手作りドローン集団がロシア空軍基地を襲撃

シリア政府軍とロシア軍によるものとされる爆撃があったシリア首都ダマスカス近郊の東グータ(2018年1月6日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / ABDULMONAM EASSA 〔AFPBB News
 シリア、イラクウクライナではすでに民生ドローンの軍事転用が盛んに展開されている。ウクライナの世界最大の弾薬庫がドローンによって爆破され、米国の戦略家たちの間で議論が起きたことは、本コラムでお伝えしたとおりだ。

(参考)「自衛隊はドローン1機の攻撃を防げない」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50754

 さらにここにきて、人類史上初の自家製ドローンによる集団攻撃が実施され、大きな衝撃となって報じられている。今回は、その概要と意味について論じてみたい。まずは、その概略を見てみよう。

手作りドローン集団がロシア空軍基地を襲撃

 1月5日、13機のドローンがシリアに展開するロシア軍を襲撃した。10機がフメイミム空軍基地へ、3機がタルトゥース海軍基地に向かい、攻撃を敢行した。これらは固定翼タイプの無人機であり、10発の爆弾を抱えていた。
 ロシア国防総省の公式発表によれば、7機は対空ミサイルによって撃墜され、残り6機は対ドローン電子戦装置によって強制着陸された。着陸に至った6機の半数の3機が爆発し、結局、3機が鹵獲(ろかく)されたという。

 ドローンの機体を調べたところ、飛行経路はGPS誘導され、最大100キロメートルもの航続距離をもっていた。これは戦艦大和の主砲の約2.4倍以上もの射程距離であり、伊東温泉から東京駅の距離に匹敵する。

 だがそれ以上に注目すべきは、これらの機体がありふれた民生品で構成されたハンドメイドだったことだ。動力は草刈り機のエンジン、胴体は木とプラスチック、爆弾は手榴弾(ロシア側はウクライナ製と主張)、電子機器は市販品であった。英エコノミスト誌等の見積もりによれば、これら機体の価格は数千ドル(約数十万円)でしかなかった。
 当初、ロシア軍の複数の戦闘機がダメージを負ったとの報道も出たが、ロシア側は被害は一切なかったと主張している。ただし、12月31日にも同空軍基地はドローン攻撃を受け、少なくとも2名のロシア軍人が死亡した。この他にも定期的な攻撃が行われ、何らかの損害が出ている可能性もある。

65年ぶりに航空機攻撃にさらされる大国

 この事件は、英エコノミスト誌が「自家製ドローンは既存の軍隊の脅威」として取り上げたほか、他の各種報道も大きく取り上げ、さまざまな専門家が論評している。
 では、なぜ、被害もよく分からない攻撃が大きな論議を呼んでいるのだろうか。それは、これまでは米中ロ等の大国にのみ許された「大国の軍隊への航空爆撃」という手段が、小規模な武装勢力によって安価かつ容易に可能になったことが、いよいよ証明されつつあるからである。

 従来、強固な防空網と航空戦力を備えた軍隊に空爆を行うのは不可能であった。あの地域大国だったイラク軍でさえ、湾岸戦争イラク戦争では米軍への空爆は実行できていない。それが2015年以降、ゲリラ組織が空爆を実行できるようになった。デビッド・パーキンス米陸軍大将の表現を借りれば「アマゾンで注文した200ドルのドローン」に爆弾を搭載し、実際に盛んに実施されている。イスラム国は2017年だけでも200以上の爆撃動画を投稿しているし、シリアやイラクの他の武装勢力も同様に多くの動画を投稿している。

 この事実がいかに衝撃的であるかは、いみじくも米空軍が今年1月4日に「我々の地上軍は、朝鮮戦争以来、65年間も敵航空機による攻撃を受けていない」と述べたことからも明らかである。要するに、65年ぶりに世界の大国は航空機による脅威に晒されているのである。実際、モスルに進軍中の米軍部隊はドローン攻撃を受けたという。
 特に彼らは回転翼式(クワッドコプター)ではなく、「Skywalker X8」等のような運搬能力に優れた固定翼タイプを使用し始めている。しかも、これらは安価に入手することが可能である。例えばSkywalker X8は2~3万円程度で入手できる。
 今回の事例は、まさにこの動向を象徴するものであった。インド国防省から資金提供を受けているシンクタンクIDSAの研究員、アトゥル・パンツ氏はこの事例について、「ここ数年来、安全保障アナリストは、テロリストによる膨大な無人機によるスウォーム(群れ)攻撃は、もはや『もしも』ではなく『いつ』『どこで』の問題であると言ってきた。この事件は、おそらく無人機によるスウォーム攻撃の始まりである」と指摘している。かねてからの懸念がいよいよ実現してきたということである。

民生ドローン攻撃は装甲車両も撃破可能

 今回の出来事の衝撃が大きいもう1つの理由は、民生ドローン爆撃の効果が馬鹿にならない可能性を秘めているからである。

米国防大学の上席研究員のトーマス・ハメス氏は「空軍の民主化」と題した2016年10月の論説で次のように述べている。

「30グラムの自己鍛造弾(EFP)は1.3センチの装甲板を貫通する。上から攻撃すれば、ほとんどの装甲車両を貫通できるだろう。しかも、GoProのようなカメラ付きなので、照準も容易だ。最近まで、EFP製造には精密機械加工が必要だったが、今や1000ドル以下の3Dプリンターで可能だ。これは、非国家主体が爆撃機を手に入れたに等しい。
 今やEFPは、燃料車や弾薬車、航空機を破壊して大爆発を起こしたり、レーダー、通信センター、指導者などを破壊することも可能である。我々は、動かないIED(仕掛け爆弾)を効率的に除去することに10年以上かかっているが、そのIEDが今度は空を飛び出したのである」

ドローンは鉄砲の再来に等しい

 筆者は、こうした民生ドローンの軍事転用は「鉄砲の再来」に等しいと考えている。
 民生ドローンや自爆ドローンよりも、迫撃砲のような在来の砲迫の方が優秀だと見る向きもあるかもしれない。確かにこれらの兵器は段違いの火薬量を叩き込めるし、熟練した兵士であれば高い性能を発揮できるだろう。

 だが、これらはドローンよりも移動が難しく、何より練度練成と維持に多大の労力を要す。例えば、自衛隊であれば、砲兵を育てるのに2~3年、高練度を望むなら4~5年はかかる。しかし、ドローンであれば1カ月も練習すれば爆撃可能である。
 また、迫撃砲は家電量販店では売っていない。ホームセンターで作るのも不可能だし、そもそも高価である。他方、ドローンは家電量販店やアマゾンで購入できるし、シリアの例が証明したように自作も可能だ。最近では、慣性航法装置も安価に入手できるので、改造すればGPS妨害を受けても爆撃可能である。
 これは、かつての弓と鉄砲の関係に似ている。初期の鉄砲は、雨天では使用できず、火薬がなければ撃てず、命中率は著しく劣った。他方、弓は熟練した人間が扱えば命中率は高く、雨天でも扱え、腕力が続く限り撃てた。しかし、結局、弓は銃に駆逐された。銃が誰でも扱えたからである。
 ドローンも同様で、誰でも使うことができる。しかも、迫撃砲よりも高い命中率を実現できる。また、敵地に潜入した工作員も含めて練度維持や補給もはるかに容易である。ジェームズタウン財団上級アナリストのマイケル・ホートン氏は、今回の事件の無人機が「ほぼ自動操縦であった可能性」を指摘しているが、これは将来的には練度維持すら不要になることを示唆している。事実、米国、イラン、イスラエルポーランド等が自爆ドローンを導入しつつあるのはその証左である。ハメスはドローンを「空軍の民主化」と指摘したが、けだし名言というべきであろう。