「対岸の火事」と決め込んでいた米ウォール街の住人が慌て始めた 「開戦は新月の夜が多い…」

対岸の火事」と決め込んでいた米ウォール街の住人が慌て始めた 「開戦は新月の夜が多い…」


 北朝鮮弾道ミサイル発射のニュースがニューヨークに伝わった米東部時間14日夜、夜間取引市場では株式先物が下落し、「有事」に買われる金の価格が上昇した。
 これまでは北朝鮮問題を「対岸の火事」と決め込んでいた米ウォール街の住人が慌て始めている。
 ニューヨークのマンハッタンには「デリバーリング・アルファ」なる金融のプロの間では名の通った会合がある。日本語に意訳すると「市場に勝つ」。米国を代表する銀行家や運用責任者が、ご自慢の投資戦略を開陳する集まりである。
 「デリバーリング・アルファ」は毎年夏、トランプ米大統領が住んでいたトランプタワーそばにある高級ホテル「ザ・ピエール」で開催される。今年は9月12日に開かれ、ムニューシン米財務長官ほか、米投資会社ブラックストーン・グループや米大手銀JPモルガン・チェースなど名だたる金融機関のトップが集まった。
 「デリバーリング・アルファ」は7年目になるのだが、今年は金融とは毛色の違った会話が交わされた。投資で考慮すべきリスク要因として、これまで俎上(そじょう)にのぼったことすらない北朝鮮問題が初登場したどころか、頻繁に強調されていたのである。

 ちょうど前日の11日に国連安全保障理事会が6回目の核実験を強行した北朝鮮に対する制裁強化決議案を全会一致で採択したばかりだったが、「北朝鮮が矛をおさめた」とは参加者は誰も思っていない。米国と北朝鮮が開戦した場合、世界経済や金融市場に与える影響が話し合われた。
 ウォール街北朝鮮問題に染まり始めている。ソウルや東京に拠点を持つ金融機関の一部は、「BCP」と呼ばれ、非常時の対応策を事前に定めた事業継続計画を真剣に検討し始めた。市場ではミサイル製造の米レイセオンといった国防株が買われている。
 米朝開戦で収益が上がりそうな米軍需産業13社を「戦争銘柄群」として指数化すると、北朝鮮がミサイル発射を本格化させた今年4月以来、14%も上げた。これは、市場全体の倍の実績である。
 しょせん米国は太平洋と大西洋に挟まれた大きな島国。実際に有事が起きてしまわない限り、ウォール街の住人は「地政学リスク」に鈍感だった。

 だが、核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルICBM)の完成が日増しに近づいてくるといや応なしに緊張感が高まる。ICBMの狙いが米本土への到達だからだ。ウォール街からの資金で運営している地元シンクタンク外交問題評議会(CFR)でも北朝鮮問題はホット・イシューとなっている。
 「新月が訪れると緊張します」。「デリバーリング・アルファ」で再会した知り合いの投資家がこんなことを言っていた。
 この投資家によると、「歴史的に開戦は暗闇に包まれる新月の夜が多い」。このため、新月の前の日には、「(投資の損失を回避するような金融取引である)リスク・ヘッジをしている」という。ウォール街は本気で心配しているのだ。