ネコは自ら人間と暮らし始めた? DNA分析で判明

ネコは自ら人間と暮らし始めた? DNA分析で判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/7/3

古代のネコの遺伝子を分析したところ、ぶち模様のネコは中世になるまでは存在しなかったことがわかった。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

 イエネコ(家畜化したネコ)の拡散に関する研究の一環として行われたDNA分析から、ネコは人間が家畜化したのではなく、自ら人と暮らす道を選んでいたことが明らかになった。その間、彼らの遺伝子は、野生のヤマネコの遺伝子からほとんど変わることがなく、ささやかな変化のひとつは、かなり最近になってから「ぶち柄」の毛皮が登場したことくらいだった。

 研究者らは、古代ルーマニアのネコの死骸からエジプトのネコのミイラ、現代アフリカのヤマネコに至るまで、過去9000年間に存在した200匹以上のネコのDNA調査を行った。2017年6月19日付けの学術誌「Nature Ecology & Evolution」に発表された論文によると、現代のイエネコにつながる系統は、主にふたつ存在するという。


 ふたつの系統のうち、より古い方の祖先は、紀元前4400年頃に西南アジアからヨーロッパへと拡散した。ネコは紀元前8000年頃からティグリス川とユーフラテス川が流れる中東の「肥沃な三日月地帯」の農村周辺をうろつくようになり、そこでネズミを退治したい人間たちと、互いに利益のある共生関係を築いていった。

エジプトのネコのミイラ。(PHOTOGRAPH BY RICHARD BARNES, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

 ネズミは、人間の文明が生み出す穀物や農業の副産物に引き寄せられる。ネコはネズミの後をついてきた結果、人間の居住地域に頻繁に近づくようになったのだろう。

 「おそらくはこれが人間とネコとの最初の出会いでしょう」と語るのは、論文の共著者であるベルギー、ルーバン・カトリック大学のクラウディオ・オットーニ氏だ。「人間がネコを捕まえてきて檻に入れたわけではありません」。つまり人間は、いわばネコが自ら家畜化するのを、ただ好きなようにさせておいただけということになる。

 イエネコにつながるふたつ目の系統は、エジプトで優勢だったアフリカのネコで、彼らは紀元前1500年頃から、地中海や旧世界のほぼ全域へと生息範囲を拡大していった。このエジプトのネコは、人間にとって魅力的な、社交性や従順さといった習性を持っていたものと思われる。

 こうした結果からは、先史時代の人間が、ネズミの数を抑える目的で陸上・海上の交易路沿いにネコを輸送しはじめたと推測される。

■ぶち柄の登場は中世、品種改良は19世紀から
 古代から現代までのさまざまなネコのDNAを比較することにより、彼らがどのような変化を遂げてきたのかが少しずつ見えてくるとオットーニ氏は言う。人間がネコを世界各地に連れ回すようになる以前の変化も推測できるそうだ。

 驚くべきことに、野生のネコとイエネコの遺伝的な構成に大きな違いは見られない。両者を区別する数少ない違いのひとつは、ぶち柄の毛皮であるという。

「パンサー・キャット」を抱える女性を描いたイタリアのルネサンス絵画。(ILLUSTRATION BY FRANCESCO D'UBERTINO VERDI; PHOTOGRAPH BY PETER HORREE, ALAMY)

 英語で「タビーキャット(tabby cat、縞模様や、縞が途切れたぶち柄の毛皮を持つネコの総称)」と呼ばれるネコのうち、ぶち柄が登場したのはごく最近だった。その遺伝子の起源はオスマン帝国時代初期の14世紀に遡り、のちにヨーロッパやアフリカで広まっていった。


 とはいえ、こうした模様がイエネコで一般的になったのは18世紀になってからのこと。ネコの愛好家たちが愛玩用の品種を作るためにあえて特定の性質を持つネコを選ぶようになったのは19世紀になってからだった。

■米国では7400万匹が飼われている
 つまりネコは大きな変化を経ないまま、人間と一緒に暮らす仲間になったのだと、論文の共著者で進化遺伝学者のイヴァ=マリア・ガイグル氏は言う。イエネコはヤマネコとよく似ているものの、単独行動を好まず、人間や他のネコがいる環境を受け入れている。

 こうした成り行きは、家畜化された最初の動物であるイヌとは対照的だとガイグル氏は言う。イヌは何らかの仕事をさせるために選択され――そうした動機はネコの場合には存在しなかった――、特定の習性を持つものが選ばれていった結果、現在のように多様な種に分かれることになった。

 「ネコがそうしたふるいにかけられることはありませんでした。なぜならネコに関しては、変える必要がなかったからです」とガイグル氏は言う。「ネコはありのままで完璧だったのです」

 ネコが完璧かどうかについては異論を持つ人もいるだろうが、彼らは現在、世界でもっとも人気のあるペットであり、米国の家庭では7400万匹ものネコが飼われている。

 「我々の研究によって、ネコがどこからやってきたのか、どれほど遠くまで到達したのか、人間にどのような影響を与えてきたのかについて、驚くような事実がわかってきています」とオットーニ氏は言う。

 「ネコについての研究を進めれば、家畜化のプロセスがさらに詳細に判明することでしょう」