量子コンピューターで開発、製造大手が相次ぎ導入

量子コンピューターで開発、製造大手が相次ぎ導入

2017/9/15 1:11 日本経済新聞 電子版
 次世代の高速コンピューターとして期待される量子コンピューターを日本の製造業大手が相次ぎ導入する。デンソーは数百台分の車の最適ルートを瞬時に導き出して渋滞解消に取り組む。JSRは新素材開発の迅速化を目指す。従来は数千年かかった問題を数分で処理できるため、多様なサービスや製品開発で、日本企業のイノベーション創造を後押ししそうだ。


 量子コンピューターは現在のコンピューターと作動原理がまったく異なり、電子などの物理現象を利用して性能を飛躍的に高めた。カナダのDウエーブ・システムズ(DWS)が世界で初めて商用化した。米ロッキード・マーチンがステルス戦闘機の開発に利用したり、米グーグルは人工知能(AI)の研究に応用したりしている。欧米勢が先行するが、日本企業でも導入する動きが出てきた。
 デンソーは世界的な都市問題となっている渋滞解消に向けた実証実験で、DWSの量子コンピューターを使う。来年にも実験を始める。
 渋滞が頻発する特定地域を走行する自動車のGPS(全地球測位システム)データを収集し、量子コンピューターが走行している数百台の車に目的地までの最適ルートを瞬時に探し出す。
 従来は車ごとの最適ルートを同時に導き出すには数十分かかっていた。独フォルクスワーゲン(VW)が量子コンピューターを使った中国・北京での実験では、約420台の最適ルートを数秒で探し出した。最適ルートを導き出す車の数を増やすことで、都市部の渋滞解消につなげられる。


 量子コンピューターで蓄積したノウハウを次世代のカーナビゲーションシステムに搭載することで渋滞を避けられるほか、自動運転などにも応用できる。20年代前半の実用化を目指す。
 タイヤの合成ゴムなどを手掛ける化学大手のJSRは新素材の開発に米IBMの量子コンピューターを試験導入する。IBMに社員を派遣し、運用ノウハウを習得している。25年をめどに研究開発での本格運用を目指す。
 化学品は膨大な分子データから有望な化合物(ポリマー)を設計して新素材を開発する。従来の数千倍という演算速度を生かし、新素材の開発スピード向上につなげる。
 あらゆるモノがネットにつながる「IoT」やAIの進展で、世界規模でデータ処理が膨大になっている。
 高速計算が得意な量子コンピューターを使うことで、AIの能力を飛躍的に引き出すことも可能となる。遺伝子の塩基配列の組み合わせも瞬時にできるため、医薬品の開発速度も速まる見通しだ。
 DWSの量子コンピューターの場合、消費電力がスーパーコンピューターの100分の1と小さい。販売価格も20億円を下回り、電力代を考慮すると運用コストはスパコンよりも割安といえる。ただ量子コンピューターは限定された課題のみを演算するため、万能ではない。どのようなテーマで効果を発揮できるのかの目利きも必要となる。