平昌五輪・北朝鮮の「日本人へのラフプレー」を韓国人はこう見た

平昌五輪・北朝鮮の「日本人へのラフプレー」を韓国人はこう見た

もしどちらかが大怪我を負っていたら…

反日パルチザンか?

去る2月20日、平昌オリンピック男子 ショートトラック500メートル予選でゾッとする一幕があった。北朝鮮のチョン・グァンボム選手、日本の渡辺啓太選手、韓国の黄大憲選手、アメリカのトーマス・インサク・ホン選手が出場した予選7組のレースでの出来事だ。
スタート直後に前方で転倒した北朝鮮のチョン選手が日本の渡辺選手のスケート靴のブレードに手を伸ばし渡辺選手と接触したのだ。第1コーナー前での転倒した場合、再スタートというルールに従い、レースは2度目のスタートを切ることになった。
ところが、再スタートとなったレースでも危険な場面が再現された。最初のコーナーを回ろうとしたとき、北朝鮮のチョン選手が外側を滑っていた渡辺選手の方向に倒れ、足を目一杯伸ばし進路を妨害したのだ。
まるで、サッカーのスライディングタックルを見ているような危険なプレーだった。幸いにも渡辺選手はこれをとっさによけ、その後すぐに体勢を整え直しレースを続行、2位で予選を通過し、一方で北朝鮮のチョン選手は妨害行為で失格となった。
1度目も2度目も、一歩間違えば大怪我を負うことになるヒヤリとする瞬間だった。チョン選手の手に引っかかって渡辺選手が転倒する可能性も十分にあったし、チョン選手自身も渡辺選手のスケート靴のブレードに接触し流血騒ぎになっていてもおかしくないような状況だった。
この出来事に対し、韓国内のインターネットでの反応は、北朝鮮選手への批判が相次いだ。いや、正確にいえば批判というよりは、驚きと呆れたという反応だ。誰の目にも明らかに故意による進路妨害だと映ったのだ。韓国人の目にさえ「あそこまで日本選手に対する敵意があるなんて」と首をすくめるような行為だったということだ。
韓国人にとってショートトラックは、ずいぶん前から強豪国であると自負し、注目して来た競技だ。よく知っている競技だからこそ、選手間の小競り合いが熾烈で、接触があったり、進路妨害と判定されて失格になるようなケースも珍しくないということは良く知っている。
だが、今回ほどに過激なプレーというのは見たこともなかった。それで接触場面を目にした人たちは「反日パルチザンか?」、「記録ではなく日本人選手を倒すのが目標じゃないのか?」といったジョークを飛ばしながら話題にしているのだ。

韓国が日本批判に回るのは必至

レースの結果を見て、私は大きく胸を撫でおろした。安堵した理由は、まず大きな事故とならずにレースが終了したこと。怪我を恐れずに(としかとれない勢いで)相手の進路に手を伸ばし、相手に向けて鋭くスケートのブレードを突き付けたが、本当に運のよいことに軽い接触で終わった。
そして、進路妨害をした北朝鮮選手は失格になったが、進路妨害をされた渡辺選手が無事に予選を通過することができたこと。万が一、接触が理由で渡辺選手が大怪我でもして次の試合に出場できなかったらどうなっていたかを想像してみて欲しい。これが安堵した理由だ。
今回のプレーについて、日本でも北朝鮮選手に対する非難の声は上がっているが、渡辺選手が負傷せずに、予選を通過したからからこの程度で済んでいるのではないか。万が一ここで脱落することになっていたら、現状とは比較することもできないほどの怒りの声が上がっていたに違いない。そうなっていれば、レースを見た日本人の北朝鮮に対するイメージは益々悪化していただろう。
そして日本のインターネット上では北朝鮮が何かの問題を起こしたら、北朝鮮と同じ民族である韓国まで同一視して非難するコメントが登場することがある。韓国の過去のラフプレーに言及しながら、韓国とは関係ない事件に対しても同じ「民族」として非難するのである。
そんな非難が出てくれば次に何が起こるか。韓国のインターネット報道、そしてネットユーザーたちの中には、日本の掲示板やSNSから嫌韓発言をピックアップして紹介することでクリック数を稼いでいるものがある。これが元々は大して関心を持っていなかった韓国人の心理に火を点ける役割をするというのは最近よくあるパターンだ。
そこで、韓国を批判する日本のネットの書き込みを目にした韓国人はどう反応するだろうか? 違反をしたのは韓国人ではなく北朝鮮人だと、韓国に対する非難を止めるように求めるだろうか? それとも、日本と一緒に北朝鮮の適切でないプレーを非難するだろうか?
そのいずれでもなく、韓国は日本を批判するだろう。これが私の考えだ。
韓国人は民族主義が強く根付いた国だ。同じ民族が他国と対立することになれば、まずは同じ民族を擁護し応援する傾向がある。そして、その相手方が日本であった場合には猶更この傾向が強く出るのだ。

北朝鮮71.8% 、日本20.6%

2013年、韓国のシンクタンク・峨山政策研究院が周辺6ヵ国間の試合がある場合にどこを応援するかという調査を行った。報告書によると北朝鮮と日本がサッカーの試合をする場合には北朝鮮を応援するという回答は71.8%、日本を応援するという回答は20.6%であった。
アメリカに対してはアメリカを応援するが57%、北朝鮮を応援するが38.1%で、 アメリカの方が高いが、本調査機関より2ヵ月前、北朝鮮の3次核実験の前の結果を見ると、アメリカが47.8% 北朝鮮が47.7%と、ほぼ同率であった。
この調査の結果で際立っているのが、日本に対する反感だ。韓国人はアメリカ、中国、ロシアが日本と対戦するときには「日本の敵」を応援すると回答しているのだ。いずれも圧倒的な比率を示している。
アメリカについていえば、韓国人が数多く移民、留学、旅行に出かけていて親しみのある国であるという理由が挙げられるかもしれない。だが、中国やロシアについてはアメリカに対するような親近感を感じている人はさほど多くない。
それにもかかわらず韓国人は中国やロシアを応援すると答えている。これはこれらの国が好きだから、あるいは親近感を感じているからではなく、その国が対戦する相手が日本だからだ。言い換えれば日本に対する反感のためだということができるだろう。この点についてはYTN(韓国のTV局)でも、この結果を受けて「反日感情を反映したもの」と解説している。
北朝鮮は韓国と軍事的に対立している「敵」である。共産主義を掲げる北朝鮮自由民主主義を掲げる韓国では正反対の価値観に基づいた国である。
それでも、軍事同盟を結ぶ国(アメリカ)と北朝鮮が試合をすれば北朝鮮を応援するという人々が相当数いるのだ。
民主主義や市場主義経済という点では韓国は日本とも同じ価値観を共有しているといえる。それでも北朝鮮を応援するという人が圧倒的多数を占めるのが韓国社会だ。この事実は何を意味するのか、日本と北朝鮮の間でトラブルがあったときにどんな結果を生むのか。
調査結果から読み取れるのは、韓国人は価値観を共有できる相手(日本)よりも血縁(北朝鮮)を味方と考え応援する傾向があるということだ。例え間違った行為を行ったとしても同じ血を受け継ぐものを重視する強力な「民族主義」の副作用である。
90年代までは学校教育の場でも、ドラマや映画の中でも北朝鮮は「敵」以外の何者でもなかった。ところが民主化が進み、左派政権が政権を握ると徐々にではあるが同質性や共存が強調される方向、ほぼ真逆と言える方向に向かって舵が切られたのだ。
朝鮮戦争を背景に韓国軍が北朝鮮軍と協力しアメリカ軍の爆撃を阻止するというコメディ映画が大ヒットし、現在の学校教育の場では、韓国語とは少し違う北朝鮮の言葉を使う友達(脱北者)に対して配慮しましょうと、教科書を使って指導しているのが韓国の現状だ。
このような社会的雰囲気が定着したところへ、朝鮮人慰安婦、強制連行などの問題が「拡大再生産」され出回っていることを加味して考えてみてほしい。仮に今回の試合で北朝鮮選手が日本選手に衝突したことで<北朝鮮VS日本>という構図が出来上がったならば、韓国人の多くが北朝鮮を擁護し、日本を非難する側に回るという予想は十分に現実味を帯びたものではないだろうか。

日本のマスコミはどう伝えたか

もう一つ考えてみたいのは、万が一北朝鮮の選手が渡辺選手に行ったのと同じ妨害行為を韓国人選手に対して行っていたらどうなっていたか、ということだ。韓国人選手が被害者だったのなら、韓国では北朝鮮に対しものすごい批判が起き、反北感情を爆発させていたであろうことは間違いがない。
民族主義が強いと先に述べたが、同じ民族でも韓国人対それ以外という構図となればナショナリズムが勝る。海外同胞や、外国に帰化した韓国人を見れば同じ民族だと応援するが、争う相手が韓国選手であれば応援するのはやはり韓国人ということである。
仮に、北朝鮮選手から韓国選手に妨害行為がなされたとしたら、韓国社会は北朝鮮に対してはもちろんのこと、北朝鮮選手団を招待した文在寅政権に対しても非難の声をあげ、政権には大打撃になっていたに違いない。
それでだろうか?  韓国選手に対しては、北朝鮮選手から牽制や妨害行為とみてとれるような動きは一切おこなわれず、ひたすら日本人選手が走る方向に「転倒」を繰り返した。

北朝鮮選手の細やかな配慮に応える形だったのだろうか? 違和感を覚えたのは韓国の主要マスコミはほとんどこの危険極まりない出来事について非難し、問題視することをしなかったということだ。報道は、北朝鮮選手が失格となったという事実のみ短く伝えるか、競技後に韓国選手が失格となった北朝鮮選手を慰めたと「美談」といして紹介するにとどまった。

違和感を覚えたのは私だけではなかったのだろう。海外ではどのように報道されているのかと、インターネット上で外信を確認する韓国人が少なくなかった。自国でオリンピックが開催されているのに、具体的な情報を外国報道に依存するという奇怪な現象が起きたのである。
国内で十分な情報を得ることが出来なかったのは、このレースがそれほど注目されていない予選だったからだろうか? それとも韓国マスコミの、誰かに対する「忖度」の結果だろうか?
日本のマスコミがこの危険行為をどんなふうに評価し、伝えたのか、気になるところである。