「弁護士は余っている」は本当? データを読み解く

「弁護士は余っている」は本当? データを読み解く

法務・ガバナンス
2018/7/18 6:30 日本経済新聞 電子版
 国内の弁護士が2018年1月、4万人を超えた。(「弁護士4万人突破」の記事へ)司法制度改革で「法曹人口拡大」が掲げられ、司法試験の合格者数が増えた結果、15年前と比べて倍増した。これに対し、日本弁護士連合会(日弁連)は「弁護士の仕事は増えていない。法律事務所に就職できない新人も多い」と訴えてきた。弁護士の人数は本当に余剰なのか。データから読み解く。
 
 弁護士の役割としてまず思い浮かべるのは、裁判で代理人を務めることだろう。2016年に全国の地方裁判所(地裁)が受け付けた民事訴訟は約14万8000件で、09年と比べると4割近く減った。消費者金融などで払いすぎた利息の返還を求める「過払い金訴訟」を除いても、ほぼ横ばいだ。日弁連が指摘する通り、「従来型の需要は増加するどころか近年減少を続けている」という面はある。
 
 しかし弁護士の仕事は法廷の中だけではない。M&A(合併・買収)や新規事業進出の法的チェックなど、企業法務の需要は拡大している。企業が雇用する「インハウス弁護士」は2000人を超え、10年間で10倍になった。(「企業内弁護士、10年で10倍に」の記事へ)日本企業のグローバル化に対応し、「5大事務所」と呼ばれる大手法律事務所は海外オフィスを相次ぎ開設し、採用も増やしている。(「西村あさひ法律事務所がニューヨーク進出」の記事へ
 
 新人弁護士の多くが大手事務所をはじめとして大都市で就職する結果、しわ寄せが地方に生じている。全国には東京に3つ、その他は地裁管内に1つずつの計52弁護士会があるが、このうち12の弁護士会では2017年の新人登録がゼロまたは1人だけだ。相続や離婚、交通事故など身近な法的ニーズに対応しきれない事態が生じるおそれもある。(「島民の問題解決に奔走」の記事へ
 
 司法試験の合格者数は2013年までは2000人を超えていた。一方、総務省は12年「弁護士の供給過多で就職難が発生し、質の低下が懸念される」として法務省などに見直しを勧告。さらに政府の法曹養成制度改革推進会議の決定を受け、16年以降の合格者数は年1500人台に絞られた。(「司法試験合格者1543人 17年」の記事へ)合格発表は毎年9月。日弁連は増員抑制を歓迎しているが、需要を満たせるか。
 日本経済新聞の2017年の調査では、66%の企業が法務部門を増強する意向を示した。(「インハウス弁護士 重視」の記事へM&Aや知的財産を巡る海外企業との紛争も増加傾向にあり、法務人材は、日本のビジネス環境に欠かせないインフラといえる。司法試験合格者数を増やすだけでなく、志願者が減っている法科大学院の立て直しや、司法修習のカリキュラムの改善などを含む法曹養成制度全般の見直しが急務だ。(田中浩司、江藤俊也、児玉小百合、植松正史、大島裕子、亀井亜莉紗、野元翔平)