(中)119機の小型無人機、無人潜水機…戦争の概念、躊躇なく変える中国

(中)119機の小型無人機、無人潜水機…戦争の概念、躊躇なく変える中国

 風車がそびえる広大な空き地。日差しを浴びながら、白に塗られた大量の小型無人機が寸分の狂いもなく横一列に並べられていた。無人機はやがて、1機ずつ猛スピードで自動的に空に舞い上がっていく。別方向に飛び、田園地帯やオフィス街の上空を自由自在に移動。照明を搭載した無人機は夜間も飛行でき、闇の中を無数の光が舞った。
 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(英語電子版)や欧米メディアが昨年6月に報じた同国の実験は、世界を驚愕させた。国有企業「中国電子科技集団公司」が人工知能(AI)を活用し、計119機の小型無人機の飛行に成功。米国防総省が同年1月に発表した103機の小型無人機飛行の記録を短期間で塗り替え、世界一の技術力を見せつけたのだ。
 一部のメディアは、この実験の様子とみられる映像を流した。映像とともに、無人機が地上の目標を爆破するシミュレーションの動画も公開された。
 映像を確認した元航空自衛官で軍事評論家の潮匡人(うしお・まさと)氏は「これだけの数の無人機が鳥のように滑らかな動きで等間隔で離陸し、正確に飛行する実験は世界でも例がない。技術力で軍事的優位を保ってきた米国が中国に追い越された衝撃的な瞬間だ」と指摘する。

 中国が狙うのは、大量の無人機を主力に航空母艦や航空機を攻撃する戦術の実現だ。人間の兵士は戦場から引き揚げ、無人システムに攻撃を遂行させる。敵に打撃を与える一方、自国の軍隊の人的被害を大幅に軽減できる仕組みだ。
 「中国はAIを使って、従来の戦争の概念を躊躇なく変えようとしている。人民解放軍には、AIに操られた無人機を戦争に利用することに対する倫理的な制約は存在しない」。米中の軍事問題などを研究する渡部悦和・元陸上自衛隊東部方面総監はそう断言する。
 119機の小型無人機の飛行が報じられた約1カ月後。中国が軍事拠点化を進める南シナ海の海底で活動する無人潜水機の姿があった。環球時報などによると、中国は昨年7月から約3カ月間、無人潜水機を使い、南シナ海の北東部で科学研究のため、データを収集する水中探索を行った。
 無人潜水機の名前は「海翼1000」。浮力を調整できる仕組みで、開発に携わった関係者は中国中央テレビ(CCTV)に「波やイルカのような(円滑な)動きだ」と潜水能力を自画自賛した。環球時報の取材に応じた中国軍備管理軍縮協会の幹部は「海翼1000は、中国海域の外国の潜水艦を探知するのはもちろん軍事任務をよりうまく全うすることにも役立つ」と指摘した。

 中国は、潜水艦の指揮を補佐するAIも実現しようとしている。香港英字紙のサウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は今年2月4日、中国が指揮官の潜在的な思考能力を高めるため、原子力潜水艦にAIを導入する取り組みに力を入れていると報じた。同紙は、AIが戦場の環境を評価したり、潜水艦の水中音波探知機(ソナー)の正確さに影響を及ぼす恐れがある海の塩分の度合いや水温についての知見を提供したりして、指揮官を助けると指摘した。敵の潜水艦の脅威を人間より早く正確に認識して警告することも可能で、中国政府は原子力潜水艦へのAI導入に多大な資金を投じているという。 中国科学者は同紙に「AIは水中(の戦争)を変えるゲームチェンジャーの潜在力を持つ」と強調した。
北やテロリストへ「拡散」の危機
 ダークウェブ。兵器や違法薬物などが、テロ組織の間で売買されている闇サイトがインターネット上に存在する。
 「AK47カラシニコフ自動小銃) 0・0753BTC」
 2月7日午後6時25分(日本時間)ごろ、ロシアや米国製の小銃約10種類が販売される英語の闇サイトが発見された。主に0・07台(当時のレートで日本円約6万4千円相当)前後のビットコイン(BTC)で売られ、写真付きで機能や重さが紹介されていた。

 サイトを確認したセキュリティー企業「スプラウト」(東京都)の岡本顕一郎氏は「誰でも入手経路を知られずに、兵器を購入できる。匿名性が高い仮想通貨が取引に使用されるのも特徴の一つだ」と話す。
 こうした事例はさらなる「悪意」のシナリオを暗示する。テロリストや独裁者が闇サイトを使って、AIの判断で敵を殺傷する「自律型致死兵器システム(LAWS)」を入手することへの懸念だ。専門家の間ではすでに「イスラム国」(IS)などの過激組織や北朝鮮が闇サイトを利用しているとの指摘がある。
 LAWSは実戦配備されていないが、先進諸国は水面下で開発を進めている兵器体系だ。米国やロシアに加え「中国も技術を高めているとみられる」(軍事評論家の潮匡人氏)。2015年7月に開催された学術会議「国際人工知能会議」は、技術的には「(LAWSの配備は)あと数年で達成可能だ」と予測した。
 AI専門家で、豪ニューサウスウェールズ大教授のトビー・ウォルシュ氏は、LAWSが闇サイトに流出すれば「世界崩壊のシナリオが訪れる」と警告する。「北朝鮮のような孤立した国家やテロ組織は規制の議論などお構いなしだ。最も残虐な手法で扱うだろう」
 国連軍縮担当上級代表・中満泉氏も、ダークウェブや立体物を複製できる3Dプリンターといった最新のテクノロジーが「(LAWSの)拡散リスクを高める」と指摘する。

 危険性が指摘される中、LAWSの拡散防止や開発などをめぐる規制作りは順調に進んでいない。
 昨年11月に、スイス・ジュネーブで開催されたLAWSの国際的規制をめぐる初の国連公式専門家会合。参加した約100カ国の間で溝が目立った。途上国がAI兵器の開発段階からの禁止を訴えた一方、米国は規制に向けた具体的議論は「時期尚早で逆効果になりかねない」と主張した。
 専門家として会合に招かれた拓殖大の佐藤丙午(さとう・へいご)教授は「米国やロシアなどは規制が自国の開発の足かせになることや、禁止に向けて急速に議論が進むことを警戒していた」と振り返る。
 規制に向けた議論を遅らせるのは、各国の「思惑」だけではない。LAWSが実用化されていないだけに、危険性が現実として伝わりにくい課題もある。
 「AI兵器が追ってくる。逃げろ!」。とある米国の大学。大量の小型無人機が講義室に侵入し、学生たちに襲いかかる-。
 同会合の議場では、LAWSの脅威を描いた短編映画が上映された。参加者からは「SFの世界の話としか感じない」という感想が相次いだ。
 道のりは長いが、規制を訴える意見は多い。
 「AIの『負の側面』と向かい合わなければ、罪のない人間が犠牲になる」
 米AI研究者のピーター・アサロ氏は指摘する。