日本独自の宇宙回収カプセル開発進む ISSの実験試料を迅速に研究者へ 有人船に応用も

日本独自の宇宙回収カプセル開発進む ISSの実験試料を迅速に研究者へ 有人船に応用も


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物資補給機「こうのとり」から分離後、大気圏に突入する回収カプセルの想像図(JAXA提供)

 国際宇宙ステーション(ISS)の実験試料を地上に持ち帰る日本独自の小型カプセルの開発が進んでいる。運用開始から今月で10年を迎えた日本実験棟「きぼう」の成果を効率よく上げるのが狙いで、来年度に初の回収実験に挑む。(草下健夫)
来年度に打ち上げ
 宇宙航空研究開発機構JAXA)が開発する試料回収用の小型カプセルは、円錐(えんすい)に近い形状で直径84センチ、高さ66センチ。来年度に打ち上げる物資補給機「こうのとり」7号機に搭載してISSに運ぶ。飛行士がきぼうの実験で得た生命科学や材料などの試料を収納し、こうのとりの機体表面に取り付ける。
 こうのとりがISSを離脱した後、高度約300キロで地上からの信号によりカプセルを分離する。大気圏突入時にさらされる高熱に耐えて降下し、落下傘を開いて太平洋の小笠原諸島沖に着水。船で回収し、内部の試料を研究者に届ける。
 こうのとりは物資補給で重要な役割を果たしているが、輸送は片道切符だ。物資を運んだ後は大気圏で燃え尽きて廃棄され、荷物を持ち帰ることはできない。
 日本がきぼうの試料を回収するには米国やロシアの宇宙船に頼るしかなく、回収の機会や量の制約が大きい。カプセル開発に取り組むJAXAの田辺宏太チーム長は「鮮度が良い状態で迅速に研究者に届ける必要がある試料でも、海外から運ぶため輸送に時間がかかっている」と話す。

シャトル退役が誤算
 試料回収が課題となった背景には、ISS計画の誤算がある。約15トンの荷物を持ち帰ることができる米スペースシャトルが11年に退役したことで、きぼうは回収の屋台骨を喪失。現在は回収能力が約1・5トンの米国のドラゴン宇宙船と、約50キロのロシアのソユーズ宇宙船があるだけだ。
 創薬や新材料の開発を目指す実験では、試料を持ち帰り分析することが重要だ。カプセルの実用化で日本独自の回収手段を獲得し、きぼうの成果拡大につなげる狙いがある。
 ただカプセルの回収能力はわずか約20キロ。試料を冷蔵する場合は5キロ足らずだ。JAXAは回収能力1・6トンの帰還型こうのとりの開発を過去に検討したことがあるが、これと比べれば微々たる量で、他国に頼る状況は変わらない。
 それでも開発を進めるのは、きぼうが実験の成果をめぐり正念場を迎えているからだ。ISSの運用は24年で打ち切られる可能性があり、JAXAは一部の実験テーマの基準を「早く成果が出る実験」に変更するなど、残された時間で結果を出そうと躍起になっている。費用対効果が問われる中で、カプセルがどこまで貢献するかは未知数だ。

有人船に応用も
 「カプセルで見込んでいるのはISSからの試料回収だけではない。将来の応用が期待できる」と田辺氏は強調する。
 政府は昨年12月、将来の火星探査も視野に入れた米国の有人月探査構想への参加を検討する方針を決めた。月や火星の岩石などを地球に持ち帰る際、今回のカプセルの技術が役立つ可能性がある。
 日本が将来、有人宇宙船を開発する場合の基礎技術にもなるという。カプセルは小型エンジンで姿勢を制御することで減速し、試料への衝撃を和らげながら降下する。これが有人船で飛行士を守る技術につながるからだ。
 探査機「はやぶさ」は小惑星の物質回収に初めて成功したが、弾道のように降下するだけで、今回のカプセルに採用する姿勢制御機能はなかった。
 「この技術が日本の有人宇宙船開発の最初のステップになるかもしれない」と田辺氏。その言葉にはISSから得られる知見を最大限に高め、将来の日本独自の有人飛行に望みをつなぎたい切実さもうかがえる。小さなカプセルに込められた思いは大きい。