日本のメディアが風評被害の種をまく

日本のメディアが風評被害の種をまく 

 韓国でもし原発事故が発生すれば、日本にどんな被害が及ぶのか。先月21日の新聞に、背筋が寒くなるような記事が載っていた。

 ▼韓国南部の釜山(プサン)市にある原発から放射性物質が、大量に放出されたと想定する。平成27年1月の気象条件にあてはめると、偏西風の影響を受けて、西日本を中心に汚染が広がる。被害を試算した米国のシンクタンクは、最大2830万人が避難を余儀なくされる可能性を指摘していた。

 ▼その韓国の文在寅ムン・ジェイン)大統領が、原発中心の発電政策を破棄して、「脱原発に進む」と宣言した。もっとも文氏は別に、原発事故で日本に迷惑をかけるわけにはいかない、などと心配してくれているわけではなさそうだ。むしろ東京電力福島第1原発事故に関連して、文氏が言及した数字に引っかかりを覚える。

 ▼「2016年3月現在、1368人が死亡」。一体、どこからこんな数字が出てきたのか。東京新聞が昨年3月6日付朝刊の記事で、「原発関連死」として独自に1368人と集計している。これを引用したとしか思えない。ただ東京新聞がいう原発関連死とは、事故後避難生活で病状や体調が悪化して死亡した人の数である。
 
  ▼それが大統領の発言によって、「原発による死者数」として定着すればどうなるか。福島を含めた8県の水産物輸入禁止を続けている韓国で、新たな風評被害を招きかねない。

 ▼先週のコラムで紹介したヘンリー・S・ストークス氏の『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』のなかに、こんな記述がある。「『南京』にせよ『靖国参拝問題』にせよ『慰安婦問題』にせよ…日本人の側から中国や韓国に嗾(けしか)けて、問題にしてもらった」。原発問題が同じ道をたどらないよう、祈るばかりである。