乃花親方の降格処分は白鵬の減給に比べバランスを欠く裁定か

貴乃花親方の降格処分は白鵬の減給に比べバランスを欠く裁定か

12/29(金) 5:00配信

THE PAGE

日本相撲協会は28日、臨時理事会を開き、貴乃花親方の「理事解任」を評議委員会へ提案することを当事者の貴乃花親方を除く全会一致で決定した。評議員会は1月4日に臨時評議員会を開き、その解任提案を了承するかどうかを決めるが、協会寄りの評議員会が受け入れることは間違いなく事実上の「降格処分」。引退した日馬富士が起こした暴力事件の被害者側である貴乃花親方に「降格処分」が下されるという異例の結末となった。

 この日、会見を開いた危機管理委員会の高野利雄委員長は、理事解任(降格処分)を決めた理由として巡業部長として暴力事件の協会への報告義務を怠った点、協会による貴ノ岩に対する聴取を拒否するなど問題解決に非協力だったことの2点を挙げ、「理事としての忠実義務違反」と断じた。これらの“非”について貴乃花親方は文書による説明に加え、協会の聴取の際にも直接弁明をしたが、高野委員長は「極めて不可解な弁明」「危機管理能力を問われる問題」と論破した。

 この協会の貴乃花親方に対する処分を巡ってネットやSNS上では早くも様々な意見が飛び交っているが、「厳しすぎる」「異様」「納得がいかない」「おかしい」との声が大半を占めた。

 特に目立った意見が、ここまで行われた加害者側の関係者の処分よりも、被害者側の貴乃花親方の処分の方が重いという矛盾に対する批判だ。

 協会の懲罰規定には「懲戒解雇」「引退勧告」「降格」「業務停止」「出場停止」「報酬減額」「けん責」の7段階あるが、今回、貴乃花親方に下された「降格」は3番目に重い処分。

 暴行事件の加害者である日馬富士の師匠である伊勢ケ浜親方は、自ら理事の辞任を申し出て、結果的に「降格処分」となったが、今回の暴力事件の引き金を作り“黒幕”と目される横綱白鵬は、1か月半の「報酬減額」だった。また協会の最高責任者である八角理事長も自ら3か月分の報酬返上を申し出たが、それらの処分に比べ「最も重い処分がなぜ被害者側の貴乃花親方に下されるの」と疑問を呈する意見が圧倒的だった。

 相撲ジャーナリストの荒井太郎さんも、「考えていたよりも重い処分。白鵬らが報酬減額処分だったことを考えれば、多少バランスに欠けるかなとも感じた」という意見。

 さらに「ただ降格は3つ目に重い処分だが、業務停止に比べると、稽古場の指導も、次の理事選挙への出馬も可能になる。実情としては、そこまで重い処分ではない。間をとって落としどころを探したようにも感じた」と続けた。

 理事会終了後の会見で八角理事長は、「1月場所の後に行われる年寄会の理事選挙に立候補することは可能」と明言しており、貴乃花親方が出馬すれば当選は濃厚で、理事降格処分は、事実上、1か月の謹慎のような形になる。もし一段階下の「業務停止」処分だった場合は、理事選にも立候補できず、部屋での指導もできなかったため実質は“軽い処分”だったというわけである。


 それでも、被害者側の貴乃花親方が、暴力行為をその場にいて止めず事件のきっかけを作った白鵬よりも遥かに重い処分となったことに違和感を感じる「忠実義務違反」があったことは否定できないとはいえ、貴乃花親方側の弁明を考慮して、同じく減給処分まででよかったのではないか。そもそも加害者側の事件に関する処分と、貴乃花親方の理事としての責任を問う処分を“同じ土俵”で裁くことにも問題がある。

 なぜここまで厳しい処分になったのか理解に苦しむ。

「懲戒解雇」「引退勧告」「降格」の3つの処分は、理事会が単独で決めることはできずに評議員会が最終決定するシステムになっている。協会とすれば、「決めたのは我々でなく外部の評議員会」とのスタンスをとりたかったのかもしれない。

 前出の相撲ジャーナリストの荒井さんは、「多分に協会側の感情的なものが入ったのではないか。加えて評議員会の池坊保子議長がメディアを通じて貴乃花親方の一連の行動に否定的な意見を発信してきたことも影響を与えたと思う」と推測する。

 もし協会の姿勢に反旗を翻している貴乃花親方に対する何らかの感情の加わった裁定であれば、なおさら「公益財団法人」である組織としてのガバナンスを問われることになるだろう。

 今後、気になるのは、1月4日の評議員会で「降格処分」が正式に決定した後の貴乃花親方のアクションだ。 理事会で文書を配布したり、聴取に弁護士を同席させたりしていた一連の貴乃花親方の行動を見ると「地位保全」など、今回の処分に関して法的な訴えを行う可能性も捨てきれない。
 もし法廷闘争に、この問題が持ち込まれることになれば、泥沼化は必至。前出の荒井さんも、「私は法廷闘争になることは、協会には当然のことだが、貴乃花親方にもメリットは何もないと思う。そうなると、この問題は泥沼化してしまう」と危惧する。

 だが、貴乃花親方へのバランスに欠く厳罰は、協会が今なお“なあなあ”の“お仲間意識”で固まった旧態依然とした組織から脱却できていないことを露呈したように思える。相撲界が根絶できていない暴力問題の再発を防止するには、いっそのこと泥沼化することも必要なのかもしれない。