見直すべき空中給油機の価値

見直すべき空中給油機の価値

 2018年現在、航空自衛隊ボーイング767を原型とする空中給油機KC-767を4機保有しています。また同じくボーイング767を原型とするKC-46をさらに3機導入することを決めており2020年代には合計で7機を保有することになります。この7機はローテーションで計画整備を行うため、実際に同時に運用可能な機数は恐らく5機程度となるはずです。
Large 180511 ref 01 航空自衛隊のKC-767(中央右上)とF-15J(画像:航空自衛隊)。
 この5機という数字は、航空自衛隊保有する練習機型も含めた戦闘機およそ340機を支援するにはあまりにも少なく、戦闘機保有数あたりの空中給油機保有数は先進国でも最低クラスです。このままでは本格的な侵略が合った場合、深刻な空中給油機不足によって戦闘機が能力を発揮できない事態に陥ることが考えられます。特に性能を減じてしまうであろう機種が最新鋭のF-35であり、せっかくのF-35の高性能が宝の持ち腐れになりかねない状況にあります。
 なぜ空中給油機が少ないとF-35は性能を発揮できなくなってしまうのでしょうか。それは現代型戦闘機の任務が長時間化している事実にあります。
 映画などフィクションではまず出撃前にブリーフィングが行われ、パイロットらを集めて作戦の目的や護衛対象であったり破壊対象であったりを説明した上で出撃する、というような描写がよくあります。ところが現在のアメリカ軍やその同盟国における実際の航空作戦では、こうしたブリーフィングはかなり簡素化されており、せいぜい気象など飛行に最低限必要な情報だけが伝達され、作戦目標自体を定めないまま発進することがほとんどです。

戦闘機の任務はなぜ長時間化しているのか

 なぜ作戦目標が定められていないのかというと、たとえば何かを爆撃する必要が生じた場合はネットワークシステムを活用し、最も近くを飛んでいる誘導爆弾を搭載した戦闘機や爆撃機に、必要なデータを送って作戦を実行させているためです。
 これならば作戦立案から数分という短い時間で対象を破壊できます。従来のような地上で作戦を立案しそれから戦闘機や爆撃を発進させてといった手順を踏んでいては、どんなに早くても攻撃は翌日以降となるでしょう。一方その代償として、戦闘機は長時間空中待機を行わなければならなくなっているのです。
Large 180511 ref 02 伊空軍のKC-767と同空軍および英空軍のユーロファイター「タイフーン」。2011年のリビア空爆ではイタリアから出撃し地中海を縦断して任務にあたった(関 賢太郎撮影)。
 一例として2011(平成23)年に行われたリビア空爆における、イギリス空軍のユーロファイター「タイフーン」を見てみましょう。ユーロファイターの作戦は平均6飛行時間、最大9飛行時間にも及び、例えば6飛行時間の作戦では最低3回の空中給油が必要でした。こうした事情は、ネットワーク能力に著しく欠いた前時代的なロシア軍戦闘機以外はほとんど同じです。
 長時間の作戦はパイロットにとって、肉体的にも精神的にもかなり厳しい作戦です。かつて太平洋戦争においてラバウルに駐留した零戦パイロットらは、往復8時間をかけてガダルカナル島へ進出したことで知られ、非人道的な酷使であったとみなされることが多いようですが、皮肉なことに現代ジェット戦闘機のパイロットらは当たり前のようにこうした長時間にわたる任務をこなしています。
 現代はラバウルとは違って、食べるものは十分に確保できますし、マラリアなどの病気も心配ありません。またエアコンも搭載しているので負担はかなり違ってくるでしょう。それでも日常的に作戦を行う上での人間の限界は、だいたい6飛行時間から9飛行時間程度であり、こうした過重労働は長期間続けることは不可能で、解決すべき大きな問題となっています。

「補給なしでは誰も何もできない」

 F-35は情報収集能力やネットワークを活用した、情報共有能力に優れた戦闘機です。長時間空中待機し、ネットワークを経由し迅速に任務をこなす、こうした運用方法を行うことによってはじめてその能力を発揮できます。またF-2F-15にもネットワークを組み込む近代化改修が行われており、有事の際には、要求される1回あたりの飛行時間はやはりかなり長くなってくるはずです。
 しかしそれは空中給油機があっての話です。無ければそれも不可能であり、20世紀的な戦い方しかできなくなります。
Large 180511 ref 03 嘉手納基地(沖縄県)にて「エレファント・ウォーク」を行う米空軍のKC-135空中給油機。空自戦闘機は彼らの支援に完全に依存することになるだろう(画像:アメリカ空軍)。
 アメリカ空軍空中給油機部隊にはこんなモットーがあります。
「俺ら無しでは誰も何もできない(Nobody Kicks Ass Without Tanker Gas)」
 アメリカは全世界の8割を占める約600機の空中給油機を保有しています。もちろんこれを日本と直接比較することはできないものの、あまりにも少なすぎる航空自衛隊の空中給油機保有数はもっと真剣に議論されてもよいのではないでしょうか。いま現在、航空自衛隊は「彼ら(米空軍空中給油機)無しでは誰も何もできない」状態なのですから。