女性への人命救助は、セクハラになるのか否か? 男性を迷わす境界線とは

女性への人命救助は、セクハラになるのか否か? 男性を迷わす境界線とは

人命救助
緊急時にやむを得ず体を触ってしまうこともあろうが、後に訴えられるリスクを考え躊躇する気持ちも理解できよう
 昨年12月、ツイッターで意識を失った女性へのAED自動体外式除細動器)使用に関する「デマ」が拡散された。
 デマの内容は、ある会社で行ったアンケートで、「多くの女性社員がAEDを男性に使われた場合『セクハラで訴える』と答えた」というもの。
 またそのような背景から、その会社では「女性社員が倒れていたときの救助活動一切を女性にさせ、男性しかいないときには女性スタッフを呼び出すか、契約書に本人の署名をしてもらってから救助する」という「規約」まで存在する、というような投稿だった。
 通常、AEDを使用する際には、服を脱がせて両胸の肌に直接パッドをあてる必要がある。
 この投稿は1万回以上もリツイート(拡散)されるなど大きな注目を集め、議論を呼んだ。ツイッターネット掲示板には、「確かにこれは難しい問題だ…」「訴えられるくらいなら、何もしない方がマシ」「命の危機にそんなことを気にする女性は、救助する必要ないのでは」との意見まで出ることになった。
 しかし、実はこの投稿は、注目を集めたいがために作り上げた真っ赤な嘘。後日、デマを発信したユーザーは謝罪し、反省の意を述べている。
 弁護士によると、「罪に問われることはない」ようだ。しかしインターネット上では、「このデマツイートによって、今後女性の救助をためらう男性が増えるのでは」といった懸念が広がっている。
 同じような問題は、同じく昨年12月21日に韓国中部の忠清北道堤川(チェチョン)市で起きた、8階建てのスポーツセンターでビル火災でも起きた。
 この建物は、サウナやスポーツジム、レストランなどが入った商業ビルで、午後4時ごろに1階の駐車場で出火し、瞬く間に炎が燃え広がったという。
 報道によると、この火事によって29人の死亡が確認され、39人が負傷。(参照:nocutnews
 多数の死者を出した被害拡大の背景には、死者29人のうち20人が女性のサウナ利用客で、浴場の外からしか避難を促されなかったことにより、逃げ遅れた可能性があると指摘されている。
 韓国の消防関係者によると、火災を真っ先に知った建物のオーナーは、男湯やジムの利用客に避難するよう直接呼びかけたが、2階の女子浴場には駆け込まず、外から避難するように叫んだだけだと供述しているという。

「女湯かどうかなんて気にしてる場合か」と批判殺到

 このオーナーは男性で、本能的に女湯に入ることを避けた結果であろう。しかし、調査によると火災発生当時、建物にはオーナー以外にも、7人の職員がおり、中には女性職員もいたのだとか。

 火災目撃者の情報によると、この女性職員は火災を知るや否や、我先に脱出したという。
「一階からの出火で二階の被害は目に見えているのに、女湯とかそんなこと気にしている場合?」
 当然ながらネットでは、男性のオーナーの対応に非難の声が上がっている。
 しかし、一方で同情の声が多いのも事実だった。
「これは難しいな……(女湯に)入っても叩かれるし、入らなくても叩かれる」、「女湯に入れる勇気ある男なんて、そうそういないだろう」、「状況はわかるけど、私でも入れなかったと思う」「こんな事態でも男女間で気を使わなきゃならない、この社会そのものを変えるべき」(参照:DogDrop.net)など、男性オーナーの心情を理解するような意見も目立つ。
 確かに、先日のAEDのデマのように、男性が女性の胸や裸を見るともなると、躊躇が出てくるかもしれない。そしてその躊躇の根元には、救助後の不安が絶対的に大きい。
 もし訴えられたら。もし痴漢扱いされたら。
 しかし、その躊躇が生死を分けることも事実。非常事態の中で、そんなことを気にしなければならない社会風潮こそ勇気をもって変えるべきなのだろう。この躊躇に対して、納得と同調が蔓延したときに、悲惨な事故はまた起こる。
<文・安達 夕 @yuu_adachi