ハードディスクは死なず、見えた20年に20テラバイト

ハードディスクは死なず、見えた20年に20テラバイト

2017/8/24 6:30
日本経済新聞 電子版

 HDD(ハードディスク)の大容量化が着実に進んでいる。2017年に記録容量12~14T(テラ)バイトの3.5インチ型の量産が始まり、2020年ごろにも20Tバイトの製品が登場する可能性がある。従来の外部記憶装置としての役割はSSD半導体ディスク装置)に奪われつつあるが、記憶階層の一段下に当たる「ニアラインストレージ」として生き残っていきそうだ。
 「HDDはNANDフラッシュ(SSDに搭載される書き換え可能なフラッシュメモリー)に駆逐されるんじゃないか。しばらく前には、そう思っていた。今は、当面はすみ分けられるだろうと考えている」。
 HDDメーカーから、こうした声が漏れ始めている。2016年から2017年にかけて、NANDフラッシュメモリーの供給不足でHDDの需要が持ち直したことが一因だ。もう1つの理由は、HDDでなければならない用途が、少なくとも今後5~10年は継続するとの予測である。
 各社が期待するのは、「ニアラインストレージ」と呼ばれる使い方だ。コンピューターの記憶階層では、主記憶や外部記憶よりもさらに下に位置する(図1)。従来HDDが担ってきた外部記憶装置の座は、幅広い機器でNANDフラッシュメモリーや、それを内蔵したSSDに奪われつつある。ニアラインストレージは、SSDに格納しきれなかったデータを、その1つ下の階層で保存し続ける。主にクラウド環境や企業の情報システムで活用される記憶装置である。
図1 今後は、インターネットの端部(エッジ)にあるほとんどの機器の外部記憶装置は、NANDフラッシュメモリーや、それを組み込んだSSDになる。企業の情報システムやクラウド環境でもSSDは普及するが、すべてのデータを保存するだけの容量を確保することは、コスト面から難しい。頻繁に使わないデータは、記憶階層の1段階下にある、「ニアラインストレージ」と呼ばれるHDDに保存される。世の中で生成されるデータの量は当面は増え続ける見込みで、HDDの需要は根強く残りそうだ

 この用途に向けて、今後数年はHDDの大容量化が確実に進みそうだ。2017年前半に量産が始まった3.5インチ型HDDの容量は12Tバイトで、2020年ごろまで1年に2Tバイトずつ増えていく見込みである。

■急増するデータの保管庫に

 ニアライン用途に向けたHDDが必要になるのは、世界中で生み出されるデータ量が今後爆発的に膨らむからだ。米Seagate Technologyの資金で米IDCが実施した調査によれば、2025年には1年間に生成されるデータ量が163Z(ゼタ)バイトと、2016年の16Zバイトの約10倍に達するという。1Zバイトは10の21乗バイトで、10TバイトHDDでは1億台に相当する。

 生成されるデータ全てをストレージ装置に保存する必要はないものの、データ量の急拡大に応じて必要とされるストレージ容量は急増する。ここにHDDの出番がある。IDCは、2017~2025年の間に記憶装置全体で合計19Zバイトの容量を出荷する必要があり、そのうち58%がHDDになると予測する。とりわけ、今後データの多くが保存される見込みの企業のデータセンターなどでは、容量のほとんどをHDDが占めると見る。

 HDD関連企業の業界団体であるIDEMA JAPAN(日本HDD協会)が2017年1月に公表した予測にも同様な傾向がある。稼働中のストレージ装置の全容量のうちHDDが占める割合は、2015年の83%に対し、2020年でも79%を維持するとした。この5年間に最も容量が拡大するHDDの製品分野が、ニアライン向けという。


SSDの数分の1の価格を維持
 これらの予測の根拠は、HDDとSSDの間に依然として残る価格差である。テクノ・システム・リサーチの調べによれば、2016年に出荷されたHDDとSSDの1Gバイト当たりの平均価格は、それぞれ0.04米ドルと0.332米ドル。約8倍の開きがある。ここまで差があると、頻繁に使うデータはSSDに、滅多にアクセスしないデータ(いわゆるコールドデータ)はHDDに格納する方法が、ストレージ装置のコスト対効果を最も高くできることになる。

 HDDメーカーやユーザーの間では、同様な価格差は当分残るとの見方が根強い。実際、米Google(グーグル)でVP Infrastructure を務めるEric Brewer氏は2016年2月の講演で、「今後も5~10年は(主要な記録媒体として)HDDを使い続ける」と表明し、その一因として「SSDの(価格当たりの容量の)伸び率はHDDと大して変わらない」ことを挙げた。


 価格差が縮まらないという根拠の1つは、NANDフラッシュメモリーでも大容量化が次第に困難になってきたことである。既にNANDフラッシュメモリーの容量増大は、微細化の代わりにセルを積み重ねる3次元化に大きく頼っている。3次元化では、層数が増えるに従い製造技術のハードルが次第に高くなる見込みだ。
 加えて、NANDフラッシュメモリーメーカーの寡占化が進み、極端な価格競争が起きにくいことも、両者の価格差を維持する方向に働く。今後のデータ量の増大を前提にすれば、無理な値付けでニアラインの市場を目指さなくても、NANDフラッシュメモリーには旺盛な需要が見込めるからだ。ただし、中国メーカーなどの新興勢力が市場に参入すると話は変わるかもしれない。

■1年に2Tずつ増加
 いずれにせよ、HDDがニアライン用途で生き延びるためには、より大容量の製品を、これまでと大差ない価格で提供し続ける必要がある。では、それは可能なのか。結論から言えば、少なくとも今後2~3年は、HDDの容量は順調に増えそうだ。
 現在、ニアライン向けの3.5インチ型HDD 1台当たりの容量は最大12Tバイト。米Western Digital(WD)とSeagateが、2017年前半に量産を立ち上げたばかりだ(図2)。HDD業界では、同クラスの製品の最大容量は2018年に14Tバイト、2019年には16Tバイトに達するとの見方が強い(図3)。
図2 1台で12Tバイトに。Western Digitalは2017年4月に、1台当たりの容量を12Tバイトに高めた3.5インチ型HDD「Ultrastar He12」の出荷を始めた(写真: Western Digital

 実際、大容量化でWDとSeagateの後塵を拝してきた東芝は、2018年に14Tバイトの製品を量産する計画だ。Seagate CEOのSteve Luczo氏は、2017年1月の決算発表の電話会見で、「今後の12~18カ月にニアライン市場で利用される容量は用途ごとに多様化し、(中略)最大16Tバイトが必要になるケースもある」と発言した。

図3 いわゆるニアライン用のHDDについて、今後の容量の推移と、利用できる大容量化技術を示した。2017年中には、1台当たり12Tバイトの製品に瓦記録方式を適用して容量を14Tバイトに引き上げた機種が登場する見込み