トヨタの水素社会の夢、EVブームが侵食-FCV薄れる存在感

トヨタの水素社会の夢、EVブームが侵食-FCV薄れる存在感

佐野七緒、ケビン・バックランド
2017年11月28日 8:47 JST 更新日時 2017年11月28日 11:36 JST
  • FCVの国内販売台数は2200台と20年目標の4万台とは大きな隔たり
  • 急速な各国の環境規制強化で主要メーカーはEV開発に軸足
電気自動車(EV)に対して世界的な注目が集まるなか、トヨタ自動車が次世代エネルギー車の本命と位置づけてきた燃料電池車(FCV)の存在感は薄れつつある。
水素ステーションで燃料を充填するトヨタ自動車のFCV「ミライ」
Photographer: Patrick T. Fallon/Bloomberg
  トヨタは今年の東京モーターショーで、1回の水素充填(じゅうてん)で航続距離1000キロを実現するコンセプトのほか、燃料電池バスの将来モデルも公開するなどFCVに関して意欲的な発表を行った。ただ今回のショーでFCVのコンセプトを展示したメーカーはトヨタのほかは独メルセデスのみで2016年にFCVを発売しているホンダは複数のEVコンセプトを目玉として打ち出し、FCVの事業計画については触れなかった。
  トヨタは14年12月に世界に先駆けてFCV量販車「MIRAI(ミライ)」を市場投入、政府や他業界とも連携して水素社会の構築を目指すとしていた。しかし、ブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンスのまとめでは、17年6月時点のFCVの累計国内販売台数は2200台と経済産業省が20年までの普及目標とする4万台に対し5.5%にとどまっている。ミライの今年9月末時点の累計世界販売台数は4300台で20年ごろ以降に年間販売台数3万台以上とする目標との隔たりは大きい。
  一方、米国や中国、インドなど巨大市場での自動車への環境規制が強まり、世界各国の当局や自動車メーカーは技術的なハードルの低いEVへのシフトを加速させている。こうした動きを受けてトヨタ自身も、昨年にEVの本格開発を開始し、今年に入ってマツダデンソーとEV開発の新会社を設立、20年からまず中国でのEV投入を発表するなど軌道修正を迫られている。
  FCVの普及に向けてはインフラの導入費用の高さもネックの一つとされている。経産省の資料によると、EVの急速充電器の初期費用は330万-1650万円であるのに対し、水素ステーションは4億-5億円とされている。EVの急速充電設備は7000台以上、水素ステーションは整備中も含めて約100カ所という。政府では、水素利用の拡大には規制を見直す必要があるとし、今年末までに水素社会の実現に向けた基本戦略を策定する予定だ。
  「FCVよりもEVの方が会社側は利益を得やすく、国としてもインフラが整いやすい」と日本コムジェストのポートフォリオ・アドバイザー、リチャード・ケイ氏は言う。今後の自動車業界の展望は中国とインド市場の動向に左右されるとみており、両国政府の政策やインフラの観点から「まずEVが立ち上がらないとあまり意味がない」といい、「FCVは先進国ではいろいろな可能性があると思うが、発展途上国で広く使われるかは見えてこない」と話す。
  トヨタの友山茂樹専務は7月に開かれたイベントで、「実際、今、水素インフラはそう大きく広がっていない」と指摘。FCVを普及させようとすると「水素インフラが普及しないといけない。そのためには需要も増えないといけない。サプライチェーンもできてないといけない」と話した。一方、「水素プロジェクト自体がそもそも2030年くらいのモビリティー社会を見ているのでそこに向けて今手を打っている」と説明した。
  トヨタはホンダ、ゼネラル・モーターズ(GM)、ロイヤル・ダッチ・シェルなど28企業で「水素協議会」を構成、今月には30年までに1000万-1500万台のFCV、50万台の燃料電池トラックが走るとの試算を公表した。トヨタでは米国で大型商用トラックの実証実験を進めているほか、中国でミライのほか商用車に拡大し実証実験を展開するとしている。
  デロイトトーマツでは、30年にEVが新車販売に占める比率は6.8%、FCVが3.2%、50年にはそれぞれ60%と26%と試算している。尾山耕一シニアマネジャーは、「5年くらいのタイミングでみるとEVの方が先行するのではないか」と指摘。ただ、「EV一色になるとも思っていない。10-20年という長いスパンでみたときにFCVの有効性は必ずある。共存していく状態を目指していくべきだ」と話した。