転職「最後の壁」 上司の慰留、嫁ブロックの突破法 エグゼクティブ専門の転職エージェント

転職「最後の壁」 上司の慰留、嫁ブロックの突破法 エグゼクティブ専門の転職エージェント 森本千賀子


 
 志望企業の面接をクリアし、晴れて内定を獲得。転職成功かと思いきや、最後の壁が立ちはだかることがあります。それは周囲の人からの「引き留め」「反対」です。会社(上司)から引き留められた場合、いわゆる「嫁ブロック」のように配偶者や婚約者などパートナーの反対にあった場合の対処法、事前の予防策についてお話しします。

■スムーズに退職するための「事前準備」
 「君はうちの会社に必要な人材だ。辞められたら困る」。退職を告げたとき、そんなふうに言われたら気持ちが揺らぐかもしれません。待遇の改善を持ちかけられ、「不満が解消されるなら辞める必要はない」ということになれば、内定を辞退して会社に残るのも一つの手でしょう。

 しかし、「退職しようとした」という事実は消えることはなく、「会社へのロイヤルティーが低い人」というレッテルを貼られてしまい、後々の人事考課や昇進に影響を及ぼすこともあるようです。また、上司が引き留める理由として、表向きは「君を高く評価し信頼している」とは言っていても、本音では「今いなくなられては仕事が回らない」「上司である自分の評価が下がる」ということも。

 長い目で自身の人生を考え、自己実現のためにはどういう決断を下すのがベストかを考えて判断してください。
 さて、退職の意思を固めても、強い引き留めにあい、退職がスムーズに運ばないことがあります。会社側が納得し、退職によって迷惑をかけないようにするためには、次の3つに気をつけてください。

1.「自分がいなくなっても大丈夫」という体制をつくっておく
 転職活動を進めると同時に、いざというときに備えて引き継ぎの準備も進めておくとよいでしょう。例えば、引き継ぎ用のマニュアルや書類をある程度仕上げておく、あるいは後輩に少しずつ仕事を教え、自分の後任者として育てておきます。それだけの準備をしておけば、「業務が回らなくなる」という上司の不安を解消できますし、退職への強い覚悟も伝わります。

2.退職理由として「現状への不満」を挙げない
 「今の職場は○○だから、もう耐えられません」といったように、現状への不満を告げると、「では、その不満が解消されればいいんだろう。改善するからちょっと待ってくれ」「部署を異動させるから来期まで待ってくれ」などと、退職届を受領してもらえないこともあります。退職理由を告げるなら、今の会社ではできないことを挙げて「これがしたい。それができる会社が見つかった」という切り口で伝えるとよいでしょう。 

3.直属の上司以外の人に根回しをしておく
 直属の上司が退職を認めてくれそうにない場合、さらに上の上司や人事担当者など、社内で信頼できる人に相談しておく手もあります。ただし、話をする順番を間違うとトラブルになりますので、注意が必要です。
 次の会社への入社日が迫っている中で引き留めにあうと、焦ってしまい、冷静な判断ができないことも。転職活動を始めた段階から、引き留めへの対策を考えておくことをお勧めします。

■パートナーには「事後報告」でなく、「一緒に進める」
 私はこれまで転職希望者の皆さんの活動を支援してきましたが、「転職活動をしていること、奥さんに伝えていますか?」とお聞きすると、高い確率でこんな答えが返ってきます。

 「まだ話していません。でも、きっと理解してくれるでしょう」
 そんなふうに話していた方が、転職先を決めて妻に報告すると激怒された、というのはよくあることです。
 「余計な心配をかけたくない」「あれこれ口を出されたくない」と、パートナーに内緒で転職活動を進める方が少なからずおられます。しかし、最終的に転職する・しないのどちらに転ぶかわからないとしても、転職を考え始めた段階からパートナーに相談し、「一緒に進める」というスタンスで活動することをお勧めします。

 「転職を決めたことを伝えると、妻が怒った」というケースでは、必ずしも転職そのものに反対しているのではなく、「自分に黙って進めたこと」に対して感情的になるケースも多いもの。「そんな大切なことを、どうして一言相談してくれなかったの?」と、つまりは信頼関係を崩されたことが許せない、というわけです。
 転職の相談を持ちかけ、賛成や応援を得るのなら、次の3つのポイントを心がけてください。

1.不満でなく「将来ビジョン」を伝える
 今の仕事や会社への不満だけを語ると、単なる「愚痴」に聞こえてしまうかもしれません。「逃げたいだけなのでは?」と思われたのでは、納得してもらいにくいものです。「やりたい仕事、描いている将来ビジョンがあり、それを実現するために転職したい」という思いを伝えましょう。

2.マネープランも踏まえて相談する
 転職によって給与が下がる可能性がある場合はその旨を伝え、マネープランを相談しておくことも大切です。どの部分を節約するか、不足分をどう補うかなど、家計のやりくりを相手任せにするのではなく、一緒に考える姿勢が大切です。

3.「家族のためでもある」ことを伝える
 「自分がやりたいことを追求する」という自己満足だけの転職ではなく、家族の生活も考えた上での決断であることを伝えるのも有効です。「もっと家族と過ごす時間を確保できる」「収入を上げ、生活レベルを上げられる」「ストレスが減り、穏やかな気持ちで過ごせる」など、転職後の「家族の姿」をイメージさせるように、奥さんに「プレゼン」してみましょう。

 そして、転職活動をスタートさせたら、応募する候補企業の情報や活動のプロセスなどをパートナーと共有していきます。自分の中で「この会社しかない」という意思を固めたとしても、必ず相手の意見も聞き、「一緒に決めた」という形で決着させるのが理想です。

 自分が入りたいと思う会社に対して、「聞いたことがない会社だけど大丈夫?」「ネットではブラック企業と噂されている」などと反発されることも。ネット上での一部の誹謗(ひぼう)中傷に対する反応だったり、漠然とした不安だったり、誤解や思い込みであったりすることが多いので、それを払拭するような情報やデータを用意し丁寧に説明します。例えば、メディアに掲載された記事、IR(投資家向け広報)資料、社内報などを見せ、自分がその会社のどこに魅力を感じているのかを伝えてください。

 何より大切なのは、自分自身が転職に対して明確な意志や目標を持つことです。パートナーに反対されて気持ちが揺らぐくらいなら、そもそも自分が本気ではないのかもしれません。「なぜ転職するのか」を整理し、自身の「本気」の度合いを確認しましょう。それを率直に伝えれば、あなたを大切に思っているパートナーならきっと理解してくれるはずです。