北朝鮮がアメリカと対話すれば、日本は「最大級の危機」に見舞われる

北朝鮮アメリカと対話すれば、日本は「最大級の危機」に見舞われる

左派にはわからない国際社会の現実

文句を言う相手が違うのでは?

弾道ミサイルに続いて水爆実験も強行した北朝鮮に日本はどう対応すべきなのか。左派系論者やマスコミには「圧力」よりも「対話」を求める声が多い。そこで今回は、対話路線に舵を切ると何が起きるか、検討してみよう。
左派系の各紙は水爆実験の翌日、9月4日付社説で示し合わせたように、米朝を軸にした関係国の対話による問題解決を訴えた。次のようだ。

「中ロと日米韓は、北朝鮮の行動を少なくとも一時的に停止させる外交的な措置をめざす必要がある。日韓だけでなく、中ロにも計り知れない影響をもたらす軍事行動は選択肢になりえない。まず中国が影響力を最大限に行使したうえで、既存の6者協議も活用し、米朝間や多国間の対話の枠組みづくりを進めたい」(朝日新聞
「私たちは、一つの方策として日米韓中露という北朝鮮問題に利害を持つ5カ国による協議を開くことを提案した。米朝の軍事衝突で利益を得る国などない。だからこそ、北朝鮮リスクを管理するという一点で協力する余地はあるはずだ」(毎日新聞

「トランプ政権は軍事行動も含め『あらゆる選択肢がテーブルの上にある』と主張するが、北朝鮮がレッドラインを越えて要求をさらに高めれば、交渉はいっそう難しくなる。米朝対話に総力を挙げるよう強く望みたい。…韓国と日本も含めた東アジアの関係国は…外交による解決を目指して意見交換を急ぐ必要がある」(東京新聞

最初に確認しておきたいのは、米国は軍事的手段を排除していないが、けっして対話を放棄したわけではない点
だ。「あらゆる選択肢」の中には当然、対話も含まれている。
北朝鮮が対話に応じるなら、米国はもちろん歓迎する。対話に応じようとしないのは、米国ではなく北朝鮮である。だから、新聞が「対話せよ」と注文をつけたいなら、それは本来、北朝鮮に対して、でなくてはならない。
ところが日本の新聞が注文をつける相手は、いつも米国や日本だ。それはなぜか。新聞自身が「どうせ北朝鮮に言ったって、相手は聞く耳を持っていない」とあきらめているからである。それに「北朝鮮は日本の新聞など読んでいないだろう」という思い込みもある。
そこで新聞は、もっぱら米国や日本に意見する体裁をとる。そのほうがもっともらしいと思っているのだ。

そういう態度も問題だが、肝心の事態を眺める見方がズレている。拒否する北朝鮮をどう対話に引きずり出すのか、という視点がまったくない。むしろ事態を悪化させているのは米国や日本と言わんばかりなのだ。
官房長官の記者会見では「米韓合同軍事演習が金委員長のICBM発射を促している。金委員長の要求に応えるような働きかけをしないのか」と質問した東京新聞の女性記者もいた。彼女の頭の中では、悪いのは合同軍事演習をしている米韓なのだ。こうなるとトンチンカンを通り越して、北朝鮮の手先同然ではないか。

米国は本土の安全しか興味がない

そこを指摘したうえで、以下、北朝鮮が対話に応じた場合を考えてみる。
北朝鮮の獲得目標は、金正恩体制の継続に対する米国の保証だ。金正恩朝鮮労働党委員長は核とミサイルさえ手に入れれば、米国に脅されずに現体制で生き残れると考えて、核とミサイル開発にばく進している。
これに対して米国の最優先目標は何かといえば、米国自身の平和と安全確保だ。トランプ大統領は繰り返し「日本や韓国の同盟国を守る」と言明している。とはいえ、日韓よりも米国自身のほうが大切なのは言うまでもない。
米朝対話が始まると何が起きるか。「金正恩体制の維持と引き換えに、北朝鮮が米国本土の安全を保証するかどうか」が最大の焦点になる。双方が互いに最重要課題をテーブルの上に出し合って取引が成立するかどうか話し合う。それが対話(=交渉)の核心部分になるのだ。
具体的に言えば、米国は本土の安全を確保するために核の運搬手段である大陸間弾道ミサイルICBM)の放棄が実現すれば、最低限の要求は満たされる。核兵器は廃棄できなくても、核爆弾が本土に飛んでくる恐れはなくなるからだ。

1962年のキューバ危機では、当時のソ連キューバ弾道ミサイルを持ち込もうとして、米国と一触即発の危機になった。今回は当時のキューバ北朝鮮に置き換えれば分かりやすい。米国は北朝鮮が米国本土に届く核弾頭付きICBMを手にするのが絶対に許せないのだ。
一方、北朝鮮ICBM放棄と引き換えに、米国から金正恩体制維持の保証が取り付けられれば、妥協するかもしれない。実際には、核兵器ICBMの完成が間近ないまとなっては、北朝鮮が取引に応じる可能性はゼロでなくても極めて低い。それでも頭の体操を続けてみよう。
そんな米朝の取引が成立すると、日本はどうなるか。

日本を射程に入れた中距離弾道ミサイル、ノドン(射程距離1300~2000キロ)はすでに数百基が実戦配備されている。ノドンは(完成済みかどうかは別にして)小型核弾頭や化学兵器弾頭も搭載可能と言われている。
つまり、米国は北朝鮮との交渉でICBM放棄を勝ち取って安全を確保したとしても、ノドンが残る限り、日本にとって危機は終わらない。むしろ米国が安全になれば自国の安全を最優先する結果、日本が脅されても米国の本格介入を期待できなくなる危険性すらはらんでいる。
これには「日米安全保障条約があるから大丈夫」という反論があるだろう。だが、それは「憲法9条があるから日本は平和」というのと同じだ。国の平和と安全は一片の条約や憲法のような「言葉」で守られるものではない。あくまで力を背景にした現実の国際関係が基盤になる。

「対話路線」の皮肉な末路

自国の安全が確保されているのに、あえて「火中の栗」を拾うなら、栗(=日韓)の運命が最終的に自国に関わると確信できたとき以外にない。米国がそう確信するかどうかは米国の問題である。だからこそ、次は日本の選択が問われる。
米国が北朝鮮によるICBM放棄で危機を終結させるなら、日本や韓国は自前の安全保障強化を検討せざるをえなくなるだろう。それが、いま内外で話題に上りつつある日本、韓国の核武装論である。
日韓がノドンで脅されてきたのはいまに始まった話ではない。だが、数度の核実験を経て小型核弾頭まで完成するとなると、脅威の水準は一挙に高まる。脅威が高まるなら、守る側も抑止力を高めざるをえない。そんなスパイラルの着地点が日韓の核武装論なのだ。

以上をまとめよう。米朝が対話に踏み出して北朝鮮と交渉すれば、米国はICBM放棄を勝ち取って、最低限は自国の安全を確保できる可能性がある。その後、北朝鮮の核に脅され続ける日本や韓国を、米国がどこまで親身になって守るかどうかは米国次第だ。
一方、北朝鮮は米国に認められた核保有国として堂々と核開発を続けるので、日本や韓国に対する脅威は格段に増す。そのとき日韓は米国頼みでない自前の抑止力を高めるために、やがて核武装を目指さざるをえなくなる。それが対話路線の行き着く先ではないか。

もちろん、米国が日韓の立場を考えて核兵器ICBM両方の廃棄を求めるケースもあるだろう。だが、それには北朝鮮がイエスと言うわけもなく結局、交渉はまとまらない。
日本の左派系論者やマスコミは「北朝鮮と対話すべきだ」と主張するが、では「いったい何を獲得目標にして、どう対話するのか」については何も語ろうとしない。彼らが言っているのは「とにかく殴り合いはするな。話せば分かる」という程度の話である。

それで対話した結果、日本が核武装せざるをえなくなったら、彼らはなんと言うのだろうか。今度は「核武装絶対反対!!」と声を張り上げるに違いない。左派系論者やマスコミの思考停止が日本の核武装を招く。彼らにとっては、究極の皮肉なシナリオではないか。