が厳しすぎるとイノベーションを妨げてしまうおそれがあるからです。医療やバイオテクノロジー、エネルギー開発からインターネットの音楽配信など、過去、規制や強すぎる権利保護が壁になった例がいくつもあります。

バランスをとりながら急速に進化するAIに適度な規制を適用していく。世界がこれから直面する大きな課題かもしれません。

過去の成功体験に居座ってはダメ

最後に日本のテクノロジーの未来について尋ねました。

「日本は人口が減少し、高齢化が進みます。そのときテクノロジーが多くの方法で社会を支え、労働力のギャップを埋め、高齢者を支えることに役立つでしょう」「日本は(テクノロジーの面で)非常に強力な国で、研究開発に大きな強みがあります。しかし、競争が激しさを増す世界にも直面しています。隣国の中国はますます力を増し、このほかにも新興の技術大国がのしあがってきます」

「日本は日本以外で開発された新しい技術にもオープンであり、これまで築き上げた方法を変える備えが必要です。これは簡単ではなく、勇気がいることです。ただ、過去の成功モデルに居座り続けてしまうのは危ういことです」

次世代の技術を予測するためにエッジケース(限界的事例)をいち早く見つけ出し、変化には柔軟に対応していくことがいかに大事なことなのかをインタビューを通じて実感しました。