EV移行にワナ、エンジン軽視は危険 未来カーの行方 2040年のクルマ徹底予測

EV移行にワナ、エンジン軽視は危険 未来カーの行方
2040年のクルマ徹底予測(上)

日経Automotive_Technology
 環境規制の強化による電動化や自動運転技術の進化を核として、2040年に向けてクルマの技術は大きく変わる。一部の国でエンジン車は廃止され、無人運転車が街を走り回る時代を展望した。パワートレーンの動向を占う上でカギを握るのは、電気自動車(EV)の比率である。エンジンに強い日系自動車関連メーカーの行方を大きく左右する。
■EV比率は一気に高まらない
 17年、EVが普及していくとの見方でにぎわった。中国勢と欧州勢の「EVシフト」が鮮明になったことが大きい。中国が、19年から「NEV(新エネルギー車)」規制を導入すると決めた。大量のEVの販売と生産をメーカーに義務付ける。
 世界最大の自動車市場である中国の大胆な政策は、世界におけるEVの存在感を否が応でも高めた。欧州勢がEV化に走るのは、独フォルクスワーゲンを筆頭に中国市場のシェアが高く、「中国に乗らざるを得ない」(大手自動車部品メーカー幹部)ことがある。
 ただし30年までを見据えると、EVの比率は一気に高まらないだろう。新車販売に占めるEVの比率は、10%前後にとどまるとの見方が主流だ。電池価格は十分に安くなるが、「長い充電時間や少ない充電インフラの課題は世界中では解決しない」(大手日系自動車メーカー幹部)と考える向きが大勢である。
主要市場におけるパワートレーン構成の変化。日本、米国、欧州、中国、インドを対象にしたデロイト トーマツ コンサルティングの予測結果を示した
主要市場におけるパワートレーン構成の変化。日本、米国、欧州、中国、インドを対象にしたデロイト トーマツ コンサルティングの予測結果を示した
リチウムイオン電池セル価格の予測。セルの価格は下がり続け、2022年に100ドル/キロワット時を下回る。JPモルガン証券の資料を基に日経Automotiveが作成した
リチウムイオン電池セル価格の予測。セルの価格は下がり続け、2022年に100ドル/キロワット時を下回る。JPモルガン証券の資料を基に日経Automotiveが作成した
 主な調査機関による30年のEV比率の予測値は、1.6~26%と大きく異なる。ただ小さな値を弾き出すのは石油会社で、20%超と大きいのは一部の金融機関である。極端な値を「ポジショントーク」(国内自動車アナリスト)とみなして除くと、10%前後というのが大勢だ。
 EV比率は一気に高まらず、日系自動車関連メーカーがEVシフトに備える時間は十分にある。むしろEV化へと一気に舵(かじ)を切り、強みのあるエンジン事業を隅に追いやるほうが危険だ。10%前後では、既存のエンジン事業の利益ほどにEV事業の利益を増やせない。
■40年を見据えたEVシフトが順当
 日系メーカーが急いでEV化に走ると、中国勢を利することにつながる危険性も見過ごせない。エンジン技術の強みを早期に手放すことで、汎用化したEV関連技術で安さを武器にのし上がる中国の台頭を後押ししかねない。

 中国のNEV規制には、日系メーカーへの対抗意識が強くある。同国はEV化の狙いに大気汚染の改善を挙げるが、現実解となり得るハイブリッド車(HEV)をNEVの対象から排除する。トヨタ自動車ホンダが強い技術領域で、日系メーカーを利することを嫌った。30年までを考えると、日系メーカーは「中国と欧州のEV戦略に流されないこと」(ナカニ自動車産業リサーチの中西孝樹氏)が重要になる。
 中国勢と欧州勢のEVシフトに対し、日系メーカーは手をこまぬいていない。17年12月、トヨタパナソニックと電池開発で提携すると発表。自動車メーカーにとって中核の電池で日本連合をつくり、中国に依存しない仕組みを構築する狙いがありそうだ。
 20年代に世界で最も安いリチウムイオン電池を供給するのは、中国電池メーカーになる可能性が高い。今や「コモディティー(汎用品)」と言えるリチウムイオン電池は、量産規模が競争力を左右するからだ。中国メーカーはNEV規制を背景に、他を圧倒する巨額の投資で大量生産する計画がある。
 自動車メーカーの部品調達の原則から言えば、中国から電池を調達したいところ。だが日本への対抗意識が強い中国に中核部品の供給を頼るのはリスクが大きい。トヨタパナソニックとの提携は、中国メーカーの台頭後も日本で安定して電池を調達する足場を固める取り組みといえる。
 40年までを見据えると、EV比率が3割を超えて主流になる見通しが増える。調査機関の予測手法が「バックキャスト的」になることが大きい。CO2(二酸化炭素)排出量を50年までに10年比で90%減らすには、3割程度のEV比率が必要との「逆算」に基づく予測といえる。
 確かに温暖化対策を考えると、世界が目指すべき水準だ。最近では40年までに内燃機関を廃止するといった極端な意見が世界で飛び出す。日系メーカーは30年以降を見据えてEVシフトに動き、人材採用と育成、研究開発の投資を進めるのが順当な戦略だ。
■見通しにくいプラグイン車の普及率
 EV化は一足飛びに進まないが、HEVの比率は急激に高まる。爆発的に増えるのが、欧州勢が推す48ボルト対応の低出力な簡易HEVだ。20年代前半に1000万台規模、2030年半ばに3000万台規模に達すると見る。
 その後はEVなどに置き換わり減りそうだ。トヨタやホンダが強い高出力型HEVは、30年まで徐々に増えて1000万台規模になりそうだ。20年以降に48ボルト対応の高出力型HEVが登場し、同市場を後押しすると見る。
 電動車両の普及率で見通しにくいのが、プラグインハイブリッド車(PHEV)である。調査機関によって見方が真っ二つに分かれる。PHEVが伸び悩むと見通すのが、JPモルガン証券である。28年に最高値に達して600万台規模になるが、その後は失速すると予測する。米国や中国の環境規制が、PHEVよりもEVの普及を重視した制度であることを根拠に考える。
 一方でデロイト トーマツ コンサルティングは、30年に主要市場で1300万台規模、40年に6000万台規模になると予測する。高出力型と簡易型HEVの需要をPHEVが取り込むとみるのだろう。