「空からのテロを防ぐ」ドローン迎撃システム、米海兵隊が実用化
「空からのテロを防ぐ」ドローン迎撃システム、米海兵隊が実用化
米海兵隊が無人機(ドローン)を迎撃するシステムを実用化し、対テロ任務に投入していることが今月、明らかになった。オモチャから空撮用途に、さらには宅配にと実用化が進む無人機(ドローン)だが、その高性能ゆえにテロの道具として使われる恐れが現実化しているためだ。ドローン迎撃システムは今後、万博やG7、五輪など国際的なイベントや会議では必須の装備ともなりそうだ。(岡田敏彦)
正確な危険度評価
米国海軍協会(USNI)ニュース(電子版)によると、このドローン迎撃システムはレーダーや電子線装置、迎撃用無人機などで構成されている。具体的には、目となるレーダーはイスラエルに本部を置くRADA社のSバンドレーダー「RPS-42戦術航空監視レーダー」で、その性能は驚異的だ。探知エリアは半径30キロメートルで、高度10メートルから1万メートルまでを探査し、その範囲を飛ぶ無人機を極小、小、中、大などサイズ別に把握。他の航空機についても戦闘機やヘリコプター、輸送機など大まかに判別できるとされる。このサイズ分けは、ドローンによるテロを防ぐ観点からは重要だ。
無人機(UAV)が主にドローンと呼ばれはじめた背景には「アンマンド・アエリアル・ビークル」という名が男女差別にかかわるためだとされるが、この新名称が広まる時期は、その高性能化が顕著になった時期でもある。
当初は子供のおもちゃレベルで、その機能はただ飛ぶだけ。エンジンを動力とする農薬散布用の無線操縦式無人ヘリコプターなどと比べるにはお粗末すぎる性能だったが、電池やモーター、ジャイロ機構の安価・高性能化によりデジタルカメラを搭載し空撮ができるまでに進化するのに時間はかからなかった。
いまでは民放の番組で空撮動画が使われることも珍しくなくなった。米国では通販会社が宅配に用いようと計画し、果ては無人タクシーのプランまでもちあがっている。ここで問題となるのが、そのペイロード(運搬可能重量)だ。もはや爆弾を積んで自爆攻撃に使えるだけの性能がある。
敵も使う
同サイトによると、今年1月には過激組織「イスラム国」(IS)が、武装した手作り(原文ではDIY)ドローン10数機によってシリア領内にあるロシア軍の飛行場を攻撃した。これらはヘリコプター型ではなく固定翼、つまり普通の飛行機の形状で、ロシア政府の公表した捕獲写真によると、大きなラジコン飛行機といったものだった。これが高性能化し、精密かつ独立した航法装置を備えれば大問題だ。
しかし、実際にはその「大問題」を実現した無人機はいま、通販で20~30万円で買えるのだ。大きな機体なら、カメラでも爆発物でも運べる。
こうした大型ドローンと、子供が戯れに飛ばしたおもちゃのドローン-それには物を運ぶ能力はない-の危険度を同等に評価するようでは、現実のテロ防止には使えない。「敵」が安価なオモチャのドローンを囮(おとり)に使い、迎撃を混乱させる恐れもある。RADA社のシステムの「大中小」の識別の重要性はここにある。
使い捨ての迎撃機
当初は広大な海洋を偵察するためのもので、対潜哨戒機の潜水艦探知センサー(ソノブイ)射出口から発射できる安価な使い捨ての無人機として開発された。2016年のデモ飛行では20機以上のコヨーテが自律的にチームワークを発揮して哨戒海域を飛行し、17年には6機による台風(ハリケーン)の監視に成功している。米海兵隊が用いるのはこのコヨーテの発展型(ブロック2)で、敵のドローンに衝突するか、もしくは至近で自爆し、その破片でドローンを撃墜するという。
米海兵隊のシステムは、SUV並の大きさの、連携した車両2台に搭載できる小型システムで、迅速な配備が可能となっているのも特徴だ。
現在、民間のドローンでも最高時速は300キロを超えるものまで登場しており、ドローンによるレースといった趣味の分野も広がっているが、たとえ時速100キロでも人に当たれば無事では済まない。
ドローンによるテロや犯罪を防止するため、今後は軍だけでなく、警察や民間の警備会社にも、ドローンを“無力化”するシステムの必要性が高まるとみられる。