何度日本に謝らせたら気がすむのか
何度日本に謝らせたら気がすむのか―米在住韓国人からも慰安婦像設置に疑問の声「米国と何の関係がある、恥ずかしい」
じっとしていることができない私は、東洋食料品店の韓国人店主から是非にと頼まれ、時間があれば手伝っている。
働く日も時間帯も自由で、必要な食料品を調達して帰宅する。
マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学に近く、興味深い人々が客としてやって来る。彼らと談笑することは、学ぶことが多く、また人生を豊かにしてくれている。
この店に、週末になると大きなビニールの袋をカートに乗せてくる50代半ばで身なりの良い韓国人女性がやってくる。
ただ、袋の中身はあちこちのごみ箱から拾い集めた汚い衣類や靴、お菓子など雑多なもので、これをナイロンの小袋に詰めて毎度、私たちにくれる。
「塵だから置いていくな」と店員が語気強く言っても、他人と意思疎通をしない彼女はどこ吹く風。毎度、同じことを繰り返す。
店員は、誰も彼女を相手にせず、名前も素性も知らないそうだが、学歴があることは、確か。なぜかというと、時折、難しい時事問題を流暢(りゅうちょう)な英語でまくし立てるので、思わず耳をそばだててしまうことがあるからだ。
■ボストンにも慰安婦像設置の動き
ある日、店内で彼女がボストンで週に1回発行される韓国系の新聞「ボストン・コリア」をたたきながら声高に1人憤っていた。
店主の説明では「何度、日本に謝らせたら気がすむのか。慰安婦像が米国と何の関係がある。建てたかったら、自分の国内だけにしろ。韓国人として、彼らの行動は本当に恥ずかしい」と演説していたそうだ。
その指摘が真っ当なことに驚かせられた。
彼女を怒らせた記事によると、ボストン地域の大学の韓国人学生たちが、自主組織を立ち上げ、ボストンに慰安婦像を立てることを目指すという。
慰安婦像の設置には費用がかかり、場所も探さなければならないが、学生たちは実現に向けて積極的なようだ。
学生たちは、慰安婦問題を人権侵害問題とし、苦痛を世に知らせて繰り返されないよう歯止めをかけることが目的だという。州議会に許可を得ることも目指すようだ。
■「情けない。私の国はいつまで蒸し返す」
記事では、打算で尻込みにする大人たちの中で立ち上がった学生たちを持ち上げている。
この記事を訳してくれた韓国に住む88歳の友人であるR氏は「学生の本分は勉強です。勉強に身を入れていれば、こんな運動に費やす時間はないはずです」と同氏の考えを話していた。
そしてこう嘆いていた。
「情けない。私の国は、70年以上前のことを、いつまでも蒸し返す。これでは何の前進もありません」
そして、ゴミを持ってくると思えば、なめらかな英語で時事問題を語り自分の世界に生きているあの女性の正論が心に残る。
「何度、日本に謝らせたら気がすむのか」
「慰安婦像が米国と何の関係がある」
「建てたかったら、自分の国内だけにしろ」
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ここからは私のがんの治療に関するお話です
私は去年の7月10日からロッシュ社の肺がん免疫治療薬アテゾリズマブ(米国名)による治療を受けている。そして、いよいよ日本でも中外製薬から「デセントリク」として今年の4月18日に発売となった。
驚かされたのは、薬名こそ違えど、同じロッシュ社の免疫薬でありながら1回分の価格が62万5567円と米国の4分の1以下の価格で販売されること。
私は、半年に渡って週に1度受けていたケモ治療(抗がん剤治療)に効果が見られず、グンツール女医から最新の免疫治療を始めると説明を受けたのが、去年の6月末だった。
その時「高価な薬なので、保険会社に申請をして、承認を得る必要があります」と聞かされた。
“高額”とは、100万円くらいかと想像していたが、後日送られてきた初回の治療明細書の金額に、目を見開いて数字を数え直した。
1回分1200ミリグラムの薬代が2万5860ドルと書かれている。日本円に換算すると、270万円を超え、日本の発売価格の4倍以上となる。
この薬代金の上に、何やかんやと付属費があり、1回の治療費は、290万円近くとなる。5月11日までに受けた免疫治療の回数は19回。概算すると、これだけで5500万円となる。
そこに1回100万円のPETスキャンを4回受けているので、今日までの免疫治療費の総合計は5900万円にもなってしまう。
8年前の申請で、それまで民間の保険会社に毎月支払う7万円の保険額の半分以下で最高のパッケージが選べた。それを選択したおかげで自己負担は全くない。
それにしても、この驚異的な価格差は、どこから生じるのかと、中外製薬に問い合わせのメールを出してみた。
さすがに日本のサービス。翌日に、丁寧な返事を受け取った。
「薬価につきましては、各国で算定方法が異なっており、各国間の差について一概に申し上げられるものではございません」
「日本の薬価は62万5567円であり、これはテセントリクに先立って発売されておりますオプジーボを参考とした類似薬効方式に基づき算定されました」
「一方、米国は、先発医薬品は画期性、有効性、安全性、マーケットシェアなどを考慮して、製薬企業が自由に価格設定・変更を行うことが可能です。また、販売価格は製薬企業と保険者との交渉で決定されるため、同じ医薬品でも購入者ごとに販売価格が異なっております」
次の治療日に、この2社の価格差をグンツール女医に話して驚く顔を見るのが楽しみだ。
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【プロフィル】新田多美子(Tamiko Arata) 大分県津久見市生まれ。73歳。1983年に米ボストンに移住し、日本などからの留学者向けに住居の手配、生活用品の買い物、車購入と自動車保険など生活の立ち上げサービスの仕事をしている。
現在は、がん治療を受けながら働く毎日。治療では、スイスのロッシュ社による新薬の免疫チェックポイント阻害剤「アテゾリズマブ」を使っている。早く認可が出た米国で、実際の治療を通して知見が得られている最新治療を受けることを聞いた私の回りの日本医師たちは、口をそろえたように「幸運だ」と言う。
日本が恋しいわけではないが、誰よりも日本を愛し誇りに思う。ボストンから見る日本や、少し変わった日常の出来事などをコラムにし、日本ではまだ認可されていない最新のがん治療の様子も紹介していきます。