HDD(ハードディスク)の大容量化が着実に進んでいる。2017年に記録容量12~14T(テラ)バイトの3.5インチ型の量産が始まり、2020年ごろにも20Tバイトの製品が登場する可能性がある。従来の外部記憶装置としての役割は
SSD(
半導体ディスク装置)に奪われつつあるが、記憶階層の一段下に当たる「ニアラインストレージ」として生き残っていきそうだ。
「HDDはNANDフラッシュ(
SSDに搭載される書き換え可能な
フラッシュメモリー)に駆逐されるんじゃないか。しばらく前には、そう思っていた。今は、当面はすみ分けられるだろうと考えている」。
HDDメーカーから、こうした声が漏れ始めている。2016年から2017年にかけて、
NANDフラッシュメモリーの供給不足でHDDの需要が持ち直したことが一因だ。もう1つの理由は、HDDでなければならない用途が、少なくとも今後5~10年は継続するとの予測である。
各社が期待するのは、「ニアラインストレージ」と呼ばれる使い方だ。コンピューターの記憶階層では、主記憶や外部記憶よりもさらに下に位置する(
図1)。従来HDDが担ってきた外部記憶装置の座は、幅広い機器で
NANDフラッシュメモリーや、それを内蔵した
SSDに奪われつつある。ニアラインストレージは、
SSDに格納しきれなかったデータを、その1つ下の階層で保存し続ける。主に
クラウド環境や企業の情報システムで活用される記憶装置である。
図1 今後は、インターネットの端部(エッジ)にあるほとんどの機器の外部記憶装置は、
NANDフラッシュメモリーや、それを組み込んだ
SSDになる。企業の情報システムや
クラウド環境でも
SSDは普及するが、すべてのデータを保存するだけの容量を確保することは、コスト面から難しい。頻繁に使わないデータは、記憶階層の1段階下にある、「ニアラインストレージ」と呼ばれるHDDに保存される。世の中で生成されるデータの量は当面は増え続ける見込みで、HDDの需要は根強く残りそうだ
この用途に向けて、今後数年はHDDの大容量化が確実に進みそうだ。2017年前半に量産が始まった3.5インチ型HDDの容量は12Tバイトで、2020年ごろまで1年に2Tバイトずつ増えていく見込みである。
■急増するデータの保管庫に
ニアライン用途に向けたHDDが必要になるのは、世界中で生み出されるデータ量が今後爆発的に膨らむからだ。米Seagate Technologyの資金で米IDCが実施した調査によれば、2025年には1年間に生成されるデータ量が163Z(ゼタ)バイトと、2016年の16Zバイトの約10倍に達するという。1Zバイトは10の21乗バイトで、10TバイトHDDでは1億台に相当する。
生成されるデータ全てをストレージ装置に保存する必要はないものの、データ量の急拡大に応じて必要とされるストレージ容量は急増する。ここにHDDの出番がある。
IDCは、2017~2025年の間に記憶装置全体で合計19Zバイトの容量を出荷する必要があり、そのうち58%がHDDになると予測する。とりわけ、今後データの多くが保存される見込みの企業のデータセンターなどでは、容量のほとんどをHDDが占めると見る。
HDD関連企業の業界団体であるIDEMA JAPAN(日本HDD協会)が2017年1月に公表した予測にも同様な傾向がある。稼働中のストレージ装置の全容量のうちHDDが占める割合は、2015年の83%に対し、2020年でも79%を維持するとした。この5年間に最も容量が拡大するHDDの製品分野が、ニアライン向けという。
これらの予測の根拠は、HDDと
SSDの間に依然として残る価格差である。テクノ・システム・リサーチの調べによれば、2016年に出荷されたHDDと
SSDの1Gバイト当たりの平均価格は、それぞれ0.04米ドルと0.332米ドル。約8倍の開きがある。ここまで差があると、頻繁に使うデータは
SSDに、滅多にアクセスしないデータ(いわゆるコールドデータ)はHDDに格納する方法が、ストレージ装置のコスト対効果を最も高くできることになる。
HDDメーカーやユーザーの間では、同様な価格差は当分残るとの見方が根強い。実際、米Google(グーグル)でVP Infrastructure を務めるEric Brewer氏は2016年2月の講演で、「今後も5~10年は(主要な記録媒体として)HDDを使い続ける」と表明し、その一因として「SSDの(価格当たりの容量の)伸び率はHDDと大して変わらない」ことを挙げた。
価格差が縮まらないという根拠の1つは、
NANDフラッシュメモリーでも大容量化が次第に困難になってきたことである。既に
NANDフラッシュメモリーの容量増大は、微細化の代わりにセルを積み重ねる3次元化に大きく頼っている。3次元化では、層数が増えるに従い製造技術のハードルが次第に高くなる見込みだ。
加えて、
NANDフラッシュメモリーメーカーの寡占化が進み、極端な価格競争が起きにくいことも、両者の価格差を維持する方向に働く。今後のデータ量の増大を前提にすれば、無理な値付けでニアラインの市場を目指さなくても、
NANDフラッシュメモリーには旺盛な需要が見込めるからだ。ただし、中国メーカーなどの新興勢力が市場に参入すると話は変わるかもしれない。
■1年に2Tずつ増加
いずれにせよ、HDDがニアライン用途で生き延びるためには、より大容量の製品を、これまでと大差ない価格で提供し続ける必要がある。では、それは可能なのか。結論から言えば、少なくとも今後2~3年は、HDDの容量は順調に増えそうだ。
現在、ニアライン向けの3.5インチ型HDD 1台当たりの容量は最大12Tバイト。米
Western Digital(WD)と
Seagateが、2017年前半に量産を立ち上げたばかりだ(
図2)。HDD業界では、同クラスの製品の最大容量は2018年に14Tバイト、2019年には16Tバイトに達するとの見方が強い(
図3)。
実際、大容量化でWDとSeagateの後塵を拝してきた東芝は、2018年に14Tバイトの製品を量産する計画だ。Seagate CEOのSteve Luczo氏は、2017年1月の決算発表の電話会見で、「今後の12~18カ月にニアライン市場で利用される容量は用途ごとに多様化し、(中略)最大16Tバイトが必要になるケースもある」と発言した。
図3 いわゆるニアライン用のHDDについて、今後の容量の推移と、利用できる大容量化技術を示した。2017年中には、1台当たり12Tバイトの製品に瓦記録方式を適用して容量を14Tバイトに引き上げた機種が登場する見込み