朝鮮半島が反日勢力の手に落ちるのを米が容認…中朝めぐる重層的危機に備えよ

朝鮮半島反日勢力の手に落ちるのを米が容認…中朝めぐる重層的危機に備えよ モラロジー研究所教授・麗澤大学客員教授西岡力

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モラロジー研究所教授・麗澤大学客員教授西岡力氏(森本幸一撮影)

 私は10月20日付本欄で、金正恩政権の核ミサイル開発が米国の安全を脅かす水準に近づいており、トランプ大統領が軍事攻撃を決断する可能性に言及した。
 〈トランプ政権は軍事行動にあたって陸上部隊を使わない…文在寅大統領が戦争反対に固執して韓国軍を出さないなら、韓米同盟は破綻し、米国は中国軍による北朝鮮占領を許容する…南北ともに「反日親中政権」ができる〉
 本欄で11月9日付に中西輝政京都大学名誉教授が、10日付に島田洋一福井県立大学教授が同じ危機感を表明された。
≪日米韓の離間を企てる従北勢力≫
 金正恩氏の核ミサイル開発を阻止し拉致被害者全員を取り戻すために、われわれが通らなければならない危機が目の前に迫っており、その後ろに朝鮮半島全体が反日勢力の手に落ちることを米国が容認するという、もう一つの危機が重層的に控えている。
 習近平国家主席は太平洋の西半分地域は自分のものであるかのように「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と言い放った。河野太郎外相は直ちに反論した。わが国は中国の覇権の下で暮らすわけにはいかない。中国中心の儒教文明圏とは異なる一国一文明というわが国の国柄が壊されるかもしれない危機が、近くまで忍び寄ってきた。

 韓国の反共自由民主主義勢力が主導権を取り返して韓国による自由統一を実現するという、われわれにとって最善のシナリオの可能性もなくなったわけではない。朴槿恵大統領弾劾と文在寅政権樹立は韓国内従北勢力が主導したものだった。来年2月まで任期があった朴政権は「金正恩政権が核開発を放棄しなければレジームチェンジを目指す」と公言していた。弾劾がなければ、「安倍(晋三)・トランプ・朴」ラインで金正恩政権を強く追い込んでいたはずだ。
 従北勢力は日米韓の離間を狙ってきた。トランプ大統領晩餐(ばんさん)会に元慰安婦を招き、「独島」を冠したエビを出すなど信じがたい出来事もその文脈から理解できる。韓国内で従北勢力と反共自由民主主義勢力の戦いが続いている。
≪ジレンマにあえぐ金正恩氏≫
 金正恩政権に対する軍事圧力と経済制裁は効いてきた。9月3日の核実験、9月15日の火星12号ミサイル発射を最後にして、2カ月近く、軍事挑発がない。相変わらず言葉での挑発は続けているが、それだけでは核ミサイル開発は進まない。金正恩氏は7月に火星14号ミサイルのロフテッド軌道(高高度軌道)発射実験を2回成功させた。通常軌道での発射実験は、技術的にはいつでもできる。

 火星14号は射程1万キロで、米西海岸のロサンゼルス、サンフランシスコ、中部のシカゴまで届く。実戦配備を完成するためには通常軌道で発射実験を成功させる必要があるはずだが、それをしない。
 東海岸まで届く火星13号は一度も発射実験されていない。開発中の潜水艦発射ミサイル、北極星3号の発射実験もない。7回目の核実験もない。それらを全部成功させてはじめて米本土まで届く核ミサイル戦力は完成する(核実験は水爆弾頭が完成したので必要ないという見方もある)。
 何もせずに時間がたてば経済制裁が効果を上げ外貨が底をつく。実験をするとトランプ政権が軍事行動を決断する。金正恩氏は自分の身を守るためには早く米本土まで届く核ミサイルを持ちたいが、そのためには身の危険を冒して実験を続けなければならないという、ジレンマに陥っている。
≪「最後の決断」に拉致への怒りを≫
 米軍は世界最強の戦略爆撃機B1Bを今年21回も朝鮮半島周辺に飛来させている。9月15日にグアムを狙う火星12号の発射が行われた8日後の23日深夜には、グアムから2機のB1Bが海の休戦ラインを越えて元山沖を約2時間飛行した。いつでも平壌金正恩指令部をたたけるという心理戦だ。

 北朝鮮のレーダーは同機をとらえることができなかった。金正恩氏と側近らは大きく動揺したという。軍事挑発が止まったのはこの後からだ。住民に漏れないように厳命したが「B1Bには60トンの兵器が積める。それで北朝鮮全域は消滅する。核を4、5個持っていても対抗できない」という噂が拡散している。国家保衛省が必死で捜査をしているが、噂を広げた住民は捕まっていないと聞いた。
 米国務省内から「60日間軍事挑発をしないことが対話の前提条件」という発言が出てきた。トランプ大統領も韓国国会の演説で対話を頭から否定はしなかった。金正恩氏が核開発を停止してでも命ごいをしようと考えて、すり寄ってきたのか。私はもう少し圧力が強まらないとそこまでは行かないと判断している。事態の推移を注視したい。
 トランプ大統領拉致問題の深刻さを理解してもらう作業はほぼ完璧な成果を上げた。大統領は「家族会」と会ったとき、強い怒りと深い同情を示した。彼が最後の決断をするとき、心の底でその怒りが作用してくれることを祈っている。(モラロジー研究所教授・麗澤大学客員教授西岡力 にしおかつとむ)