待ち受ける3つの高いハードル 憲法改正は成就するか 公明は“仮眠”中?

待ち受ける3つの高いハードル 憲法改正は成就するか 公明は“仮眠”中?

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 自民党憲法論議が新たなステージに入りつつある。安倍晋三首相(63)が自民党総裁として5月に打ち出した改憲案を契機に、9条への自衛隊明記、緊急事態条項、参院の「合区」解消、教育無償化の4項目について2巡目の議論を終え、焦点は党内で改憲案の方向性を共有できるかに移る。だが、党内外には3つのハードルが待ち受け、改憲への道のりは険しい。
その1 自民党
 「今後はこれまでの議論を踏まえ、基本的な方向性について党内の合意を得るべく、精力的に議論していきたい」
 自民党憲法改正推進本部の細田博之本部長(73)は11月28日の全体会合で、党内議論の進め方についてこう言及した。教育無償化をテーマに議論したこの日の会合で改憲4項目の議論は区切りを迎え、細田氏ら推進本部幹部は今後、党改憲案のとりまとめに向けた意見集約に入る。
 だが、難航は必至だ。首相が9条1項と「戦力不保持」を規定した2項を維持したままでの自衛隊明記を示した案に対し、国防軍創設を盛り込んだ平成24年の党改憲草案にこだわる石破茂元幹事長(60)らは「草案をどう取り扱うのか」と主張。整合性の観点から異論を唱え続けており、推進本部は9条改正をめぐる党改憲案の方向性を示す際は両論併記にとどめる考えだ。

 緊急事態条項も、大規模災害時などに内閣の権限をどの範囲まで強めるのか、それとも大規模災害と国政選挙が重なった場合に国会議員の任期延長を認める程度にとどめるのか、党内の意見はまとまっていない。
 逆に、参院の「合区」解消は「選挙に関する事項は法律で定める」と規定している現行の憲法47条を改正し、各都道府県から1人以上の議員が選出される規定を設ける方向で大筋一致した。大学などの高等教育を含む教育無償化では、憲法に「無償」の文言を明記せず、国に教育環境の整備を促す努力義務を規定する方向性を確認した。
その2 公明党
 党内の意見集約が順調に進んだ場合でも、連立政権を組む公明党との調整は難易度が高い。同党は9条への自衛隊明記に慎重な姿勢を崩しておらず、山口那津男代表(65)は「自民党の議論を見守る」と静観を決め込む。
 自民党内で方向性が一致している改憲による合区解消についてさえ、北側一雄副代表(64)は「できるのか」と反発する。山口氏は教育無償化について「必ずしも憲法改正しなければならないと断定的に考えているわけではない」と断言した。

 改憲をめぐる自公両党の調整でも、北側氏は「事前に協議する類いではない」と突き放す。背景には、協議に入れば自民党のペースに持ち込まれるとの警戒感があるようだ。ただ、自民党には集団的自衛権を含む安全保障法制をめぐり、慎重論が根強かった公明党を巻き込み、法制化にこぎつけた「成功体験」がある。推進本部幹部も「公明党は今、“仮眠”しているだけだ」と語る。
 改憲論議が進めば、与党協議せざるを得ないというわけだが、現時点で自公両党の隔たりはやはり大きい。
その3 野党
 改憲に向けて与党で歩調を合わせられたとしても、立憲民主党など護憲色の強い野党との合意形成という高い壁が待ち受ける。最大の難関ともいえる9条改正について、野党第一党立憲民主党枝野幸男代表(53)は「現行の安全保障法制は違憲であり、これを前提に自衛隊を書き込むことは容認できない」と繰り返しており、与野党合意は道筋すら見えていない。

 改憲勢力と位置づけていた日本維新の会でさえ、自民党が教育に関して憲法に「無償」の文言を明記しない方針であることに反発している。馬場伸幸幹事長(52)は11月29日の記者会見で「教育無償化は自民党衆院選公約に入れていた。トーンダウンにより、どうなるのかをよく考えるべきだ」と批判し、新たな火種となりそうだ。
 首相は11月17日の所信表明演説で「互いに知恵を出し合いながら、ともに困難な課題に答えを出していく。そうした努力の中で、憲法改正の議論も前に進むことができる。そう確信している」と改憲論議の進展を訴えた。しかし、「急がば回れ」という考え方で与野党の合意形成に時間をかければ、首相が掲げた「2020年を新しい憲法が改正される年にしたい」との目標は危うくなる。
 このような状況の下、衆参両院で改憲勢力が3分の2以上を占める議席を背景に改憲案の国会発議、そして最終関門である国民投票に持ち込めば、国論が真っ二つに割れる事態を招くリスクをはらんでおり、改憲が成就するかは見通せていない。