国際金融市場で最も注目される経済指標は?

国際金融市場で最も注目される経済指標は?
佐藤大編集委員

スグ効くニュース解説
2018/5/29 6:00
 国内外で毎日たくさんの経済指標が発表されます。全部はフォローできません。世界経済の行方を占ううえで、どれか重要な指標はありますか。
回答者:佐藤大編集委員 国際金融市場の関係者の間で、断トツに注目度が高い指標があります。米国の雇用統計です。
パウエルFRB議長(右端)も米国の雇用統計の行方には気をもむ
パウエルFRB議長(右端)も米国の雇用統計の行方には気をもむ
 米労働省が毎月最初の金曜日に前月分を発表します。5月分の統計は今週末の6月1日(金)に発表されます。
 注目されるのはなぜか。身もふたもないのですが「(米国の中央銀行である)連邦準備理事会(FRB)が金融政策を現状維持あるいは変更するうえで重要視している」からです。FRBの金融政策は米国内にとどまらず世界の通貨、債券、株式、商品マーケットに大きな影響を及ぼします。
 FRBの動きを先読みしたい市場関係者は雇用統計の変動に一喜一憂するわけです。
 米雇用統計は10以上の項目に分かれた大型統計です。そのうちウオッチしておくべき項目は3つあります。
 (1)非農業部門の雇用者増加数(前月比)
 (2)失業率
 (3)賃金上昇率(前年同月比)
 このうち最も大事(ヘッドライン=見出し)とされるのは(1)。増加数が「20万人超」だと米景気は好調で、「10万人超」だと安定。これが「マイナス」に落ち込むようだと米景気の行方は不穏とおぼえておいてください。
 (2)は日本の総務省も毎月発表しており、おなじみでしょう。5月4日発表の4月の雇用統計で、米失業率は3.9%に低下しました。
 17年ぶりの3%台だったのでトランプ米大統領はすっかり興奮。「4%の壁をついに突破したぞ。我々はすごく良い仕事をしている!」と誇示しました。でも事前に失業率の改善は予想されており、市場は反応薄でした。
 一方、今年に入って雇用統計がもたらす「破壊力」を端的に示したのは2月2日に発表した1月の雇用統計でした。
 市場の想定外だったのは(3)です。賃金上昇率が前年同月比2.9%となり2009年以来の高い伸びとなりました。市場の事前予想は2.6%の上昇でした。
 わずか0.3ポイントのずれです。しかし、予想以上の賃金の上昇はインフレ加速を想起させます。市場はFRBが金融引き締め(政策金利の引き上げ)を急がざるをえなくなると警戒して一斉に債券を売りました(金利が上昇)。
 急な金利上昇は景気や企業収益を冷やすので、株価が急落。世界で圧倒的な存在である米株式市場の変調は、世界に波及しました。2月の世界同時株安の起点は米雇用統計だったのです。
 足元ではどうでしょう。今週末発表の5月の雇用統計にも市場の注目は集まっています。
 2月の株安は乗り切りました。でも「一体どこまで米景気は強いのか」あるいは「過熱気味なのか」――。FRB内部でも利上げの進め方について自信を持てないでいるからです。
結論:「ぶれが大きい」など批判もありますが、米雇用統計は極めて優れた指標です。特に「非農業部門の雇用者増減数」の推移は、過去の米景気の後退局面入りを、ピタリ予告しています。
あすはGDPRを取り上げます。

佐藤大和(さとう・やまと)
 1993年日本経済新聞社に入社。経済部、ロンドン、シンガポール、ニューヨーク駐在記者などを経て、2016年から編集委員論説委員。金融取材の経験が長い。専門は内外金融