対北朝鮮 レッドライン捨てたのか トランプ氏の危機

北朝鮮 レッドライン捨てたのか トランプ氏の危機

2017/7/5 15:50
 レッドラインとはその線を越えた瞬間、軍事行動に踏み切ることである。ティラーソン米国務長官は4日の声明で北朝鮮が発射した「火星14」は大陸間弾道ミサイルICBM)だったと明らかにした。米本土を射程に収めるICBMの発射実験はレッドラインを越える行為とみられていたが、トランプ政権がすぐに軍事行動に出る気配はない。米側はレッドラインを捨ててしまったのか。

 ▼ICBM発射を強く非難する
 ▼国連安全保障理事会(UNSC)で、より強固な措置を取る
 ▼北朝鮮の核保有は断固として受け入れない

 ティラーソン氏の声明に並ぶ勇ましい言葉は一向にやまない北朝鮮弾道ミサイル発射という現実と重ね合わせると、軽く、うつろに響く。
 北朝鮮ICBMを実戦配備するであろう5年後には、ティラーソン氏のこれらの言葉は、ほとんど無意味になる。日本にとって悪夢のシナリオは、このまま何もできずに時間が過ぎることだ。1994年の朝鮮半島危機から23年。いまや実戦配備に近づく時間の経過そのものが脅威になる。

 トランプ政権は歴代の米政権が繰り返してきた対北朝鮮政策の失敗の軌跡をたどる。北朝鮮を説得する気のない中国に過度な期待を寄せ、国連安保理で、効果が薄い制裁や非難声明づくりに時間を空費しているためだ。この悪循環を断ち切らない限り、北朝鮮の脅威はそう遠くない時期に危機に変わる。

 北朝鮮を対米けん制カードで保有しておきたい中国を動かすにしても米国が軍事行動を起こす直前か直後という見方は消えない。米国の空爆前後に中国人民解放軍が国境沿いから北朝鮮流入し、体制転換を含めて実効支配するという展開だ。

 米側の一部にある「北朝鮮に中国のかいらい政権ができたほうが金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が率いる現在の北朝鮮よりはましだ」という「よりまし論」にもとづく。

 実態が伴わない「圧力」という言葉を連呼するだけでは「圧力」の価値は下がる。この23年間で、その「圧力」という言葉の価値は暴落し、「無力」同然になった。これ以上「圧力」強化を唱えても「無力」を浮き立たせるだけだ。

 トランプ大統領が誕生してからもうすぐ半年。北朝鮮の蛮行によってトランプ氏の提唱する「力による平和」は色あせた。最大の政治力の源泉である「予測不能」という畏怖も「予測可能」に堕しつつある。北朝鮮の傍若無人な振る舞いが映し出すのは、政治家、トランプ氏の危機でもある。(政治部次長 吉野直也)