危険な米国の「北の核容認論」 日本に対する「核の傘」がなくなる危険性

危険な米国の「北の核容認論」 日本に対する「核の傘」がなくなる危険性


声明を発表する金正恩朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が22日配信(ロイター=共同)
 
米国のトランプ大統領と日本の安倍晋三首相がともに国連演説で北朝鮮核武装を激しく非難し、その阻止のための強い対決姿勢を強調した。日本にはその阻止の物理的な力はないとはいえ、日米連帯の強固な構えには期待が大である。
 ところが米国の一部ではその日米連帯を根元から崩しかねない北朝鮮核兵器開発容認論がじわりと出始めた。日本にもきわめて危険な黄信号だといえそうだ。

 この容認論の代表例はオバマ政権の大統領補佐官だったスーザン・ライス氏の8月のニューヨーク・タイムズへの寄稿論文である。「北朝鮮に核放棄をさせるにはもう軍事手段しかないから、米国は実利的な戦略として北の核武装を受け入れ、伝統的な抑止力でそれを抑えるべきだ」
 オバマ政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も「北の核武装を受け入れたうえで、そのコントロールの方法を考えるべきだ」と述べた。クリントン政権米朝核合意の交渉役だったロバート・ガルーチ氏も最近、「北の核兵器も抑止は可能だ」と語った。

 いずれも民主党政権の高官だった人物たちの新たな容認論である。
 米国の歴代政権は1990年代から共和、民主の党派を問わず、一致して北朝鮮の核開発は絶対に容認できないという立場をとってきた。ライス氏ら3人もみな政権内からその立場を主張してきた。ここにきての共和党トランプ政権の政策への反対意見には政治党派性もにじむ。
 トランプ政権は当然、この容認論を断固、排した。H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「ライス氏の主張はまちがっている」と断じた。北朝鮮が一般の国家の理性や合理性に従わない「無法国家」だから東西冷戦時代に米ソ間で機能した「伝統的な抑止」は適用できないと反論した。

 政権外でも北朝鮮核武装阻止の思考がなお圧倒的多数であり、容認論の危険性を指摘する向きが多い。
 その危険はまとめると以下のようになる。

 第一は核拡散防止条約(NPT)体制の崩壊の危険性である。
 米国も他の諸国も北朝鮮核武装をNPTの枠組みと規範に基づき阻もうとしてきたが、その核武装容認はこの体制自体を崩しかねない。北が核の技術や部品を他国に流す可能性や「韓国や日本も核開発へ進む」という展望もNPT体制の破綻となる。

 第二は北朝鮮が核の威力を自国の野望に悪用する危険性である。
 北朝鮮は韓国を国家と認めず、朝鮮半島の武力統一をも誓い、米軍撤退を求める。無法国家として国際テロを働く。こうした北朝鮮の国家としての好戦的な基本姿勢が核武装によりさらに先鋭かつ過激となり、いま以上の国際的脅威となる。

 第三は米国の日本に対する「核の傘」がなくなる危険性である。
 米国は「拡大核抑止」として日本への核の攻撃や威嚇に対しその敵への核での報復を誓約している。だが北朝鮮が米国本土への核攻撃もできるとなると、米国が自国の莫大(ばくだい)な被害を覚悟してまで日本のために核を使用することをためらうことも予測される。
 
これらの危険は日本での北核武装容認論にもそのまま当てはまるわけだ。(ワシントン駐在客員特派員)