余剰電力の有効活用で新機軸 太陽光と水素を建物のエネルギーに 3年後の五輪で世界に発信?

余剰電力の有効活用で新機軸 太陽光と水素を建物のエネルギーに 3年後の五輪で世界に発信?



 太陽光で発電した余剰電力で製造した水素を貯蔵し、必要に応じて電力と熱を取り出し建物に供給する-。清水建設産業技術総合研究所と共同で、そんな建物付帯型の水素エネルギー利用システムの実証試験を今夏に始めた。来年3月まで運転し、システムの性能を検証する。大手ゼネコン各社が環境技術の売り込みにしのぎを削る中、同社は水素が燃料として広く利用される「水素社会」への対応で技術の優位性を高めたい考えだ。
CO2削減を追求
 「『CO2(二酸化炭素)フリー水素』というキーワードで技術開発にいち早く取り組み、可能性を示したい」
 同社技術研究所(東京都江東区)エネルギー技術センターの沼田茂生所長は、CO2の排出を伴わない水素製造で先頭を走り続けることに意欲を示した。
 現在は石油や天然ガスなどから水素を取り出す方法が主流だが、製造過程でCO2が生じてしまう。再生エネで作られた水素を活用すれば、化石燃料に頼らずにCO2ゼロを追求できるという。
 水素エネルギー利用システムに関する産総研との共同研究は昨年2月に始動した。延べ床面積1000平方メートル程度のビルに必要なエネルギー(電力と熱)の約6割を賄えるシステムを、産総研の福島再生可能エネルギー研究所(郡山市)内に4月に建設した。2020年までに建物や街区に導入することが目標だ。

 システムは、太陽光パネルで発電した電力の余剰分で水を酸素と水素に電気分解し、水素を「水素吸蔵合金タンク」に貯蔵。必要なときに水素を放出させて燃料電池に送り、電力と熱を取り出す。
 中でも要となるのは水素吸蔵合金で、この分野の知見を蓄積する産総研が開発した。水素吸蔵合金は、合金の体積の1000倍以上の水素を常温・常圧で貯蔵できる。その特性を最大限に生かしながらコンパクトで安全な貯蔵手段を追求し、今回のシステムに取り入れた。
 太陽光による発電量は天候や時間帯に左右されるが、長期間にわたり貯蔵できる合金タンクを使えばこうした課題を解決できる。例えば、日照時間が長い夏季に貯(た)めた水素を、太陽光発電の出力が下がる冬季に生かせるという。

エネルギー管理の高度化も
 試験には、新たなエネルギー管理のノウハウを獲得する狙いもある。
 清水建設は、建物に電力を供給する発電・蓄電機器と使用する空調・照明機器などの双方を制御し省エネを実現する「スマートBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)」を独自に開発し導入実績を積んできたが、水素の製造から貯蔵や放出までを監視しコントロールする試みは未知の挑戦だ。

 同社は試験を通じて、BEMSで再エネ由来の水素を最適に制御する技術の確立も狙う。水素技術グループの野津剛グループ長は「太陽光発電による電力の80%以上を建物で利用できるようにしたい」と力を込める。
 太陽光発電の普及で増え続ける余剰電力を水素製造に有効活用する背景には、20年東京五輪パラリンピックまでに水素インフラを整備し関連技術を世界に発信することを目指す国や東京都の動きがある。それに呼応するように水素利用を宣言するデベロッパーは増える方向にあるが、オフィスビルなどへの普及に向けてはコストの壁が立ちはだかる。
 沼田所長は「技術と制度が相まってこそ、水素エネルギーが普及に向かう」とも強調。環境性能が高い建物の容積率を割り増すなどといった制度で建築業界の水素利用を促す流れに期待を寄せる。(経済本部 臼井慎太郎)