責任の所在、高裁判決が百八十度転換 東北特派員・伊藤寿行

責任の所在、高裁判決が百八十度転換 東北特派員・伊藤寿行

大川小訴訟控訴審の主な争点に対する主張と判断
大川小訴訟控訴審の主な争点に対する主張と判断

 大川小訴訟の控訴審で仙台高裁判決は、法的責任の所在を教職員個人から組織としての学校、教育委員会に転換した。
 高裁の裁判長は控訴審初日の協議で「本件は教員個人の責任の限度を超す」と述べたという。早い段階から責任の転換が頭にあったことがうかがえる。
 何の落ち度もない74人の児童が教職員の避難誘導中に津波にのまれて絶命した惨事だ。
 司法は「法と証拠に基づく」原則があり、それを逸脱した司法判断は示せないが、結果の重大性を考えれば「誰も責任を取らなくていい」という結論は「法の番人」といえども出しにくい。
 責任を教職員に求めた1審判決に対し、高裁は全責任を教員が負う配分は「均衡を欠き、教職員に酷すぎる」とみたのだろう。「学校と教育委員会の事前の備えが不十分だったことが惨事を招いた」と責任を個人から組織に百八十度転換させた。
 大川小の事故では児童だけでなく、10人の教職員が命を落とした。「先生に殺されたようなもの」とされ、遺族は肩身の狭い思いをしている。1審判決で深手を負った遺族は高裁判決で十字架から解放された。
 高裁判決は組織責任を認める根拠として、津波予見可能性の生じた起点を大幅に早めるなど行政に厳しいハードルを突き付けた。「防災行政の根幹が揺らぐ」と行政側の反発が予想され、教育行政の防災をめぐる議論は最高裁に持ち込まれる可能性がある。